フェンスに身体を預けると、カシャンと音がしてわたしは少しの間だけ目を閉じて瞑想することにした。
目を閉じて浮かんでくるものは、もう何もない。
うん。
この世に未練はない。
フェンスに足を引っかけ、よじ登ろうとした時に聞き覚えのある声がした。
「捨てるの?」
「…捨てるよ。もう要らないから」
「じゃあさ、こういうのはどう?俺が君を拾うっていうのは」
「え?」
高層マンションの屋上。
フェンスから身を乗り出そうとしていたわたしの身体は宙を舞った。
フェンスの外側ではない。
内側に舞ったのだ。
さっきまで大量の言葉の羅列を噛むことなく言っていたその声の主にわたしの手は引っ張られ、わたしの身体は強く抱きしめられた。
「どうせ捨てるんでしょ?」
勿体無いから頂戴。
そう言ったホスト風の言葉遣いが異常な男の人は、わたしを見下しながらうざいくらい爽やかに笑った。
トクントクンと聞こえる彼の鼓動に、安心している自分がいた。
ひ か り を あ お ぐなんで君はそんなにきらきらしているんだろう
100306
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