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人間が悪魔に恋をすることはあるだろうか。わたしはないと思っていた。
突然、目の前に悪魔があらわれたことが、あなたにはあるだろうか。あるわけがない。あってなるものか。だってそれは常識じゃ考えられないことだ。

「ボクは地の王、アマイモン」

夜風にでもあたろうかな、なんてベランダに出たのがいけなかったんだろうか。上から人が降ってきた瞬間、わたしの心臓はありえない速さで脈打ちだした。降ってきたそれは、わたしの横にごく自然に降り立った。そしてご丁寧に自己紹介。視線はずっとわたしと合っていて、なぜか逸らすということができない。え、えっと、えっと…!

「わ、わたしは、なまえ…です…!」

何か言わなくては。そう思って出たのは、…名前でした。いや、だって、自己紹介されたらやっぱりこちらも自己紹介しなくては…!なんて、バカな考えである。突如上から降ってきたひとにそれはない。絶対におかしい。

「なまえ…ですか。覚えました」

そのひとは、顎に手をあててわたしの名前を呼んで覚えたと言った。し、しまった、名前を覚えられてしまった…!どうしよう。不審者さんに名前を覚えられてしまったよ。

「アマイ、モンさん…でしたっけ?」
「はい」
「ど、どうしてここに」
「暇潰しです」
「ひ、ひまつぶし…」

暇潰しでマンションの上から降ってくる人間ってどういうことなんですか。と、思ったことを正直に口に出すことはできなかった。わたしが住んでいるのはマンション6階。このマンションは11階建てで、上からひとが降りてこれるわけがないのに、な。

よ、よし。どうにかして大人しく帰って頂くようお願いしよう。だって、いつまでもこのままじゃ怖いんだもの。よく分からないこの不審者さんを玄関から帰すのもどうかとは思うけど、仕方のないことだ。だって、ひ、人が飛び降りるのなんて、見たくない、し。

「あ、あの…」
「なまえ」
「はい!?」
「ボクの暇潰しに、少し付き合ってはくれませんか?」
「えっ、あ、っ…!?」

返事はしていません。…くれませんか?あたりから、何かがおかしかった。アマイモンさんがいきなり距離を詰めてきて、手を伸ばしてきた。その手が腰あたりにそえられたと思うとひょいっと軽く身体を持ち上げられた。所謂、お姫様だっこというやつである。

「!」
「行きますよ」
「どっ…!」

どこにですか!?いや、それ以前に一体どういう状況なんですか…!
わたしは声にならない声をあげた。だって、しょうがないじゃないか。ここはマンションの6階だ。それなのに、アマイモンさんとわたしは今そこを離れて宙を舞っている。…気がする。が、何かの間違いであって欲しい。



110519/そらをとびます
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