がらくた | ナノ

にいっと笑ってわたしの頭を撫でてくれるひと。今日、おんなじ任務でよかった……!
「早めに片付けられてほんま、よかったわ」
「そ、そうですね!」
「なんやなまえ、今日ずっとそわそわしとるけど……何かあるんか?」
「え!?」
「んー?その反応、怪しいなぁ」
にやにや笑ってわたしを見てくる八百造さんは悪い顔をしている。
「え、ええっと……」
「ん?」
「や、八百造さん……わたし、」
「とーうッ!」
「ぬあ?!」
後ろから来た突然の衝撃に低い声が出てそのまま前のめりに倒れる。なにかを、巻き込んで。

「……痛あ……」
「っ、と…大丈夫か?」
「!」
「なまえ?」
「おー、スマンスマン。足がすべった」
「き、きき、金造ッ……!」
八百造さんに重たいわたしの体重を預けるみたいな形で支えてもらうことになってしまったのは、振り向いた後ろでニヤニヤという嫌な笑みを浮かべた金髪のアホのせいである。いつかコロス!けどちょっとだけありがとう金造のアホ!八百造さんにはとても迷惑な体勢ではあるがわたしにとっては少し夢のような体勢で、つまり、う、嬉しいのだ。
「な、なんか、用?」
「んあ?用?……なんやったっけ、忘れてもーたわ」
「……ちょ、」
「スマン、思い出したらまた来るわ」
「は!?」
「ほな」
「金造……!」
「ははは、なんやアイツは」
「ホントなんなんですかね金造は……」
「妬いたんかなあ」
「へ?やいた?」
「俺となまえがしゃべってて、全然構ってくれへんから、とか」
「な!……ないです!絶対!」
「そうとも言い切れんで?」
「え、妬くとかないですよ、絶対です」
「まあ俺と金造の立場が逆やったら妬いてたわ、間違いなく」
「え……?」
「俺やったらなまえを独り占めしたいから間違いなく、妬く」
「ッま、真顔でなんてこと言うんですか八百造さん!」
「ホンマのことやで?」
きょとんとした顔で言うこの人は嘘をついているようにみえない。……そういうのがいちばん、タチが悪いと思います。
「っ、て!わ!…い、いつまでもすみません!」
忘れていた。今までずっと、八百造さんの上に乗ったまましゃべっていたということを。
「ん?ああ、別にええのに」
「へ」
「なんや、ええ眺めやし」
「え、ええ眺め……?」
「なまえのかいらしい顔がこんな間近で見れるんや、ええ眺めやろ?」
「な、な……!」
「はは、すぐ赤くなって」
「う!え、す、すぐ退きますごめんなさいでした!」
そう言ってわたしは八百造さんの上から退き一礼するとその場から高速で走り逃げた。たえられない。八百造さんのことばひとつひとつが、わたしを、惑わせる。

「……は、あ……」

いま、思い出したのだが。わたしの、目的を。

「八百造さんに、お誕生日おめでとうございます、って……」

それが言いたかったのと、プレゼントを渡す、だけだったのに。

「…………ま、また行かなくては」

恥ずかしいような嬉しいような言葉を言われて逃げたあとで、また会うことになるとは。……で、でも。今日という日は、明日になってしまえば意味はなく、昨日でも意味がない。今日だから、そうなのだ。

「よ、よし、行こう」

気を取り直して、おめでとうを言いに行く、ぞ!



110810
:八百造さんハッピーバースデー!