ショート | ナノ

背中には壁。右にも壁。左には志摩の腕。それらに囲まれ、わたしは逃げ場をなくした。
目の前の志摩はへらへらとわたしの嫌いな笑みを浮かべていて、むかついた。その顔は最近よく見る。女の子と話してるとき、そんな笑い方ばっかりしてる。きらい、だ。それに、余裕しかなくて、わたしを惑わせるその瞳も、きらい。

「ナマエちゃん」
「……」
「つれないなぁ」
「離れて」
「嫌やって言うたら?」
「…、嫌いになる」
「よかった…」
「は?」
「俺、もう嫌われてると思ってたわー」

馬鹿だ。コイツ馬鹿だ。今だって嫌いに決まってるじゃない。それを今以上に嫌いになるって言ってるの。あーほっとしたわぁ、とかなんとか言ってなにをうれしそうに笑ってんのよ。ばっかじゃないの。

「…っ」
「あはは、ナマエちゃん顔赤いでー?」
「き、気のせいだバカ!」

へぇ、と言ってにやにや笑う志摩。ああその顔はさっきの笑みとは違う意味でむかつく。ぶん殴りたい。
けど、顔が熱くなっているのは事実。なんとなく手がだせない。なのでぐっ、と手に力を入れるだけで止める。

「ところで、最近なんで俺のこと避けてたん?」

志摩はにやにや笑うのをやめると急に真剣な表情になってわたしをじっとみた。

「…き、きらいだから、」
「嘘やな」
「!」
「なぁ…、俺の勘違いやったらあれなんやけど…」

いきなり志摩が顔を近付けてきた。頬に志摩の髪が触れて、くすぐったくなったわたしは目をぎゅっと瞑った。ななな、なんなのこいつ!なにしてんの…!耳元にふ、と息がかかる感覚。

「…ほかの女の子に構ってばっかりやったから、妬いてくれてたんとちゃう?」

べろり。志摩の舌がわたしの耳を舐めた。ぞわり、全身の鳥肌がたった。
は、はあ!?こいつなにしてんのほんとに!けどはじめてのことに、わたしは驚き声を出すことも動くことも抵抗することもできず、フリーズ。

「ナマエちゃん…?」
「…、っ…」
「あ、あれ?もしかして怒らせてしもた?」
「…し、志摩の、」
「ナマエちゃ…」
「志摩のばかあほ変態!」

なにも舐めることないじゃないか。ばかばかばかばか…!
志摩を突き飛ばして走る走る走る。最初からそうすればよかったのに。
壁があるから、志摩の腕があるから、だから逃げ場がないなんておかしい。ほんとは志摩の言ったことが当たってて、わたしが志摩に構ってほしかったから逃げなかったんだ。志摩の、ばあか。

赤い顔を隠しながら廊下を小走りしていると奥村兄に見つかって顔が赤いことを笑われた。恥ずかしい…!次会ったら有無を言わせずに志摩のことぶん殴ってやる。



110417
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -