横たわる怪人の肉塊、辺りに散った血液、巻き上がる粉塵、それが皆届かない場所にギャラリーがちらほら。悲惨な同心円の中央に位置するは、我らがヒーロー、ゾンビマンである。そして例のごとく全裸である。

「お、なまえ。良い所にいたな。服」
「今持ってないよ、この前ので使っちゃった」

やってしまった、と思った。仲間から騒動を聞き、駆けつけたものの既に決着はついていて、しかもその相手はゾンビマン。気づかれぬうちに立ち去ろうとしたが、目ざとく見つけられてしまった。そしてこれまた例のごとく服を強要された、けれどもあいにく今日は新しい彼用の服を準備出来ていないのだ。さて困った。

「チッ、しょうがねえ。お前のよこせよ」
「ふざけんな」

コイツ、女から服を奪う気か。怪人だって服のカツアゲなんかしないのに。とんだ変態、横暴だ。ただでさえ毎度嫁入り前の娘に素っ裸晒して、あまつさえ下着までも整えさせているってのに。足繁く男性用パンツを買い求めるわたしを店員がどう思っているかなんて考えたくもない。ああ、ムカつく。

「怪人フル○ンめ」
「俺かそれ、やめろ。くそ、おい、静かにしてろよ」
「何を・・・あっ、ちょっと!」

ぐいと引き寄せられ、腰に手が回る。もう片方の手がわたしのトレンチコートのボタンに伸びてきて、って、この男、盗る気である!そしてこの状況、傍目にどう映るか。男が嫌がる女を無理矢理脱がす、いかがわしい、不道徳だ、有って良いはずがない。とはいえこうもがっちりホールドされちゃあもがいてみるも、たいした抵抗にはならなかった。どうにか自分のしている恥ずかしい行為に目を覚まさせたくて騒いでみる。が、うるせーバカ、暴れるなバカ、と有難くないお言葉を頂いただけだった。バカはお前だバカ。

健闘虚しく、ゾンビマンはコートを不遠慮に奪い終え、気勢を削がれて声も出ないわたしを尻目にそれを羽織る。体裁を気にする必要が無くなった彼はいたく満足げだが、攻防の末の戦果は新たな問題を提起した。

「良い年した男が生足ロングコートで恥ずかしくないの」

群衆の目から一枚隔てたところで安心するなかれ。良く見てみろ、そう、お前は裸コートだ。恥ずかしくない訳があるまい。焦る様子が見られる、ざまあみろと腹の中でせせら笑う。反撃を一発お見舞いしてやったぞ。

「じゃあなまえのその下のズボンも貸してくれよ」

一矢報いたつもりも、どこ吹く風。わたしは無用の一言を足してしまったのではないだろうか。さあっと血の気が引く。まさかだが、やり得る、のでは。

「冗談だ」

危うくわたしが大道を闊歩出来なくなるという危機に瀕するところだった。楽しげに笑う彼とは反対に、口からは乾いた笑いが控えめに漏れた。わたしのからかいなど彼の前には無意味だったのだ。ゾンビマンのワガママに屈したくないわたしとしては、全くもって意に反することではあるが、これからも続くであろう未知なる暴挙への教訓は身に刻ませておこう。反旗を翻すのもほどほどに。






「さてなまえ、タクシー呼んでくれよ」
「え、歩かないの?家近いでしょ?」
「バカ、裸コートで道歩けるか」
「(平気ってわけじゃなかったんだ)」




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