ノープラン | ナノ

学校が終わってさあお家へ帰ろう!とハイテンションでカバンを手に取ったところで隣の席から手がぐっと伸びてきてがしっと私の腕を掴んだ。誰の手かなんて、そんなことは見ずとも分かっている。もちろん、用件も把握済みである。なぜなら、今日起こったビックイベントはたったひとつだからだ。
猫みたいに背中を丸めてうな垂れ、それでも手にはちゃんと力がこめられていて、今は下を向いているため見えないがきっと表情は相当必死なものであろう。

「…たすけてなまえ」

めずらしく弱々しい声で助けを求められて、悪い気なんてするものか。助けてやろうじゃないか。ほらほら、私だって早く帰りたいんだからさっさと終わらせるぞ、の意味を込めて金造の背中をばしんと一発叩いてやる。痛ったいやないか阿呆!と若干涙目で顔をあげた金造に、なんだその口の聞き方は助けてやらなくてもいいのかい?…と言い終わる前にごめんなさい、という言葉が返ってきた。ああ、なんて優越感。



ビックイベントとは、テスト返却のことである。先週行われたテスト、いつもの私ならば金造と同じ点数…いやもしくはそれ以下、赤点になっていてもおかしくなかった。けどそれは、いつもの私なら、の話だ。

「なーんでそこ間違えるのかな」
「分からんもんは分からん!解けんものは解けんのや!」
「ギリギリ赤点じゃなくて良かったね」

赤点じゃないけど、いっつも点数悪いからって課題出されてるのがかわいそう。金造だから仕方ないんだろうけど。金造と違って私はむしろだいぶ褒められましたし。熱でもあったのか?なんて変な心配までされましたし。いやいや、熱あったら問題なんて解いてらんないですよー、なんて先生の冗談に余裕で返すこともできた。…まあそう返せば先生は再び、やっぱり熱でもあるのか…と小さな声でぼそぼそ何か呟いていたので、ほんとうに心配されていたので冗談じゃ、なかったのかも。
金造は課題に向かってうーんうーんの唸り声をあげている。その姿は、少し笑える。

「ドンマイ金造!」
「んなニヤニヤして言うなや」
「え?ニヤニヤしてた?」
「してた。つーかしてる。現在進行形や」
「あっはっは!だってさぁ、毎回そんなんじゃ…」
「お前かて俺と点数変わらへんやろ」
「…なにか言葉が足りないんじゃないかね金造くん?」
「……い、いつもやったら、な…」
「そういうことです!」

課題を放棄してうおおお!!と叫んで悔しそうに机を叩く金造。何度か叩いたあとに急に不機嫌顔になったかと思えばそのまま頬杖をついてむっとした顔で私の方を見た。

「なんでなまえが80点代なん…?」
「私がいつまでも成長しないと思ってたの?」
「そういうレベルちゃうやん!」
「まあ、ね……えへへ」
「、!」
「…?な、なに、よ」

言葉にすれば、そう、ぽかん。といったような感じだろうか。むっとした顔が消えたと思えば、今度はそんな間の抜けた顔。

「もしかして、柔に、」
「なっ、はあ!?じゅ、柔造さんは、関係…な!……い、よ」
「…オイ」
「な、んでそこで柔造さんが、出てくるのかな、わかんな、い」
「…阿呆」

あ、また、むっとして、…ゴツン。と額に強い衝撃。あまりの痛さに怒鳴りたい気持ちになった。な、なんでここで頭突き…!?いたい、じゃないか。
金造がぼそりと何か呟いていたがそれは聞き取ることはできなかった。

「(柔兄本人に聞いたほうが早いな、コレ)」

それより課題をやろう!と私が言えば金造はつまらなさそうな顔をしてもうやる気あれへん、と言った。せ、せっかく放課後の貴重な時間使ってあげたのにそんな一言で終わらせるなんてむっかつく。
…けど、ここは柔造さんに免じて許してやろう。



テスト返却と優越感
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