白い簡素な部屋に閉じ込められている俺のもとには、博士の他に一人の女が来る。博士の代わりに俺に飯を運んだり、ただ会話をかわすこともある。彼女もまたサンプルなのだろう、なぜならば俺を実験に使う時周りには博士とそのクローン共しか見たことがないからだ。いかにも非力で脱走など出来なさそうな女だから俺と違って動き回ることを許可されてるんだと考えてるが、本当のところは知らない。

彼女はよく喋る女で、俺もよく喋ったが、どちらもここにいる事情や自分の肉体がどう普通の人間と変わりつつあるのか、そんなことは一切口にしなかったし、尋ねようともしなかった。聞いたところで俺たちは同じような境遇だろうと分かっているからだ。バタバタ周りのサンプルが死んでいく中でこの先自分の命も分からなかったから名前さえ聞かなかった。情が湧いて来たる日に泣くのは自分だ。ドライな関係だったがそれでもたまに彼女は「お互い苦しいかもしれないけど頑張ろうね」と言った。そして「いつか、わたしのところにも来てね」と続けるのだ。こんな苦痛の日々にも憔悴することなくいられるのは彼女とのやりとりがあるからだと思う。取り留めも無いことをグダグダ喋るだけだが、それに気分が休められて助かっているのが事実、なんだかんだ言って俺はもう彼女に情が移ってるらしいのだ。


「サンプル66号、骨髄幹細胞再生可能。血液癌の心配もないな。ふむ、大方の実験はこなしたか。あらゆる外傷には耐えられそうだ」

骨髄を抜かれ血液を流しきり、心臓を取られても俺は何の支障もなくベッドに横たわっている。人間離れした再生能が今日も死ぬことを許さなかった。

「次は感染病の実験に入るか。おい、なまえの実験室に66号を連れていけ」


今までは怪我だとかそういった類の痛みだったから未知なる病気の痛みを想像して若干たじろいだが、すぐに取り戻す。どうせすぐ慣れる、痛覚が麻痺しつつある俺に堪えるかも分からない。

なんの感慨も湧かなくなり長い廊下を歩いている間は別段何を考えるでもなかったが、クローン野郎が次の部屋の扉を開けた時、俺の頭は驚き、疑い、怒り、ごちゃごちゃ生じる感情で真っ白になった。


「思ってたよりずいぶん早かったね。待ってたよ」

「どういうことだお前・・・ッ、そっち側だったのか!」

そっち側?
首を傾げるのはあの女、見慣れた服に白衣を重ねているのは、そういうことだろう。

「ああ、分かった!残念だけどわたしはサンプルじゃないよ。わたしはずうっとジーナスの助手をしててね、中でも細菌学には明るいんだ。」

「知らなかった。まさかお前に騙されていたとはな」

「騙しただなんて人聞きの悪い、君が何も聞かなかっただけじゃない」

言い返せない。確かにこの女の言うとおりだった。俺の思い違い、何も聞かれなかったのはすでに全て知っていたから。俺を支えたあの言葉も研究者の視点からの言葉だったのだ。

「さて、改めてわたしの実験室へようこそ!嬉しいなあ、まずは何にする?君の免疫はどうなってるのかな、いっぱい実験してみようね!」






「病気にかからせないといけないなんて、心苦しいなあ」

そう言う彼女の顔はひどく愉快そうに歪んでいた。




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