いつのことだろう、彼に敬愛の念を抱いたのは、きっと物心ついてからずっとだ、純血主義を疑うことも(もっとも自分の血統は今でも誇りに思っている)、彼を疑うこともなかった、言われるがまま信じてきたんだ、受動的だった。僕は世の中の何もが、誰もが、親さえあの方より優れたものではないと頑なに考えていた。考えていた、っていうのは違うな、僕には使えない言葉、だって、今、この状態は、僕が無知で盲信していたが故の事態なんだ。あの方の中に息を潜める横暴さを見抜けなかった。地位を高め、ヒエラルキーの頂点でいることに慣れたがための傲慢さを露呈しているのだろう。いや、もしかしたら彼が純血主義に至り穢れた血の排除という活動に着手した当時からの気質かもしれない。とにかく、僕はあの方の、ヴォルデモートのこの気質に気づかずクリーチャーを、大切なクリーチャーを差し出してしまった。クリーチャーが帰ってきた時にはもう遅かった、クリーチャーの変わり様にすっかり気づいてしまったのだ、ヴォルデモートの横暴さを。僕はクリーチャーに取り返しのつかないことを命じてしまった、後悔したが、僕の信仰が奴に戻ることもないので、今から僕はさらに取り返しのつかないことをしようと思う。



そうだ、これをもしも知る事があったら、先輩は、なまえ先輩はなんと言うだろうか。2年前の彼女の卒業以来顔を合わせていないが、こんな時になってふとホグワーツで交流のあった先輩を思い出した。ゴドリック・グリフィンドールの子孫だというなまえ先輩の行動の全ては、創設者に裏打ちされていた。各寮に組分けられた者は寮の徳目を重んじ、創設者の期待に答える人物に成長するのが責務だ、と。グリフィンドール寮に組分けされた先輩が勇猛果敢の信念を貫くことを根幹に据えたのは言うまでもない。いつだったか、僕がヴォルデモートへぶれることのない信頼を置き、意向にそぐうことを自分の道とすることを話した時、先輩は断固たる決意が素晴らしい、と褒めて応援してくださった。これはサラザールがスリザリン生に求める才能の一つだったらしい。彼女自身純血主義でも奴を信仰するわけでもないが、そういう人だったのだ。僕のこの点を気にいってくれたらしく、度々会っては良くしてくれた。にもかかわらず、僕はヴォルデモートに失望し裏切りを企てている。今の僕の有様を知ったら先輩の評価もあっという間にガラガラと音を立てて崩れ去るのだろう。お前の決意はこの程度だったのか。そう言って顔をしかめるなまえ先輩が容易に想像できた。嫌だな、でも、しょうがないんです、気づいてしまったから、後には戻れない、しょうがないんだ、スミマセン、先輩、なまえ先輩。





さて、分霊箱という僕の最後の予想は的中したようだ。奴に一矢報いよう。そして僕は愚かで浅はかだった自分を抱いて、これから、死ぬ。時が来るまで誰にも真実が伝わることはないだろう。事の顛末全てが知られることは、永遠にないだろう。ただ、もし向こう側の世界があるのなら、そこでなら話を聞いてもらいたいかな。





「さあ、クリーチャー。僕との約束は理解したね、誰にも話してはいけないよ。いいね」


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テーマ「人外ファンタジー」
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