「猫、ですか」
「はい、もう何日も帰っていなくて・・・」


受けた依頼は迷子猫の保護。本来ペットの捜索は受け付けてないが、引き受けたのは仕事に余裕があったからだ。ベンガルで豹柄の斑、特徴的な見た目でよかった、猫は探しにくいのだ。依頼主さんが帰った後、資料を整えつつ計画を立てる。保護センターや各施設へは事務さんに電話してもらって、わたしは外を見てみよう。

さて、まずは依頼主さんの家周辺からあたってみようか。コートを羽織り、所長に一言伝えて事務所を出る。と、大きな悲鳴が聞こえた。あの依頼主だ。





「俺は猫アレルギーが酷すぎて怪人になってしまった!許せん!悪である猫は皆殺しだ!!」

斜向かいの小さなビルの前にいたのは、怪人。手には2匹の猫。左手には黒猫、右手には豹柄の、猫、が。

「探偵さん!あの子です、あの子がわたしの猫なんですー!」
「わかりました。必ず取り戻します」

写真で見た姿そのままの猫。取り乱す依頼主さんの肩を抱いて落ち着かせながら怪人に向き直る。

「アンタ、怪人ならわたしの顔くらい知ってるね?大人しくその猫を返しなさい」
「くっ・・・」

たじろぐ怪人に向かって歩み寄る。さあその猫を離しなさい。

「くそっ!」
「!」

振りかぶった左手、勢いよく投げつけられた猫を抱きとめる。不意を突かれたそのスキに怪人はビルの非常階段を上って逃げてしまった、依頼された猫をつれたまま。背後からは泣き声が聞こえる。大丈夫です、とだけ声を掛けて追いかけた。



***



「おい、大丈夫か?何があった?」

道の先には泣き崩れる女性。なんとなく不穏な匂いがして声を掛けた。事情を震える声で説明される、どうやら怪人がこのビルの上にいるらしい、見上げると屋上の縁に対峙する姿が。あれは怪人と・・・なまえか?



***



3階建てのビル。屋上のフェンスを乗り越え隣接する建物へ逃げようとする怪人が見える。コートから愛銃、M49を取り出し脹ら脛目がけて引き金を引いた。

「もう逃げられないよ。猫を離して、人質にでもしてるつもり?」

焦った表情の怪人に銃を向けながら近づく。もう3歩後までに解放しなければ、撃つ。そのくらい近ければ猫に当たるようなこともないだろう。ゆったりと1歩、2歩。3歩目を踏み出す直前に、怪人が笑った。

「そんなに返して欲しかったら」
「なにを、」
「自分で助けてみるんだな」

フェンスを越えて投げ出される猫。同時に走り出してフェンスを飛び越えた。空で手を伸ばし、キャッチ。だが、まずい。ビルが低すぎた、高度がなくて受け身をとる時間が無い、地面は目前だ。万事休す、少しばかりの怪我は免れそうにないな。猫を抱えこみ地に背を向け、来たる痛みに目を瞑った。





「・・・?」
「ナイスキャッチ」

なかなか来ない衝撃に目を開くと、下の方から声がする。その発生源を見て言葉を失った。ゾンビマンだ、わたしの下にゾンビマンがいる、身体はぐちゃぐちゃに潰れてて生温かい、わたしのクッションになってくれたのか。

「怪我はないか、なまえ」
「大丈夫・・・」

ぴょん、とわたしの胸から飛び出した猫が、そのまま飼い主の方へと走り抱きかかえられる。元気そうだ。無事で良かった。

「ところで、何でここにいるの」
「たまたまだ」

よいしょ、と身体を起こすゾンビマンからは未だに内臓や血が出ていて、痛々しい。回復するとはいえその傷は自分のせいなんだと思うとなんだか申し訳なかった。

「あのさ・・・ごめんね」
「いいから元気なら上に行けよ。ほら、怪人が逃げようとしてるぜ」

視線を上げるとそこには脚を引きずってフェンスを乗り越えようとしているあいつが。もう一度ゾンビマンを見ると、ぽんぽんと頭を撫でられ、ほら、と責付かれた。





屋上で銃を拾い上げ、急所に1、2、3発4発。動かなくなった怪人の胸ぐらを掴み上げてフェンスから下を見下ろす。終わりましたよー、と伝えると、飼い主さんが嬉しそうにお礼を言ってくれた。その横ではゾンビマンがこっちを見上げている。なんだかんだと困らせてくる彼も意外といいやつだったのかもしれないな。そう思うと下がりきっていた彼の株がワンランク上がった。

「ゾンビマーン!さっきはありがとー!!」
「おー」





リクエストを受けて探偵番外、1話にちらっと出てきた猫の話でした。*の間はゾンビマン視点。


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テーマ「人外ファンタジー」
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