心象風景ーーそれは僕らが同じ景色の中に居ようと、君と僕とに分けてしまう、心の絵の具に染まった風光。


そう思っていた。

二センチ前までは。



碇シンジの眺め


届きそうで届かない。

僕は薄目を開けていた。本当に綺麗なものは近づけば近づく程そうと確信できるんだ。

カヲル君は間近で見れば見る程に息を飲む程綺麗だから、それが世界中で僕にしか知られていないことは残念だったりする。もし僕以外の人がそれを見つけることがあったなら、僕は死んじゃうかもしれないけれど。

君を最も近くで見られて、視界がぼやけない距離、二センチ。

この黄金の景色があれば、僕はこの先どんな苦難が待ち受けていても、生きていける気がする。

「ふふ。僕を見ていたね。」

「な、なんでわかったの?」

君は何も言わずにもう一度僕に熱っぽく口付けた。

「はったりさ。君がそうだといいなと思って。僕もたまに薄目で君を見ているからね。」

「…僕、どんな顔をしているの?」

「そうだね。唇が重なる少し前、君は切なそうに眉を寄せるんだ。とても言葉では表せないくらいに美しいんだよ。その景色があれば、僕はどんな事があっても生きていけると思えるのさ。」

あ、

僕と同じだ。

「ねえ、それなら今度は、ふたりで目を開けてキスしてみようよ。」


君も僕と同じように二センチの距離で時を止めているのだろうか。



渚カヲルの眺め


触れる手前の刹那の中で、君を想う。

世界が結晶化するその瞬間に、僕は今、生きていると思えるんだ。君を感じる命の躍動。それが、僕の全て。

シンジ君は世界を止める力を持っている。何故なら僕がその唇を欲しがりもう少しで届きそうと分かる時に、永久に待ち焦がれていたような高揚にこの全身が染まるんだ。君を求める永遠の一瞬。

君が世界の全ての時計の針を止めてしまう距離、二センチ。

この結晶の中で生きられたら、僕は歓びに燃え尽きて終わらない命を灰にしてしまうだろう。

「…視線の絡んだキスはどうだったかい?」

「ふふ。わかったことがあるんだ。」

君はそう僕に告げて、その熱くなった指先を僕のそれに絡ませた。

「二センチ。僕の世界も君の世界も止まるんだ。だからつまり、僕らの世界が止まって同じ景色を見てるんだ。」

「…僕らの世界はどんな世界なんだい?」

「キラキラしてて眩しくて、とても綺麗なんだ。きっと星が生まれる前もこんななのかもしれない。僕ら同じ世界に生きていて、きっとその世界に住んでいたら、嬉しすぎて僕は死んでしまうと思う。」

あ、

僕と同じだね。

「もし、僕達が死ぬ時は、その世界で永遠の眠りにつくんだろうね。」

僕等の刹那的な感傷は恋の方程式で二センチと云う黄金の解を見つけたのだった。



最高の二センチ

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