わたしの名前はなまえ、S級ヒーローだ。普段は探偵をしている。というのも全て怪人を倒すためである。(何を隠そうわたしは戦うことが好きだ、緊急の仕事のみ舞い込むS級の地位は退屈すぎる)調査で街を駆けずり回るうちに遭遇することもあれば、各地にいる仲間が怪人を見つけ次第すぐさまわたしの携帯に連絡をいれてくれることも度々だ。ほら、今日も怪人の情報が、携帯がけたたましく鳴っている。

「はーい、もしもし」
「なまえか。今すぐ服持って来い。場所はF市駅前だ」
「お前かよ!」

嬉々として電話に出たわたしが馬鹿だった!コイツは、ゾンビマンはわたしにとって怪人よりも厄介な同僚なのだ。自己再生の特性を最大限に活用して戦う彼のスタイルは時折破廉恥甚だしい結果を招くー言い辛いことだが、全裸だ。彼の自己再生能は彼自身のみ働くのであり、都合よく服やその他身辺器具までは再生してくれない。そこで彼のボロボロの服が更に散々になりお払い箱となるとわたしが呼ばれるのだ、毎度のように。

「あのさあ、わたし探偵なの。それでヒーローなの。つまり忙しいのね。アンタの服調達係にするのやめてくれない、探偵舐めんな」
「偉そうなこと言うなよ。どうせまた迷子猫でも追いかけ回してるんだろ。なら俺のピンチを救う方がいくらか有意義だ」

それに、

「俺の服、持ち歩いてるんだろ?」

っのヤロォおお…ッ
確かに、確かにわたしはヤツの服をいつも鞄に入れている!しょうがないじゃないか!ゾンビマンはわたしの都合を最大限顧慮しないで呼びつける。探偵業に勤しんでいようがヒーロー業を全うしていようがオフの日だろうがだ。いつ何時裸になるかわからない男から清らな市民の目を迅速に守るためには、服を用意する間が惜しかった。別に、親愛なる市民のためであり、決して公衆に身を晒すゾンビマンの体裁のためではない。決してだ。勘違いして勝手に良い気になって貰っては不本意だと秘密にしていたが、どうやらバレていたようだ。ニヤニヤと鼻につく笑いを含んだ声色がいっそうムカつく。余裕ぶんな裸のクセに。悔しいので、さっさと信用を落として没落してしまえ露出狂、と心の中で悪態をついた。


いっそコイツに対する良心の全てを捨て去って無視してしまおうかとも考えたが、電話を切ろうとした瞬間。俺は全裸だぞ、ヒーロー。と理解に苦しむ脅迫を貰ってしまったので善良な市民をいかがわしいヒーローから守るために、結局わたしは諦念して服を届ける他ないのである。




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テーマ「人外ファンタジー」
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