「私と仕事、どっちが大事なのよ!」

当てもなくぶらぶらと公園を散歩していた所、怪人が出た、というお声がかかったのでふらりと出向いてみた。の、だが、どうやら単なる痴話喧嘩だったらしい。街のど真ん中でそれを繰り広げているのはこれまたどでかいタコと見知った顔で。

「痴話喧嘩なら家でしなよ。ゾンビマン」
「お前どうしたらこれ見てそう言えんだ・・・」

よくよく見ずとも周りのアスファルトはめくり上がって、ゾンビマンは斧を構え、タコは四方に足を伸ばし地面に叩きつけている。加えて先ほどの言葉、どう考えても修羅場。ゾンビマン彼女いたんだ。しかもかなりデンジャーな彼女さんだ。

「痴情のもつれを街に持ち込まないでよー」
「アホか!面倒くせー妄想癖の怪人だ!」

ゾンビマンのご教授によりアレが男と見れば誰彼構わずパートナーと思い込むという迷惑怪人であるとわかった、が、

「アンタ何あたしの彼盗ろうとしてんのよ!キイイイイイッ」

悠長にゾンビマンなんかと話していたおかげでとんでもない誤解を彼女に与えてしまったようだ。

「ええ、不名誉極まりないな。誰が好き好んでこんな死臭男を」

勝手にやってろ!
そう言い放って2人に背を向ける。だいたいにしてこんな馬鹿そうな怪人、ゾンビマン1人でもわけ無いだろう。そして何より昼ドラ展開に巻き込まれて不本意だ。手を貸す気にもなれない。一般人にご迷惑をかける前にさっさと片づけてくれよとため息をついて、そのままお散歩コースに戻ろうとした。

ぐいっ

「コイツ、俺の女だから」
「ちょっとおおお!?」

わたしの腕を強引に掴むゾンビマンはそれはそれは人の悪い笑みを湛えていて、間を置かずともコイツにしてやられたのだと理解した。

「何言ってんの!?便乗してんじゃないよ」
「なあ、なまえも一緒にやってくれよ。俺怪我すんの嫌」
「それでもヒーローか!あんた1人で十分やれるでしょ?死なないんなら我慢!いつも通り腕の1本や2本あげればいいでしょ」

街中でうっかり出会った雑魚怪人の為にわざわざ服を破かれ骨を折られ戦うのがだるいなーとか、思ってるのかこの男は、ヒーローの風上にもおけん!それともわたしへの嫌がらせか。うわ、自分で考えといてだけど後者な気がしてきた。嫌だ。

だいたい冗談にしても、人より丈夫な体を生かしてヒーローしておいて、何を言っているんだ。怪我が嫌だ?お前の存在意義がなくなるぞ。再生能力を武器に怪人退治、いつやるか、今でしょ!

「あたしを蚊帳の外にしてくれるんじゃないよ!この泥棒猫!」
「だから誤解だってばっーえっ、ぐ」

不意打ちで絡みついてきたタコの足がわたしの身体を締め上げて宙に持ち上げる。タコ本来のぬめりが肌をつたって何とも気持ち悪い。これには結構ノン気にしていたわたしもビビった!

「おーいゾンビマンさーん。助けて下さーい」
「お前自分の力で抜け出せんだろ」

そりゃそうだけど!
フツフツとよくわからない対抗心が湧いたので何が何でも手を出さない決心をした。今回はゾンビマンが相手してるんだから1人で倒してみろってんだチクショー巻き込みやがって。

「絶賛触手プレイ中なので動けないのです」
「たっくしょうがねーな。おいなまえ、大人しくしてろよ・・・!」

斧を振り上げたゾンビマンが、そのままスパスパとタコの足を切り落としていく。タコも抵抗を試みて足を振り回す。あの、わたしごと振り回すのを、止めてほしい。おええ、気持ち悪い。ゾンビマンはというと、それを気にもせず斧無双の真っ最中のようだ。あいつ、怪我してねーじゃん。くそ、タコよ、もう少し頑張れ。

「よっ、と」

最後にどす、とわたしに絡まる足の根元を切断して、空に投げ出されたわたしをキャッチしてくれた。いかにも少女漫画のようなトキメキシーンだが、絶叫マシンのごとく振り回された後ではただただ気持ち悪いだけだ。吐きそ。

「怪我はないか?」
「ない。けど頭ぐらぐらする」
「助けたんだからよ、今度は俺のピンチを救ってくれよ」
「ふざけんな全部お前のせいだ」

手を出さないと決めたが、変更。ゾンビマンの斧を奪って、ふらふら達磨状態のタコに近寄る。とどめを刺されるとわかってかタコが騒ぐが怪人なんかに情けをかけるかバカ。お前も悪い。

「アンタもたいそうな見た目しといて何、ゾンビマンに傷一つつけれてないじゃん。どう落とし前つけてくれるの。死ね」

頭目がけて一発。ちょっとは気が晴れた。

「悪役の台詞だろそれ。お前、ヒーローらしくないな」
「あんたが言うか、あんたが」







「どうするこのタコ。たこやきの家にでも持ってく?」
「俺は行かねーぞ」




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