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「〜〜ッ!?」

噛まれた、なんてもんはまだまだ優しい表現。アマイモンさんの歯が肌を貫通して食い込む。今までで感じた痛みのなかで最上級のものだと思う。もちろん、良い意味ではなくて。

「い、痛っ…!」
「これくらいの痛み、我慢してくれなくては困ります」
「…なん…で」
「なまえがボクのものだからです」

わたしはアマイモンさんのものじゃありません!
なんて、今のわたしにはそれを言う元気がなかった。どうしてかは分からない、たぶん、さっきのアレのせいだとは思うのだけれど。視界がはっきりしない、ぼやけてみえて、意識がだんだん、遠くに……。

「なまえ……?」

仕方ない、兄上のところに行きますか。
アマイモンさんがそんなことを言っていたことも、意識を失った後もアマイモンさんの腕に抱かれて空中を移動していたことも、わたしは知らない。





「え、えーっと」

だから。わたしはどうして今こんなところにいるのか分からない。

「私の弟がアナタに迷惑をかけてしまったようで大変申し訳ない」
「お、とうと…?」
「ええ。アマイモン、と言えば分かりますか?」
「あっ…はい、アマイモンさんの…」

お兄さんですか?そんな問いを投げかけながらわたしは体を起こした。どうやらわたしはソファに寝かされていたらしい。高級そうだ。

「ええ、まあ」
「それであの……」

アマイモンさんは、と口を開こうとしたらお兄さんの顔がずいっと近づけられた。え、えっと?不思議に思いながらその瞳を見つめているとふ、と笑われた。

「この世の汚れを知らない、純粋な、綺麗な瞳をしている」

お兄さんはそうつぶやくと、わたしの肌に触れた。さっきアマイモンさんに噛まれた場所だ。さっきまで笑みを浮かべていたお兄さんの顔が一瞬にして顰められた。その表情がこわいと、思ってしまった。
お兄さんの視線はわたしの傷に向けられていた。わたしはその傷もお兄さんの方も見ず、気まずい空気に視線を泳がせていた。

「これは、アレの仕業でしょう?」

お兄さんの声がさっきよりも幾分か低いものになっていた。この人の纏う空気が怖い、そう思ったときアマイモンさんの言葉を思い出した。ボクは悪魔の王様です、という…あの言葉だ。それがもし本当なら、わたしの目の前にいるこの人…お兄さんも、悪魔?



110826/あくまのおにいさん
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