わたしにも、いや、人間にも好き嫌いというものがある。
わたしは全てが嫌になったから空へとダイブする決心をしたわけだし、中途半端な気持ちで新宿を歩いていたわけじゃない。
わたしはまだ生きている。
わたしは生きているというより生かされていると言ったほうが正しいだろう。
わたしを拾った(拾ったというより無理矢理自分のものにした)ホスト風の男の人は折原臨也というらしい。
一人で住んでいるのには大きすぎるマンションの一室に通されて、ソファに座れと命令されたので大人しく座った。
わたしは何もすることがないので、壁に取り付けられている本棚を眺めていた。
「本より窓の外を見なよ」
「…夜景?」
「違う。人だよ、人」
恍惚とした表情で街ゆく人を見下しているこの人は、はっきり言って変態だと思う。
さっきから思っていたけれど、この人は…折原さんは人間に対して好意を抱きすぎている。
どうしてそんなに好きになれるのかなあ、なんて思っていると、わたしの前にマグカップが置かれた。
夢の国の住人であるクマさんが描かれたかわいいマグカップに注がれていたのはかわいさの欠片もないブラックコーヒー。
飲めなくはないと思うけれど、普通は女の子に対してブラックコーヒーは出さないでしょう。別にいいけど。
でも、胃がキリキリして眠れなくなったら折原さんのせいだ。
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