がらくた | ナノ

「雪男!」

大きな声で名前を呼べば、いかにも鬱陶しそうな顔でゆっくりと振り返る雪男。ちょいちょい、と手招きをすれば怪訝な顔をしながらもこちらに近づいて来てくれた。

「……とうっ!」
「!?」

今だ!というタイミングで両手を広げ雪男に抱きつきにかかる。突然のことで警戒していなかったのか、簡単に雪男を捕獲することに成功した。

「にひひ!」
「っ、なまえ……」
「雪男つかまえたぞー」
「いきなり何するんだよ!」
「わああ!怒っちゃダメ、逃げちゃダメ!」

腕の中で暴れる雪男を逃がすまいと力いっぱい抱き締める。すると、思ったよりもあっさりと雪男が暴れるのをやめた。

「雪男ー?」
「……」
「ゆきゆきー?」

抱き締める力をゆるめて、その両肩に手をのせて体を離し雪男の顔を覗き見る。

「…、なんだよ」
「あれ、怒ってるー?」
「なまえにはどう見えるの」
「さあ?」
「……はあ」
「ため息つかないの!幸せが逃げちゃうぞ」
「僕は……、!」

なでなで、と雪男の頭を撫でる。あはは、雪男のアホ面ひっさしぶりに見たなあ。
アホ面をさらす雪男と目が合うもすぐに逸らされる。

「…そうでなくても最近の雪男、なんか元気ないし」
「……っ」
「雪男はなんでもかんでも一人で抱えこんじゃうからなあ」
「なまえ……」
「私なんかじゃ頼りないかもしんないけど、雪男の話聞いてあげるし、雪男の力になってあげられると思う、よ?」

私と目を合わせようしない雪男に苦笑しつつ、へらりと笑ってみる。やっぱり頼りない、私。

「だから、さ……」

雪男の肩に置いている手が震えた。堪えていたはずの涙がいつのまにか目に溜まっていた。

「また、雪男の笑顔が見たい…な」

私の異変に気付いて逸らしていた目を再びこちらにむけた雪男と、目が合う。

「や、やだな、なんで泣いてんだろ私……」
「……ごめん、なまえ」
「ゆきお……?」
「心配、かけて……ほんとにごめん」

そう謝る雪男に私は首を振った。
あなたを苦しめるモノを、私が壊してあげられたらいいのに。
それが何かさえわからない。くやしい。……謝るのは、私のほうだよ。



120310