がらくた | ナノ

・悪魔落ち廉造



毎日しつこいくらいちょっかいを出してくる志摩にはたしかにイライラしたりむかついたりすることはあった。けど、今日はなにかがおかしかった。

「たぶん、俺って独占欲強かったんやろなぁ」

壁に縫い付けるように押さえつけられた腕は痛かった。

「し、ま」
「…なまえちゃん、」

強引に唇をおしつけてくるその行為を、キスというのだろうか。身をよじってみても、腕がすごい力で押さえつけられていて逃げられない。

「っふ、」

そのまま舌を噛みちぎってやろうかと思ったとき違和感を感じた。

「し…、ッんん!」
「声は出したらアカンよ、なまえちゃん」

志摩の唇が離れてすぐ、名前を呼ぼうと口を開けば志摩の手ですぐに塞がれた。キスの次はなんだこの野郎、とイラつくもそれは一瞬。ぎっと睨んでやろうと思って志摩の顔を見ればさっき感じた違和感の正体に気付いた。

「、!」
「あぁ、気付いてしもた?」

志摩は残念そうな顔をしてわたしの口から手を離した。
志摩の目は奥まで黒に染まっていた。全身から漏れだす黒と深い青の闇が何を意味するのかすぐに分かってわたしは奥歯を噛みしめる。

「なん、で」
「理由なんかなんでもええやろ」
「悪魔…落ち…」
「ただ、欲しかった」
「志摩…?」
「なまえちゃんが欲しかったんや」

奥村くんに渡したくない。
志摩の声が、志摩の瞳が、志摩の心が、志摩のすべてが闇に蝕まれてしまう。

「やめ、」

青黒く変色し伸びた爪がわたしの頬にのびてくる。がり、と頬をひっかいたそれに胸がざわつく。
志摩から目が離せなくなって、目が合ったまましばらく沈黙が続く。突然どくん、と心臓が大きく脈を打つ音が聞こえたかと思えばわたしの意識が闇へと誘われようとする。

「好き、なまえちゃんだけが」

志摩の表情は哀しみに歪んでいた。わたしには志摩を救えないんだろうか…。意識が落ちるなかで思う、自分の無力さ。
たすけて、たすけて、

「…、燐…」

「あぁ、俺…奥村くんが羨ましいんやわ」

わたしは志摩が涙を流したことを、知らない。



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