あまい吐息を盗む | ナノ
丸いそれを口の中に放り込んでから後は、個人の好みによって食べ方がちがいます。舐めるひと、噛み砕くひと、最初は舐めて途中で噛み砕くひと。ちなみにわたしは、いちばん後者の最初は舐めて途中で噛み砕くタイプの人間です。
「ふむ……」
アマくんはあめ玉を手に持ち、それをじいっと眺めています。どうやって食べようか悩んでいるのかな。わたしはそんなアマくんに構わずあめ玉を舐めて味わっています。口の中に広がるのはレモンの味。あめ玉でいちばん好きなのはこの味なんだよね。思わず目をつむってしまうほどの、この酸っぱさが好きだ。
「……」
「アマくん?」
酸っぱさに目をつむっていたわたしが目を開けるとすぐのところにアマくんの顔があった。えっと、なんだか、ものすごーく見られているような気がするのですが…?顔が近い上にじっと見つめられているせいか、心臓が脈打つのが少しはやくなった気がした。そんなアマくんの手にはまだあめ玉があった。まだ食べてないんだ、とそれを見つめていたらあめ玉が一瞬にしてアマくんの口の中へと消えた。つまり、アマくんがあめ玉を口に放り込んだのだ。お、やっと食べ……ガリッ。口の中に入ったかと思えば数秒も経たない間にそれが噛み砕かれる音が聞こえた。
「!」
も、もももも、もったいない……!いくらなんでも、噛むのが早すぎるよアマくん!わたしの思っていることなど届かず、ガリ、ゴリ、という音がずっと聞こえる。なんだか悲しくなってきた。気づいたら、レモンの酸っぱさも忘れてただ呆然とアマくんがあめ玉を噛み砕く音をきいていた。
「…なんですか、そんなに見つめて」
見つめてるのはあなたのほうですよアマくん。いや、まあわたしも見つめ返しているからなにも言えないか。
「ああ、もしかして」
「?」
「このあめちゃん、食べたかったんですか」
ず、い。あれ、あれあれあれ、おか、しい。ついさっきまででもすごく近かったアマくんの顔がもっと近くにある。……気がする。アマくんが口を開ける。開かれたその一瞬、その少しの隙間、砕かれたことにより小さくなってしまった薄緑色のかけらがみえた。もちろん、あめ玉の。
「ん、んん?!」
アマくんの唇がわたしのそれに触れたかと思うと、素早く舌をねじ込まれた。ちょ、ちょちょ、まって、なにこれ、まっ……!何がどうなっているのかわけが分からず焦るのはわたしだけ。
「ん、う……?」
舌の上に、なにかが乗せられた。そしてすぐに離れた唇に、ほっとして息を吸う。舌の上に乗せられたのは、たぶん、アマくんが食べてたあめ玉のかけら。さっきまで口の中にあったレモンの味は消えて、その代わりにほんのりメロンの味を感じた。
「ボクも蜜子の味が食べてみたくなったので、交換させてもらいました」
わたしの味、ではなく、正しくはわたしが食べていたレモン味、である。ただそれだけの意味しか含まない行為だったとわかっていても、体温が上昇するのを止める術は、わたしにはない。
「アマくんのばか」
「?」
わたしのファーストキスは、メロン味でした。
あめ玉