※ゾンビマンがクズ、血とか出る。





ガツ、振動が手首から骨を伝って鈍く走る。怪人ではない、さっき倒した。ではこの傷の出所はどこか。手の甲から肘にかけて真っ直ぐぱっくり割れたわたしの腕から、ふつふつと赤黒い血が湧いてきた。突然のことで凍りついていた神経が痛い、と叫び声を上げるのと同時に、滴る血が足元の瓦礫に染みを作った。あたりの粉塵が溶け込み汚く淀んでいく。困惑するわたしをよそに愉快そうな声が聞こえたところで、納得がいった。この傷の生みの親はたいそう上機嫌なようだ。


「やっぱり切るなら静脈だな。黒い血ってのがいい」
「そうですか。わたしはあいにく血に美を感じる程感性あるタイプじゃないんですよね」
「俺だって別に好きじゃねぇよ」
「じゃあなんですか」
「なまえの反応がみたかった」


ゾンビマンの手に収まる刀にはわたしの腕の傷と同じ長さで血が纏わり付いていて、それはわたしの血と同じように塵を吸って黒ずんでいた。なぜこの男がヒーローの括りにいるのか。数分前まで怪人を追って共闘していた正義の味方と同一人物に誰が見えるだろうか。今のわたしにはこいつの下卑た行動がいわゆる悪にしか見えない。考えてみればゾンビマンなんて名前もなんとも悪っぽいじゃないか。名は体をあらわすとはよく言ったものだ。えてして協会とは短絡的で粗雑な名を付けるものだがこいつのは首尾良くいった事例じゃないのか。


「なんだ、痛くないのか」
「見りゃわかりますよね。痛いに決まってるじゃん。何してんですか」
「だから、お前が痛がって怒るのが見たかった。俺だけいつも怪我して死ぬのも不公平だろ」


なんだ、その理由は。わたしはお前と違って不死身じゃない。不純の極みみたいな言い訳しやがって。おおよそ立派なS級ヒーローがとる振る舞いと言えない挙動、誰かコイツの仰々しい位を迅速に剥奪しろ。クズの名を冠する方が相応しい。混み上がる怒りも素直に吐き出せばゾンビマンを喜ばせることは瞭然である。最大限の悪意をもって善心を呼び起こす。あなたの愚行を許します、こんな傷も時がたちどころに治すでしょう。口角を上げろ、痛くない、痛くない。


「怒らねぇな」


ざく、
視界の底に重い銀色の軌道が水平に走って、ばつんと筋肉の弾ける音。太ももが血を湛えだしたところでこの由々しき状況はまたしても目の前のクズが生み出したと気づいた。不測の事態、判断を誤った。許すなんてとんでもない。殺す、頭に穴を開けて、四肢をバラバラにして、とにかく治り辛いよう殺す。そうされて当然だ、怒って欲しかったんだろ。あたりに散らばってるさっきの怪人よりもバラバラにしてやる。勇躍として隠し持っていたナイフを取り出した。


「怒ったか?」

やはり喜ばれたのは些か気に食わなくはあった。

「怒りました。これからアンタを一回殺すので終わったらわたしを家まで送ってくださいね、おんぶでいいです」


「嫌だな。お前重いから」


ぶっ殺す。


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