廉造のつまさき | ナノ

昨日があって、今日がある。明日があるのは、今日があるから。毎日おんなじことの繰り返し。けどその中には例外もある。記念日だ。最も身近な例を挙げるとすれば、そう、誕生日…とか。

学校行くのってどうしてこうも面倒なんだろう。とくべつ勉強が嫌いとか、そういうわけじゃない。わたしの場合は、朝から立って歩いて、動いたりすることが嫌なだけなんだけど。…寮から出て、学園までの道がすごく遠く感じる。ワープしたいよねっていつも思うんだけど、どこぞのRPGゲームのように一度行ったところへ魔法で飛んでいける、なんて能力をわたしは持っていない。うん、残念。
階段を上りながらため息をついて、空を見上げた。そこで見つける後ろ姿。

「おはよ、志摩」

前方に見えたピンク頭に言う。振り返ったその目はなぜかキラキラしていて口元は綺麗な弧を描いていた。

「お嬢ちゃん!おはよう!」

ピンク頭、もとい志摩はぱあっと明るい笑顔をこちらに向けた。朝から元気だなあ。いや、それだけじゃなくてなんだかいつもより…元気?

「今日は勝呂と三輪、一緒じゃないの?」
「坊と子猫さんは今日先に行ったでー」
「めずらしいね」

志摩ひとりで居るなんて、ほんとに珍しいと思う。勝呂と三輪と志摩の三人はいつも一緒っていうイメージだから。けどいつもより元気な理由はわからない。なにか良い事でもあるのだろうか。あー、志摩の場合は……、女の子関係だったり?考えて、やめた。なんか胸のあたりがもやもやしたから。

「せやね。…ま、俺が頼んだんやけどね」
「ふーん?」

二人で並んで階段を上る。階段を上りきったところで、志摩がぽつりとつぶやいた。

「…こうやってお嬢ちゃんと二人で登校するため、やったりして」
「登校って、こんだけの距離を?」
「こんだけでも俺は嬉しいんや…!」
「ふ、」

なにそれ。思わず笑ってしまった。ぐっとガッツポーズをして言う志摩が、なんだか笑えたのだ。わたしと二人で登校して何が嬉しいんだろう。そう思いながらも嬉しかった。胸のもやもやもすぐに消えた。



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