ノープラン | ナノ

夕日は沈みきってこそいないが、下校時刻はまもなくやって来る。こんな時間まで教室でひとり何をしてたんだこの馬鹿は。
普段はさっさと帰宅するわたしは、クッキング部の友人の甘い言葉に誘われて部室に招待を受けていた。貴重な放課後だから、と断ろうとしたのだけどおいしいケーキをご馳走するから!と言われては断る理由などない。ほんとにおいしいケーキだった、夕飯食べられるかな、なんて心配しながら教室に戻れば机に突っ伏している馬鹿発見。

「こら金造!」
「んあ…、なまえ…?」
「はいなまえですけど?」

まだ寝ぼけているらしい金造はうーん、と目を擦りながら欠伸をした。
そしてうんうん唸りながら机に置かれたカバンを持って立ち上がった。ぎっ、と金造の視線がわたしに向けられる。

「…遅いわボケ」
「へ?」

不機嫌そうに眉間に皺を寄せた金造に睨まれる。遅いわ、ってもしかして待っててくれた、とか…?

「はよ、帰ろ」
「え、ちょ、金造、!」

さっきは睨まれたのに、今度はへらりと笑って言う金造。うわ、これ、完全に寝ぼけてる。
荷物もなにも持っていないわたしの腕をぐいぐい引っ張っていく金造に待ったをかけてわたしはその腕を振り払った。むっとした顔をする金造だったけど、わたしがカバンを取ってくるまでその場で待っていてくれた。そして再び、わたしの腕を掴む。

「まだ寝ぼけて…」
「もう目覚めたで、俺」
「なーんだ。なら手離してよ、恥ずかしい」
「恥ずかしい?…なまえはこの手握ってるのが柔兄でも同じ台詞言うた?」
「なっ…なんでそこに柔造さんが出てくるのよ…!」
「なあ、柔兄やったら…」
「ああもう!い、今この状況で柔造さんは関係ないでしょ!」

そう言って今度はわたしが金造を引っ張るようにして歩く。な、なんかむかついた。柔造さんの名前を出せばなんだって許されると思ってるな、金造め…!そ、そんなに甘くないんだからな!
わたしが少しいらいらしているというのに、わたしに腕を引かれる金造はなんだかご機嫌だ。

「なにヘラヘラ笑ってんのよ…」
「笑ってへんし」
「…あっそ!」
「柔兄は関係ない、か…」
「? なんか言った?」
「なんも言うてへんよ」



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テーマ「人外ファンタジー」
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