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「お、奥村くん…?」

日が沈んだころ、忘れ物を取りに教室まで行くと、そこには奥村くんがいた。教室のドアが開けっぱなしで、ドアの前まで来て見えたその背中。それと同時に飛び込んできたのは奥村くんの服の隙間からぴょこぴょこと動くしっぽのようなもの。

「へ、あ!ナマエ!」

ぴょこん、とそのしっぽが反応して奥村くんが振り返る。しっぽは一瞬見えなくなるもすぐに左右にゆらゆら揺れて、背をむけていてもはっきり見える。
えっと、これは、見えてはいけない、ものだったり?

「……!」
「どーかしたのか?」
「え、っと」
「?」
「し、しっぽ、出て、るよ」
「むあッ!?」

その言葉を言ってしまってよかったのだろうか。奥村くんは、はっとしたような顔をしてババッと自分の手をうしろに持っていきしっぽを掴んでハハハハ、と目をきょろきょろさせながら笑った。

「いやあ、あの、これは、その、」

明らかに動揺している。
言いたい言葉がなかなか出てこないようで、奥村くんはあのこれはその、という言葉を繰り返しているだけ。うん、言わないほうが、よかったみたいだ。

「あー、ごめん…?」

なんだか奥村くんがかわいそうになって謝った。すると奥村くんの泳いでいた目の焦点がぴたりとわたしに合う。そしてその場でうおおおおと叫んでしゃがみこむ奥村くん。これじゃあこっちが悪いことをしてしまって申し訳ない気分になる。

「お、俺のほうこそ、ごめん」
「え、いや」
「忘れてくれ、なんて…無理、だよな」
「ううん。奥村くんが忘れて欲しいんなら、忘れる、けど…」

まあそれはちょっと嘘だ。だって、しっぽ、はえてた。動いてた。びっくり。さっきの映像はきっと頭から消されることはないほどの衝撃があった。
しゃがんで頭を下げていた奥村くんがそのままの体勢でばっと顔をあげた。その目はきらきらしていて、ほんとか!?と嬉しそうに言った。こういう嘘なら、言っても許されるんだ、な。

「ほ、ほんと」
「ありがとナマエ!お前、いいヤツだな!」

ああ、けど、このきらきらした目には少し罪悪感を感じる。



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