聞き覚えのある声で、いつになく焦った音が聞こえてくる。廊下の手すりから顔だけ乗り出し、音源を辿って吹き抜けの下を見下げてみる。そこにいたのは一つ上のスリザリン生と4人のグリフィンドール生ーーー悪戯仕掛け人だ。身動きがとれず宙に浮く先輩、あの人達もこんな悪戯をよくも飽きずにやるもんだ。

「君のお兄さんはよくも飽きずにやるもんだね」
「僕に兄はいませんよ、なまえ先輩」
「ごめんごめん」

言葉に反して声に謝罪の色はない。いつの間にか横に並び、僕と同じように階下を覗くのは、なまえ先輩。首には赤と金のネクタイがきっちりと結ばれている。

「それにしてもまあ酷いことをするよ、感心出来ないなあ」
「先輩以外のグリフィンドール生は皆あっちの味方ですよ」
「残念なことにね」

悪ふざけのすぎる悪戯もするが、中心となって生徒を盛り上げ、ホグワーツを賑わせているのもまた彼ら。スリザリン以外では圧倒的に支持の声が大きい。歓迎され人気者である悪戯仕掛け人の愚行に顔をしかめるなまえ先輩は確かにマイノリティだった。

「陰湿な嫌がらせしちゃってさ、騎士道に反してると思わない?寮に所属する以上、グリフィンドールの教えは守ってほしいんだけどねえ」

ほら、わたしの信条は創設者の意を守ることだから。
ね、と首を傾け微笑む先輩。知ってます。あなたがそういう人だったから僕らは寮が違ったってこうして穏やかに友好関係を結んでいるんですよ。


不意に感じた鋭い視線。目を移す。その先にいるのはシリウス、非難するように睨んでいる。視線を感じたとはいったが、その受け手は僕ではないのではないか、少し横に外れなまえ先輩に向けられているようだ。どくんと胸が一度だけ大きく鳴った。グリフィンドールとスリザリン、僕らの関係をシリウスは面白く思わないだろう。そして彼が僕に干渉することは決してない、とすると必然的に対象はなまえ先輩のみ。スリザリン生に向ける敵意をなまえ先輩に向けるようになったらーーー


「それならば先輩」
「ん?」
「グリフィンドール生とスリザリン生の関係も、継いだ方がいいのではないですか」

一拍の間。さっきの視線を、なまえ先輩も気づいたはずだ。次に先輩の口から出るであろう言葉が怖くて、顔を合わせることが出来なかった。僕らの友好もここで終わりか。

「レギュラス!」
「うわ!」

ボンと頭に衝撃を感じた、なまえ先輩の手だ。そのまま乱雑に撫でられる。強引に揺さぶられたおかげで髪もぐちゃぐちゃだ。先輩の笑い声が聞こえ始めたところで、ようやく手が離れていく。訳がわからなくて顔をあげると、口に弧を描き至極嬉しそうな先輩が映った。

「ゴドリックとサラザールはその昔、断琴の交わりを結んでいたんだよ。こんな関係を継いでもいいんじゃないかな」

顔が熱を帯びるのがわかった。なるほど心中全て、お見通しだったようだ。もしなまえ先輩に害が及ぶことがあっても大丈夫だろう、ただの杞憂、先輩ならものともしないかもしれない。僕の不安を読み取った先輩の子供を甘やかすような行動に、少し気恥ずかしい思いはしたが、不思議と悪い気はしなかった。





「ありがとねレギュラス」
「・・・なにがですか」
「なんでもないよ」
「・・・はい」



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