※リーマス誕生日文





雪が溶け、草が萌え、肌を刺す寒さもここ最近は感じなくなった。春がようやくやってきたのだ。のどかな暖かさに眠気を必死に堪えるだけの授業が終わると、ちょっと外に出ようよ、散歩にいこう、とリーマスに誘われた。眠気も吹っ飛び二つ返事でついて行ったことは言うまでもない。


「良い天気だね」
全く言うとおり。空には綿を薄く割いたような雲が点々、太陽がそれを物ともせず柔らかい日の光を隈なく注いでいる。その一部に照らされ、さらさらと淡い風にそよぐリーマスのライトブラウンの髪は美しく、一種神秘的な匂いがする気がした。わたしと同じ光の下にいるとは思えない。恍惚と魅入ってしまいたいところを何とか抑えて、続くリーマスの話にうんうんと相槌を打った。


「動くと暑いね、汗かいてきちゃったよ」
冬にはありがたかったマフラーも、今はもはや鬱陶しい存在に成り下がっていた。リーマスはふわりとそれを外し、そのまま手で首元を仰ぐ。そこで二度目にわたしの目に止まったのは、汗で湿る髪が細く張り付いたうなじであった。冬の間は感じたこともなかった彼の艶かしい色香がごくん、と喉を鳴らさせた。


「この辺でいいかな、ちょっと休もうか」
城から少し離れた湖の畔に立つニレの樹、根元には誰が植えたのかブドウのツルが這っていた。樹の下に腰をおろす。春という括りには入れそうだが新緑の季節というには多少間のある今、ニレの小さな葉は蕾の中に未だ収まっていた。湖の対岸から吹く風が頭上の細枝を揺らす。それは隣に座るリーマスに被さる影模様を忙しなく変え、まるでキラキラと光る星屑のようだ。ああリーマス、キレイだよ、君のその爽やかな笑顔にとても良く似合ってるよ。リーマスがじっとこちらを見つめるのをいいことに、わたしもじっと見つめることができた、至福。優しかった風がびゅう、と一つ大きな音を立てると同じに、リーマスがニヤリと笑った。


「なまえ、僕に隠してるものがあるだろう?」
ニヤニヤ。なんだ、気づかれていた。ローブの袖に隠したプレゼント、3月10日、リーマスの誕生日。準備したは良いものの、彼を取り巻く友人共に阻まれてすっかり渡す機会をなくしていた。誰もいないニレの樹の下、これは鋭い彼がくれた絶好のチャンス。相手からというのも自分が情けないが利用しない手はない 。後ろ手に包みを取り出す。中身は手作りのチョコレート菓子、ふと溶けてやいないか気になった時にはもう包みは彼の手に渡っていた。


「ハッピーバースデー、リーマス」
「待ってたよなまえ、ありがとう。開けていいかい?」
破かれた包装の中から出てきたお菓子は、やっぱり昨日の形とは少し違ってて、予想が当たってしまったとヒヤヒヤした。一方でリーマスは溶けたチョコ菓子もわたしの心情も気にとめず、ぱくぱくと頬張っていく。さっき感じた美しさや艶かしさ、爽やかな笑顔も少し意地の悪い笑顔も何処へやら。幼い少年のように純真無垢な笑顔のリーマスにえも言われぬ高揚感が渦巻いた。とっても美味しいよ、そう言って顔を上げた彼の唇には溶けたチョコが。ざわり、胸に不穏な風、いろんな姿でわたしを惑わす君が悪いんだよ、もう我慢出来ない。


べろりと唇の端を舐め上げる、固まるリーマスをよそにわたしはとても満足であった。





3月10日の誕生花の一つがニレ、尊厳だとか高貴といった意味だそうです。
ブドウのツルが這ったニレの樹はイギリスで結婚や良縁のシンボルだそうで、良いですね。



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