ノックの音もせずに部屋のドアが開いた瞬間、わたしは臨也さんに駆け寄った。


どこ行ってたの?と臨也さんの胸に飛び込めばよかった。
心配したんだから!と臨也さんの頬を叩けばよかった。

でも今のわたしはそんなことできなくて。


わたしの何処にも行き場がなくなってしまった手は、ぎゅっと自分が身につけているロングスカートを握りしめていた。


「…おかえりなさい」

「ただいま」

「色々考えすぎて、もうすぐで死ぬとこだった。お別れも言わずにさよなら何ていうのは失礼だからね。生きてたよ」

「…この前の君もだけど、何で死のうと思うのかな。君はそこらへんにいるつまらない人間ではないから失恋だとかそういう理由じゃない。身なりからいって金銭トラブルでもなさそうだ。じゃあ何でだろうと考えた。ありきたりなのは、生きる理由がないから、だ。君の場合はそれだった。そうだろう?興味本意で取り敢えず拾ってみて、あまりにもつまらなくなったら殺そうと思ってた。観察し終わったり気に入らなかったらとっくにナイフで刺してるよ」

「突然何を言い出すかと思ったら…」

「でも、俺が帰って来なかった時は飽きられたかもって思っただろう?君とは1ヶ月と2日と31分40秒も隣に居たのに飽きなかった。これはシズちゃんと同じくらいの記録だ」

「でも臨也さんはわたしがいなくても生きていけるじゃない。人間観察をするための人間が一人でもいればそれでいい。だからわたしはもうペットをやめて死にたいな」

「だから困るんだって」

「…困らないくせに」


わたしが即答すると、臨也さんは困ったような顔をした。





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