素直になったらどうなんだい | ナノ

放課後の空き教室で先生に頼まれたプリントを作っているのは勝呂とわたし。作るといってもただ数枚あるプリントをホッチキスでとめるだけだ。めったにミスすることもないし、単純な作業をただただ繰り返すのみ。難点は早々に飽きてしまうことだろうか。ああそれと、作業をしているのが勝呂とわたしということも問題だ。永遠に続いてしまいそうだと思ってしまうほど重たいこの沈黙はほんとうに息苦しい。たえられない。そう思ったわたしは、その名前を呼んだ。

「す、勝呂」
「なんや」
「今日も暑いねえ……」
「そんなこと言うてる暇があるんやったらはよ手動かせ」

ああああ!せっかく!せっかく話しかけたのに一瞬でばっさりだよ!再び訪れた沈黙にわたしはすぐにでもこの教室から逃げ出したいと思った。ノープランで話しかけたのがいけなかったのですか。そうなのですか?今日も暑いねえってなんだよ、もっとマシなこと言えなかったのかよって……そういうことなんでしょうか。逃げ出したいと思ったわたしではありますが、さすがに作業を投げ出したりはしません。ほんとうはしたいけど。ガタ、と机に勝呂の手にあったホッチキスがおかれた。びくっとわたしの身体が揺れた。こ、心読まれた?なんて馬鹿なことを考えたがそうではないとすぐに分かった。

「……ホッチキスの針切れたわ」
「あ、こっちにあるよ」
「ん、ありがとう」

わたしのすぐ近くにあった針の入った箱、それを勝呂に手渡した。ただそれだけのことで、なんでわたしはこんなにどきどきしているんだ。馬鹿みたい……、いや、実際に馬鹿なんだろうけど。頬が熱くなっていくのを感じながら照れ隠しにカチ、とホッチキスに力をいれた。

「あれ」

まさかこっちも針切れですか。なんてバッドタイミングですかまったく。

「切れたんか?」
「うん」
「貸してみ」
「はい」

わたしのおかしな心臓のどきどきはまだ続いていた。勝呂はわたしのホッチキスにも針をいれてくれるみたいだ。ありがたい。さっきみたいな息苦しさはもうなかった。その代わりに身体が熱くなってしまいそうなくらい甘ったるい感情が胸を支配した。……すき、なんて。

「ほれ」
「……」
「おい、針入れたで」
「…い」
「おいって」
「言えないよ、なあ」
「何がや」
「へあ!?」

き、聞かれていたのか……!勝呂がずいと身を乗り出して、わたしの顔を覗きこんでいた。いつもより眉間にしわを寄せて怒っているみたいな表情、その手にはホッチキス。我に返ったわたしはお礼を言いながら慌ててそれを受け取る。

「ご、ごめん」

そして謝れば勝呂は椅子に座り直して大きなため息をついた。ええっ、なんか、怒らせちゃいましたか?ため息をついてからは目をつむったままでまったく動かない勝呂。机にホッチキスを置いてから、動く気配のない勝呂にどうしていいのか分からず、とりあえずじっと見つめてみることにした。けれど、視線が気になったのかすぐに勝呂が目を開けた。

「そないに見つめるな阿呆が」
「えっ、ご、ごめんなさい」
「ほんで謝るな」
「う、え……えっと」

ちょっと、それ言われたらわたし何も言えなくなるんですけど!なんて言えばいいんだろうと慌てたわたしはいろいろ考えた結果なにも口に出すことができなくなった。つまりフリーズしたのだ。そんなわたしを見てふ、と小さく笑った勝呂にどきりとする。不覚だ。でも、なんか今のはすごくレアな気がします。口元を手で隠しながら笑っている勝呂に、お前ってほんま阿呆やなと言われた。これはすごく恥ずかしいです。

「わ、笑いすぎだよ」
「好きな女の慌てたとこ見るんが楽しいんやから仕方ないやろ」
「……好きな、女?」
「!」

今、なんと仰いましたか?今度はわたしではなく、勝呂が固まった。さっきの勝呂の言葉がすぐに頭でリピートされる。

「だれ、それ」
「は」

呆れたような安心したような、よく分からないような表情をする勝呂にわたしはもっと訳がわからなくなった。理解に苦しむことを言わないでほしい。俯くと、どきどきなんてもんじゃなく、ばくんばくんと心臓が早く、大きく音をたてているのが分かった。わたしの聞き間違いじゃなければ、好きな女の慌てたところ見るのが楽しいから……とかなんとかって。この状況から考えたら、その女ってわたしのことになってしまうじゃないか。それはありえない。だから、それは誰かって、考え、なきゃ。

「顔、真っ赤や」
「え、う、うそ……!」

反射的にばっと顔をあげた。にいっと意地悪な笑みを浮かべた勝呂と目が合って騙された、とすぐに気づいた。俯いていたわたしの顔を勝呂が見れるわけないじゃないか。

「嘘ちゃう」

けど、それを言った勝呂の顔も真っ赤でえっ?と思わず声がこぼれた。どうして勝呂が顔を赤くしているんだろう。

「阿呆な上に鈍感って救いようないわ」
「失礼な!」
「ほんまのことやろ?」

自信満々、といった表情でそう言ってのける勝呂。とりあえず、静まれ心臓。ふたり分のプリントとホッチキスは机に置かれていて、作業は止まったまま。

「俺は、お前のことが好き、や」

知っとったか?表情を崩さずに言う勝呂にわたしは呆然としていた。耳を疑うどころじゃない。知っていたわけがない。勝呂が、わたしのことを好きなんて、こと。こ、こういう時ってどう返せばいいの……!混乱したわたしの頭には簡単なあの二文字。すき、の二文字。たったそれだけしか浮かばなくて。勝呂はわたしが何か言うのを待っている。ど、どうしよう。



素直になったらどうなんだい

企画:クレスト さんに提出
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -