わたしはここに住んでいないし住んでいる階なんてないから、目的地である最上階を押した。

すると、隣にいるホスト風の男の人はいきなり喋り始めた。


「最上階か。いい選択だね、実に面白い!初対面の君に言うのもアレなんだけど、俺の職業は結構秘密の多い職業だから、俺が住んでいる階を特定されるとすごく困るんだ。だからいつもは階数なんて適当に誤魔化す。普通ここに住んでいる人は何階ですか?なんて聞かないから楽だったし、こんな夜遅くに人とエレベーターが一緒になることなんて今までなかったからね。なんて答えるべきかすごく困るけれど、適当な階を押してもらおうかな」

「最上階に着きました」

「……あ、そう」


高速すぎるエレベーターはわたしとこの男の人の空気を読もうとせず、目的の階に着いてしまった。いや、エレベーターは機械だから空気が読めないし、そもそもこの男の人の話が長すぎるだけなのだけれど。


わたしは「開く」ボタンを押したまま、男の人が出ていくのを待って、それから自分も最上階に降りた。

ふと前を見ると、男の人はもういなかった。

「僕の住んでいる階を特定されるとすごく困るんだ」とか何とか言っていたし、今から空へダイブするわたしにとってもあまり顔を見られていないから好都合だ。


非常階段で屋上まで行き、鍵をこじ開けて、わたしはゆっくりと靴を脱いだ。


  



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