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金造はいつもの乱暴なそれじゃなくて、やさしくわたしの手を取った。行くで、とだけつぶやいてぎこちなく足を動かした。わたしのことを思ってか、その歩みはゆっくりだ。

「金造」
「なんや」
「ありがとう」
「……」

金造は返事をしない代わりにわたしの手を少し強く握った。わたしもそっと、ぎゅうと握り返した。それから僅かに、歩く速度がはやまった気がしたのは気のせいだろうか。
祓魔師でもなんでもない、ただの一般人が悪魔に立ち向かおうとするなんて無謀や。そう叱られたことは何度もあった。危険だからやめろと何度も言われた。主に柔造さんと八百造さんに。無謀?危険?それくらい承知の上だ。目の前で悪魔に襲われている人が居て、そこで、自分だけ逃げろっていうのか。目の前の人間を見捨てろっていうのか。助けを呼びに行く間にもしものことがあったら?……やっぱり、守るために戦わなくちゃって思うでしょ。

わたしを引っ張りながらこそこそと虎屋の空き部屋に入る金造。ここまではまだ誰にも会ってない。このまま誰にも見つからなければ今日のことは怒られないかなあ…。金造は最初からこの部屋に来ようとしていたらしく、隠してあった救急箱を出しながらわたしにイスに座るように顎で指示した。イスに座って大人しく待つことにしたわたしは、考えた。金造、もしかして今日もまたわたしがやらかすことを予想してた、とか…?

「いッ…いたたたたた!」

左右のこめかみに金造が握りこぶしを押し当ててそのまま…ぐりぐり攻撃!痛い!そして長いよ金造!やりすぎだよ金造!うっ、と涙目になると金造にふいと視線を逸らされた。地味に傷つくじゃないか。

「また新しい傷作りよって…こンのド阿呆が」

救急箱を開けながらわたしの目を見ずに放ったその言葉。わたしのことを心配して言ったのか、わたしがまた危ないことをしたと柔造さんに知られて一緒に怒鳴られるのが困るからなのか、それともその両方か。……わたしは金造が悔しそうに顔を歪めているのを見てなんとなく答えが分かってしまった。

「ほれ、足出せ足」
「え、……う、おっ」
「あ?」

足を掴まれてぐいっと前に引っ張られる。瞬間、金造が眉を顰めた。足の裏がずきずきと痛むのを感じて嫌な予感。

「靴はどないしてん」
「へ?」
「ここ入る時、ナマエ…靴履いてへんかったやろ」
「……、脱げた」
「いつ」
「悪魔の攻撃をひょいっと避けたときに、ずるっと脱げ、」
「チッ」

いきなり舌打ちですか金造サン!
ここに来るまでずっと裸足だったけど、金造は前しか見てなかったし別に言わなくても大丈夫だと思ったからずっとそのままで。……そしたら、足、なんか傷だらけで。いやでも!ちょっと痛いだけでぜんぜん平気だし!

「悪かった」
「……!」

金造が本当に申し訳なさそうな表情でわたしを見た。ちがう。金造は悪くない。そんな顔しないで。

「俺が気ぃつかへんかったさかい…」
「違う!金造はなにも悪くない!」

金造はなんにも悪いことしてないしこれは全部わたしが悪いことなんだから。まだ何か言いたそうに口を開けていた金造に、これ以上悲しい顔をさせないように、謝られないように、止めなきゃ!そう思って金造の両腕をガシッと掴んだ。勢いあまって顔を近づける形になったが気にしない。だって、だって……!

「っそ…それくらい知っとるわボケ!」
「いッ――?!」

一瞬なにが起きたのか分からなかったがすぐに気づく。一気に近づいたと思った金造の顔がスローモーションみたいに離れていく。頭突きされた……?ぐわんと視界に歪む。あ、あれおかしいな。なんで頭がくらくらするんだろう。さっきのがスローモーションに見えたのは頭突きされたから、だろ、う、か。




「お、目覚めたかド阿呆」
「……金造、」
「んあ」
「謝れ金造」
「俺は悪くない、…お前が言うたんやで?」

確かに言ったけど頭突きの件は別だからね!
にやにや笑う目の前の金造を殴りたい。ふ、とわたしの視線は金造の頬へ。金造の左頬が見事なくらい真っ赤に腫れている。やったのは…柔造さん、だろうか。
布団に寝かされているらしいわたしは身体を起こそうとしたのだが、まだ横になっとき、とにやにや笑うのをやめた金造に言われる。その表情は真剣、だ。

「もうすぐ柔兄の雷が落ちるさかい横になってた方が楽やと思う」
「分かったありがとう金造」

わたしも金造も真剣な表情で見つめ合い頷いた。



あわよくば

「……お父も来たらどないしよ」「その時は、その時だよ」「柔兄もほんま容赦ないしなあ」そう言って赤く腫れた頬をさする金造。「あ、やっぱりそれ柔造さんに?」「おん。ナマエに頭突きしたんをちょうど見られとって、ほんで、この有様や」「自業自得」にやりと笑って言うと金造がむっとした表情になる。「お前も今から怒られんねんからな」ふん、と鼻をならす金造をわたしは軽く流す。「…柔兄かお父が来る前に逃げるのも、アリやな」「逃げたらもっと怒られちゃうよ」「……」「大人しく怒られよっか」「…せやな」



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