ショート | ナノ

「あれ、燐?」

燐がいない。あれ?おっかしいなあ。さっき寮の入り口でちょうど任務へ出ようとした雪男と会ったけどそのとき「兄さんなら部屋に居ますよ」と言っていたのに、その部屋に燐の姿はない。雪男が嘘をついたとは思えないし、燐が今日の勉強会のこと忘れるはずないし。

「にゃあ」
「!」

足元にやわらかいふさふさしたものがすり寄ってきて吃驚した。クロだ、…ってことはやっぱり燐はこの寮のどこかにはいるんだね。その場に屈んで、クロの頭を撫でてやる。

「おーい、クロ」
「(いいにおい、する…)」
「燐はどこ行ったのー?」

気持ち良さそうに目を閉じて鳴くクロはすごく眠たそうで、私の声が届いていないみたい。よいしょ、とクロを抱える。そして私が撫でていたら、そのまま……眠ってしまったようだ。ふむ。これで燐がどこにいるか、誰にも聞けなくなったぞ。みんなとの待ち合わせ時間までにはまだ少し時間があるけれど、燐のこと…探したほうがいいよね?私はクロを抱えたまま部屋を出た。

「食堂はさっき通ったからいない、…となれば考えられる場所って…」

お風呂、くらいなんだけど。この時間帯に来るって言ったのに、時間ギリギリにお風呂入るってどうなのよ、燐ってば。お風呂にいたらもっと早くに入ってなさい、って言ってやろう!私が腕の中でぐっすり眠るクロを見つめ、撫でながら歩いていると前方から声が聞こえた。

「あー、さっぱりし…た…?」

顔を上げてみると、タオルを首にかけた燐が前に立っていて、その場でぴしりと固まっていた。下は穿いているけど、上は何も着ていない。

「なななな、な!」
「えーと、おはよ、燐」
「はよ、…じゃ、なく、て」

見た私じゃなくて、見られた燐の方が顔を真っ赤にしている。というか、私は極力その肌を視界に入れないようにしている。燐、動揺しすぎ。燐が大きな声をあげるもんだからクロが腕の中でもぞもぞと動いた。クロは寝たばっかなのに、起きちゃうじゃんか燐のばか。

「は、早くねえ…?」
「早くない。時間ぴったりだよ」
「とり、あえず俺は着替えてく…」

そこまで言って燐が口を動かすのをやめ、私をじっと見てきた。…あれ、目線が違う。私じゃなくて、私が抱えてる……クロ?

「なんでお前のそこにクロがいるんだよ」
「撫でてたら、そのまま寝ちゃった…から?」
「いやだからなんで、クロが、お前にぎゅーされてんの」
「?」

燐が少し怒ったような口調で、ぎゅーされてんの?なんて可愛い聞き方をしてきた。うーん、なんで、と言われても私がクロのこと抱えて撫でてたら寝ちゃったからそのままこういう状態になった、としか言いようがない。それだけで、どうして燐が怒っているのかも…わからない。

「俺だってされてえし…」
「え?」
「な、なんでもねえ!」

ぼそ、と小さくつぶやく燐の言葉を耳で拾うことはできなかったけど、燐はすごく怒ってて、すごく照れてて、…なんだか忙しそう。まあ、今はぎゅーがどうのこうのより、燐にはまず準備してもらわなきゃ。

「まあ、とりあえず準備しなよ、燐」
「…」
「みんなを待たせるわけにもいかな、」

私の言葉が止まったのは、こっちに近づいてきた燐が強引に私の肩を引き寄せたから。突然、どうしてこんなことをされたのか分からん。まったく分からん。とにかく、今、とてつもなく恥ずかしい状態であることは確かだ。だって、上が裸の燐とこんなに密着しているんだから。

「燐…?」
「今のお前は、クロだ」
「は?」

本当にわけが分からない。どうして裸の燐と密着した今の私がクロなんだ。クロなら私の腕の中にいますよ燐くん。

「クロって雄だろ?お前は女で、俺は男だろ」
「うん」
「つまり、そういうことだ」
「うん…?」

つまり、どういうことだい。いま分かったことと言えば、燐の顔が真っ赤だってことくらいなんだけど。

「まあ、俺が言いたいのは、クロのこと離せ…ってことなんだけど、よ」

え、それだけ?燐ってば、それならそうと早く言ってよね。結構この状態、恥ずかしかったんだからね。肩をつかんでいた手がゆっくりと離されたので、私は屈んでクロをそっと床におろした。ごめんねクロ、なんだかよく分からないけど、燐がこうしなきゃずっと恥ずかしいことしてくるから。

「これでいい?」
「おう」
「じゃ、早く準備しなさい」
「やだ」
「なんで」
「今からやんなきゃなんねーことがあるから」

燐はにやりと口角をあげ、私の腕をつかんだ。ぐい、と引っ張られたかと思うと燐の唇が私のおでこに触れていて。

「なっ…!」

いきなり何するの!と声をあげようと思ったけど、そうする間もなく壁に押さえつけられる。あれ、なんでこんなことになってるの。心臓がばっくんばっくんと音をたてて、自分がどれだけどきどきしてるかが伝わってきて緊張する。燐が本気の目をしていて、脳は危険信号を出しているけど、逃げ道は見つからなくて。

「今からたくさん教えてやる」
「燐は教えてもらう側でしょ、勉強会、いこう?」
「ちょっとくらい遅れてもいーだろ」
「よくない」
「いいんだよ。…だって、」
「っ、燐…?」
「…今から俺が、どんだけお前のことが好きかを教えてやるんだから」



いっしょにれよう

110722
お誕生日のなこちゃんへ捧げます!HappyBirthday!
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -