がらくた | ナノ

お昼休憩は至福の時間だ。事務とは正直しんどい仕事だとわたしは思う。座りっぱなしのデスクワークを強いられ、休憩時間になり席を立てばほぼ確実にお尻と腰と背中と首が痛くなるというおまけ付きだ。そんなおまけ要りません!とお断わりしたいところだがそれができれば苦労はない。

「あー痛い…」
「誰に?」
「え?」

突如後ろから聞こえた声に振り返る。そこには夏真っ盛りだというのにスーツにネクタイまでばっちり装備の柔造さんがいた。どうやらわたしの「あー痛い」を「会いたい」の意味に捉えてしまったらしい。違う違う、誤解です。会いたい人なんて今は別にいません。

「てっきり金造に、かと思ったわ」
「嫌でも週に何回かは会ってますよ」
「え?嫌なん?」
「い、嫌じゃ、ない、ですけど…」

ふーん?と柔造さんがにやにや笑いながらわたしを見た。そういう目でみられるのは好きじゃない。金造とは同じマンションの同じ階に住んでるだけの、ただのご近所さんだ。そのご近所さんは職についておらず、世間ではニート、なんて呼ばれている部類に入る。ほっとけない、とか心配だとか、そんなこと全然思ってません!

「羨ましいわ」
「柔造さん?」

柔造さんが遠い目をしていた。うん?どうしたんだろう。

「午前、お疲れさまです」
「なまえさんもな」

そう言ってなんとも爽やかな笑みを向けられた。しかしそんな笑みとは真逆の服装。ああ…相変わらず暑そうな格好だ。真夏でも真冬でもスーツなのは変わらないもんね。その点ではクーラーびんびんの社内で仕事する上、格好がある程度自由な事務はまだまだ楽なんだなあと感じる。

「……なんかスミマセン」
「?」

クーラー効いた社内でちょっとした作業してるだけでなんかすみません。何のことか分からずきょとんとした柔造さんの顔が見えてわたしは何か話題はないかと探す。…と、いってもこの時間帯の話題はほぼ限られてくるわけで。

「お、お昼まだですよね、柔造さん」
「ええ。今、俺も誘おうと思てたとこです」

わたしまだ何も言ってないです、聞いただけです。…ま、そうでなくても最近のお昼休憩はほとんど柔造さんと一緒なんだけどね。



110815
:続きもの用に書いてたけど没になったお話