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わたしの身体が地面にむかって倒れていく。意識は消えかけていて、頭はがんがんと痛い。耳鳴りだってするし。気分だって、最悪。わたしの身体は地面に倒れるはずだったのに、だれかに抱きとめられた感覚がしたのは、なぜ、だろう…。朦朧とした意識のなかで最後にみたのはピンクだった気がする。

――…太陽はすこし遠慮をするべきだと思うよ。頭が痛かったのは陰にも入らず太陽の下でスポーツテストなんてしていたから。わたしの気分が悪かったのは、そのテストがあったから。…、体育なんて嫌いだ。大っ嫌いだ。


「…う、っ」


額にひんやりと冷たいものが乗せられた。その冷たさに、わたしは顔を顰めて目を覚ました。ゆっくりと重い瞼をあけると、先生の姿……、ではなくて、たしかクラスメイトの、おとこのこ。

「…、大丈夫?」
「あ、…」

わたしが目を覚ましたのに気づいたその子はやさしく微笑んでそう聞いた。大丈夫です、という言葉を言おうとしたのにそれが出てこない。あ、のど、からから、だ。

「あ、水持ってくるから待っててな」
「、ん」
「そのまま、体起こさんでええからね」

ピンクのあたまのおとこのこは、わたしが喉がかわいていることを察してくれたらしい。たたた、と小走りでベッドから離れていく。


▲▼


「気分はどう?」

頭痛いとか、お腹痛いとか、どっか痛いとか、ある?平気?…おとこのこは本当に心配そうな顔でわたしを見てきて問いかける。すべてに首を振って、おとこのこが持ってきてくれた水を口に流し込んだ。
この子って、知り合い、だっけか。ううーん、と考えてみるも話した記憶さえないような気がする。でも、きっとクラスメイト。記憶力が悪いから、は言いわけに…ならないだろう。名前も知らないなんて、なんだか、失礼な気がするけど。…けれど出てこない。ピンクの、おとこのこ。

「あ、俺、変なヤツとちゃうで」

へら、と笑ってその子は言った。あれ、わたし、なんかおかしな顔してただろうか。

「ご、めんなさい」
「志摩。俺、志摩廉造っていうねん」
「あ、わたしは、」
「ミョウジさん、やろ?クラス同じやし、可愛えなあと思っていつも見とったから」

可愛い、という言葉については流しておこう。…お世辞が上手なおとこのこだ。

「えっと、志摩くんは…その…」
「ああ。ミョウジさん、体育の時間倒れてしもたやろ?そん時、俺がここまで連れてきて…」

先生が出張で居らんかったから勝手に俺が面倒みさしてもらいました。
ああ、あの時のピンクは志摩くんか。そう思ってひとり納得していたのだか。志摩くんは、すこし照れた様子で頭をかいていた。…なぜそこで照れるの。わたし、何かしちゃったの。

「……寝顔、むっちゃ可愛かった…」
「…志摩くんって変わってますね」
「ええ!?そんなことないですよ、本間に可愛かったんですって!」

とにかく、志摩くんに感謝をしなくては。ここまで運んでくれたって、…相当重かったろうに。それに、まだ授業中だというのに…わたしなんかに付き合わせてしまって。

「えっと、…ありがとう、志摩くん」
「!」
「志摩くん、顔…にやけてる」
「な、なんや照れくさいなぁと思って…」
「そ。…でも、ありがと」
「ミョウジさんの笑った顔ってなんや貴重な気するわ」
「…わたし、笑ってた?」
「うん」
「…、見なかったことにして」
「え?嫌。忘れへん」

志摩くんは意地悪な笑みを浮かべてそう言った。
体育の時間も、倒れたことも、最悪だって思うけど…志摩くんとこうやって喋れたのは、良かった、かも。記憶力は悪いほうだけど、志摩くんの名前と顔は覚えておこう。



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