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あと少し。
ちょっと勇気を出すだけ。ちょっと手を伸ばすだけでいいの。
ほんの少しでいいのに。








「あーッ、…ダメだ…」

奥村燐はうがーっとその場で頭を抱えた。目を瞑って眠る女の子、ミョウジナマエの手を握ることさえできずにただベッドの横でその姿を見つめるだけ。それだけしかできない。悪魔との闘いで傷つき気を失ったその子をひとりにしてはいけない、傍にいてやりたい、そんな気持ちでいるのに。起きたとき誰かが傍にいてくれれば安心するだろう。手を握ってやれればもっと…、だけど…。
燐はナマエの手と自分の手を交互に見ることを繰り返しやがてはぁ、と大きく深いため息をついた。意気地なしめ、と燐は心でつぶやく。

「…んん、…」
「あ、」

ベッドの中でもぞもぞと動くナマエ。小さく漏れた声に燐はじ、とナマエをみる。その眉間には皺。なんか怖い夢でも見てんのかな、と燐はなにもできない自分にイライラ。そんな燐の眉間にも皺。

「り、ん」
「…!」
「たすけ、…て…」
「ナマエっ…!」

いま、確かに自分の名前を呼んだ。助けてと言った。ガタンッ。勢いよく立ち上がったことで燐の座っていた椅子が倒れた。

「ナマエ、ナマエ…」

気が付けば燐はナマエの手を握っていた。本人はまだそれに気づいてはいない。ただ、必死にその名を呼ぶだけ。どうしていいかわからない。具体的なことなんて知らない。ただ、傍にいて、手を握っててやんなくちゃという気持ちで燐の頭はいっぱいだった。



110417
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