こんな夢を見た。

月の光が差す鉄格子に囲まれた部屋、家具は一通り揃っている。趣味は悪いが俺はここで暮らしているらしい。格子に寄りかかって座る。鉄の鈍い臭いが鼻腔を突いた。ふと気づくと、しくしくと声がする。

「ごめんね今日も殺してあげられなくて」

隣で啜り泣くのはなまえだった。先程まではいなかったのに、初めからここに居た気もする。手には血の付いた鉈を握っている。あの鉄臭さはここからだった。

「いつも死にたいって言ってるのに、殺すって約束したのに、ごめんね」

すると何だか死にたかったような気がし出した。そしてなまえとそんな約束を交わしたような気もした。なまえの震える手の中にある鉈は、俺を殺す為で、こびりつく血は、俺を殺した時に付いたものだという合点が忽然と認められた。

「泣かないでよ」

泣いてない、と言いたかったが、俺の頬をなぞったなまえの指は濡れていて、そこで自分が泣いていたことに気づいた。

「死ぬまで殺してあげるからね」

彼女は自分の涙も拭い、俺の前へと立ち上がる。ゆっくりと鉈を上げ、切っ先を俺の目先に突きつけると、そのまま勢いよく振り下ろした。胸が裂け、どす黒い血が吹き出るも、痛みを感じる間も無く俺の身体は治っていく。また死ねなかった、俺は悲しんでいた。なまえは歯を食いしばりながら俺を殺し続ける。次、次、次こそは。


もう何度目になるかわからない鉈が身体を断ち切る感触。何百、何千回と繰り返した気分だ。俺は未だに生きている。なまえはふらふらになりながらも鉈を下ろし続ける。ついには目が虚ろになり、鉈をしっかり握ったまま俺に覆いかぶさるようにして倒れてしまった。死んだのか、俺より先に。

「殺してくれたのに死ねなくてごめんな」

既に温度はなく、プラスチックのようななまえを抱えたまま、鉈を持つ手をぎゅっと握る。そして、首にその刃を添え、息を吐いて、吸って、力を込めた。

突如覚えた浮遊感。そうか最後の一回が来ていたのか。俺はやっと死ねるのだ。



死ぬ間際になって、やっと初めて痛みを感じた。


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