そろそろ10分経った。
臨也さんが何をしているのか全くわからないけれど、とりあえず10分経ったから帰りたいなあ、なんて思っているといきなり平和島静雄さんがわたしの視界から消えた。
平和島静雄さんは一番近くにあったガードレールを持つと、わたしの後ろに向かってそれを投げた。
そのガードレールが飛んでいった方向を見ると、臨也さんがいた。「走って」と小さく聞こえたから、わたしは臨也さんのもとへ走った。
「臨也、池袋には来んなっつっただろ!」
冷静に叫びながら(何で冷静に叫べるんだろうか…)どこまででも追いかけてくる、平和島静雄さん。
わたしの手を掴むと走り出す臨也さんの足は意外と速くて、わたしについてきているなんてすごいなあなんて考えていても、まだ池袋。もう目白くらいまで走った気分だったのに。
「臨也さん、平和島静雄さんと仲がいいんですね」
「これのどこをどう捉えたらそういう結論になったのか、家に無事着けたら是非教えてもらいたいね」
「そうですね、臨也さんには特別に10000字以上で説明してあげますね」
ひゅん、と飛んできたお店の看板に突っかかりそうになりながらも、ひたすら走った。
全力疾走なんて楽しくはないはずだけど、臨也さんと手を繋いでいるなんて楽しくないはずだけど、なぜか楽しかった。
ぐるぐると池袋を回る臨也さんとわたしと平和島静雄さん。
臨也さんがあまり池袋から出ようとしないのは、きっと平和島静雄さんと遊んでいたいからなのかな。
平和島静雄さんの隙をついた臨也さんはタクシーに飛び乗って新宿の自宅へ向かった。
まだ繋がれている、手。
離すタイミングを忘れてしまったのか、無意識に繋がれているのかわからないけれど、わたしから離す理由もない。
ただ、タクシーを降りるときも繋がれている手を見て、わたしは口を開いた。
「うざ…臨也さん」
「うざって何、うざって」
「どうしてわたしを家に置くんですか?」
「んー、特に理由はないよ」
君のことが好きだからだよ、なんていうドラマみたいな言葉が欲しかったわけではない。でも、理由を言って欲しかった。
臨也さんならそこらへんのもっと死ななそうで心が健康なかわいい女の子を側にいさせるのも可能なはず。
なのに何でわたしを…空へとダイブしたいなんて思考を持った大してかわいくないわたしを、隣に置いてくれているんだろう。
わたしは臨也さんのマンションを見上げてから、少し俯いた。
ゆ れ る ま え が み君の瞳が少し曇っていた
100309
幽くんと知り合いなのは昔共演者のスタントマンとして会ったことがあるからという備考。
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