絶対的な献身


よくやるよな、ケンスケは思った。今日も教室の一角では絶対的な献身が行われている。毎度毎度本当に飽きないな、そう心の中で呟いてから、ひとつ大きな溜め息を漏らして、頭の中をメタリックな軍艦で埋め尽くした。

渚カヲルは献身的に碇シンジに尽くす、尽くす、尽くす。学校一の伝説と化した絶世の美少年は同じクラスの慎ましくも素朴な少年の側を片時も離れなかった。その少年はダイヤモンドの原石である。それはアレキサンドライトかもしれないしサファイヤかもしれない。けれどもその事は彼の周りの人間だけが知っていた。現物を見つめてから初めて良さのわかる絵画もあるという事だ。

カヲルは初めてシンジを見つけた時からそれに気づき、以来ずっとその原石を磨き続ける。磨くといっても献身的な愛で支えるようなもの。色めき立った女子達も、どんなに自分達が愛想や色気を振りまいても一瞥もくれられず、隣の少年ばかりを見つめる紅い瞳に最近ついに降参した。手の届かない相手よりも身近に己を満たしてくれるそこそこの相手と恋をした。だから二年A組は静かなのだ。

今日もカヲルはシンジの日直を手伝い、プリントを一緒に運び、黒板を綺麗にし、掃除をするために箒と塵取りを持つ。シンジの髪に付いた埃を取って、シンジの額に浮いた汗をハンカチで拭き、シンジの口元に付いたご飯粒を取ってひょいっと自分の舌に乗っける。

「恥ずかしいよ、カヲル君。」

「とっても美味しいよ、シンジ君。」

けれどもケンスケは知らなかった。この絶対的な献身は、カヲルに言わせれば消極的な献身。学校の一歩外を出たら、カヲルのシンジに対する本当の献身が始まるのだ。


「汗をかいているね。着替えさせてあげよう。おいで。」

シンジとカヲルは半同棲をしていた。シンジの母親は他界し、父親は家にたまにしか帰ってこない。だから自然とひとり暮らしのカヲルの家にいる事が増えていった。カヲルは言った。生活用品を持っておいで、着替えを持っておいで、勉強道具を持っておいで、そうして最近ついに、必要な物を全部持っておいで、もう帰らなくていいように、そう言われてシンジはそれに従った。

「自分で着替えられるから、大丈夫だよ。」

シンジはカヲルのあまりの世話焼きぶりに苦笑する。

「僕に着替えさせてはくれないのかい?」

シンジが自分の必要な荷物を全てカヲルの家に預けてから、日常が少しずつ変化していった。カヲルの行為はエスカレートしている、シンジは頭の片隅でそう思った。けれどそれは不快ではない。痺れるような甘さなのだ。思わず眉を寄せてしまうような。

カヲルはシンジの部屋着を選んでシンジの背後に立った。後ろから体を抱くように手を回して、制服のカッターシャツのボタンをぷちりぷちりと一つずつ丁寧に外していく。時折耳にカヲルの息が掛かり、シンジは身震いしながら手のひらをぎゅっと握り締めた。やがてインナーまで脱がされて、シンジは流石に心許なく両腕を前で抱えるようにする。そうしている間にもカヲルの手はかちゃりとシンジのベルトを解くのだった。

「は、恥ずかしいよ、やっぱり…」

「僕は最後まで君を着替えさせてあげたいよ。駄目かい?」

駄目かい?この言葉にシンジは弱かった。この言葉の前では自分は平伏すしかないのだ。いいよ、カヲル君、そう伝えてシンジは大人しく下着以外を脱がされてしまう。

「んん…」

シンジの喉から妙な声が漏れ出た。露わになった内腿にカヲルの冷たい指先が這ったのだ。

「…埃が付いていたんだ。」

そう言ってカヲルはシンジに部屋着を着せた。その布の擦れる音に紛れてカヲルの喉はごくりと鳴ったのだった。


それからシンジを着替えさせるのはカヲルの役目になった。そして時たま埃や糸屑を見つけたと言い、それを白い指先で撫でるようにして取る。その度にシンジは我慢出来ずに甘い溜め息を漏らすのだった。でもその行為だけではない。お菓子を食べさせてあげる。髪を乾かしてあげる。マッサージをしてあげる。同じベッドで寝かしつけてあげる。ふたりの日常にはそうして砂糖よりも甘い献身でまぶされていった。親から大切に世話をしてもらった記憶のないシンジにとって、それはとろけるような幸せの味がしたのだ。舌が甘さで痺れていく。だからその舌をぺろりと動かしカヲルを想い、シンジは瞳を閉じてその痺れに酔いしれるのだった。


「今日は一緒にお風呂に入ろう。シンジ君の体を洗ってあげるよ。」

いくらカヲルの中毒になったシンジでも、流石に目を見開いた。

「だ、ダメだよ。温泉じゃないんだから…」

そう、ここはカヲルの家だ。カヲルの家の浴槽は小さかった。

「僕は君にそうしてあげたいんだよ、シンジ君。」

その真っ白で綺麗な顔が悲しそうに歪んでいる。あ、来る、シンジは思った。

「…駄目かい?」

シンジは目を閉じた。この言葉は魔法の言葉なんだ…

「…いいよ、カヲル、君。」

「ありがとう、シンジ君。嬉しいよ。」

先に入ってて、と言われたのでシンジはそそくさと服を脱いで湯舟に浸かった。いつもよりも浴槽が狭く感じる。これからカヲルと一緒に浸かるためには自分はどれくらい縮こまればいいんだろう、そう思って体を出来るだけ小さくするように膝をぎゅっと抱き締めてみた。するとガラッとドアの開く音がしてシンジは視線を上げる。そしてその事をすぐ後悔して視線を逸らした。

僕が意識しすぎなんだろうか、シンジはそう思いながら真っ赤になって俯く。一糸身に纏わずに真っ白な素裸のカヲルの真ん中にある、雄としてのそれはシンジのものよりも大きくしっかりとしていた。こんなにカヲルと一緒に過ごしていたのにシンジはその事を始めて知ったのだった。男としてのその逞しい姿形にシンジの体はざわついた。

ーど、どうしちゃったんだろう、僕…

急にのぼせたみたいに体が疼いてシンジは湯舟の中で小さく小さく体育座りをした。

「シンジ君、のぼせてしまったみたいだね。先に体を洗ってあげるよ。おいで。」

シンジは逃げ道を既に無くしていたから、せめて自分の異変に気づかれないようにと、小さく頷いてからゆっくりと湯から上がった。カヲルのよりも小さなそれを見られるのが恥ずかしくてなるべく前が見えないように体を屈めて風呂のイスに腰掛ける。その姿をカヲルはまじまじと食い入るように見つめて頬を紅潮させていたことにシンジは気がつかなかった。もちろんカヲルを背にして座っているシンジは、その後いくらカヲルが熱っぽい眼差しで自分の体を舐め尽くすように眺めていようとも気づかずに、ただじっと自分の体の疼きに気づかれないように意識するだけだった。

ふたりの使っているシャンプーは爽やかな甘い香りがする。カヲルがいつも選んで買ってくるその香りがシンジは好きだった。優しい圧力で指先で地肌を揉む感覚が気持ち良くて、思わずシンジは溜め息を漏らす。それに呼応するように、カヲルの唇からも熱い溜め息が漏れて、シンジの首筋をじんわりと温めたのだった。

カヲルがシャワーでシャンプーの後にトリートメントをつけたシンジの髪を一本一本を愛しむように丁寧にぬめりを洗い流すと、次はシトラスの香りが風呂場を満たす。クリーム色のスポンジがモコモコ泡を吐き出すと、それを白い手のひらが取り、健康的な素肌に優しく擦り付ける。摩るようで滑らかな感触に思わずシンジは細かく震えた。じんと体の中心が熱くなる。その手のひらは肩から始まって、腕を、首を、背中を丹念に泡塗れにして、流れのままに平たい胸に辿り着く。

「ん…」

シンジは思わず呻いてピクンと体を跳ねさせてしまう。何時の間にかふたつの小さな突起がつんと立ち上がっていて、カヲルの長くしなやかな指がその先端を掠めたのだ。シンジは耳まで赤くして、漏れ出た声が聞こえてしまっただろうかと、早鐘を打つ心臓の音が伝わってしまっているのだろうかと、緊張して息を潜めていたが、カヲルは何も言わなかった。ただ突起を優しく避けるようにして洗い上げ 、腹を洗い、そしてーー

「あ、あとは自分で洗うから!」

下腹部のそのまた下まで指先が伸びてきたので、思わずシンジは語気を強めてカヲルの指先を掴んだ。

「…そうだね。」

そうは言ってもシンジが前を洗っている間に、カヲルの指先は休まず腿やふくらはぎを摩ってしまっていた。それについてシンジはもう何も言わなかった。

すっかりシャワーで体の泡を流されて、ありがとう、とひと言添えてカヲルを振り返ったら、カヲルは熱に浮かされたようなのぼせた表情をしていた。潤んで赤みがかった目に半開きの唇は、今までシンジが見てきたどのカヲルでもない、初めての面だったので、シンジは心底驚いた。まだお風呂にも入っていないのに。

「…僕もすぐ洗うから、先にまた湯舟に浸かってて。」

「…僕もカヲル君を、洗おうか?」

「ん、ありがとう…今日は、大丈夫、だよ。」

カヲルに似合わずたどたどしい口調だったので、シンジは何故だかどきりとしてしまう。そしてカヲルに背を向けるようにしてゆっくりと浴槽に体を浸した。そうしないと目のやり場に困ってしまうから。カヲルの美しい肢体を一度見つめてしまったらもう目を逸らすことが出来ないとシンジは思ったのだ。

シャワーの音が止む。ちゃぽんと水音がしてから、水位が上がる。背中から抱きすくめられるようにして、カヲルの股の間に収まり、脇の下から優しく腕を回された。シンジの肩甲骨とカヲルの胸板が密着して、互いに吸い付くように素肌が合わさっている。シンジは心臓が飛び出そうで声も出なかったが、背中から響く心音もとても早く脈々としていた。

「…とても綺麗な肌をしているね。」

「そ、そうかな…カヲル、君も…きれい、だね。」

「ありがとう…」

カヲルの顔がシンジの首筋に擦り寄って、すうっと鼻で深呼吸をひとつする。

「…僕達、同じ匂いなんだよ。」

「同じ、匂い?」

「そう。ふたりの時だとわかりづらいけれど、学校でね、同じシャンプーの匂いがするんだ。ふわっと僕と同じ匂いがすると、シンジ君がすぐ側にいるってわかるんだ。」

「そう、なんだ…」

シンジは学校にいる時もこんな風にカヲルに全身を包まれているんだと思って、胸がきゅんと痺れた。

「僕、何から何まで、カヲル君一色なんだね…」

その言葉がやけに浴室に響き渡ると、腰に何か硬い物が当たった気がして、シンジが少し身じろぐ。

「シンジ君、そろそろのぼせてしまうから、上がった方がいいよ。僕はもう少しお湯に浸かっているから…」

急にカヲルのピタリとして有無を言わせない声が響いてシンジはどきりとした。

「うん、先行ってるね…」

そう言ってシンジは浴室を後にしたのだった。

しばらくして風呂上りのカヲルがベッドに腰掛けると、その体は何故だかぐったりしているようだった。

「カヲル君、大丈夫?」

「ふふ、大丈夫だよ。遅くなってごめんね。僕が乾かす前に乾いてしまったね。」

そう言って黒髪を撫でる白い指先にシンジはうっとりとその瞳を閉じた。


それからシンジは度々体が疼くことがあった。寝る前にカヲルが顔を近づける時、一緒にお風呂に入り首筋や胸を白い指先が洗う時、着替えのズボンを下ろして糸屑があると言っては尻や腿を撫で上げられる時。その曖昧に成長した体を中心線に沿って甘い痺れが走っていく。そして今日もそれが起こった。休日をふたりでのんびり過ごそうとブランチを食べた後、ふたりしてベッドに並んで寝そべっていた時のことだった。

「…たまにはこんな休日もいいね。」

「君と過ごせる時間なら、どんな過ごし方だって素敵だよ。」

「また、カヲル君は。そんなことばっかり言ってる。」

「本当の事だから仕方が無いだろう。君はどうなのかな?」

そう悪戯っぽい声を出して、隣にいたカヲルはシンジに覆いかぶさるようにして抱きついた。

「か、カヲル君!重いよ!重いって、ば……あ!」

シンジの突然の嬌声に驚いてがばっとカヲルが起き上がると、シンジが泣きそうな顔をして顔を横に向けていた。シンジを抱き締めている時にじゃれたカヲルの指先が、逃げようと身を捩ったシンジの下腹部に強く掠めて、薄い部屋着の上から強い刺激を与えてしまっていたのだ。シンジの中芯はほんのりと膨らんでしまっている。

「…シンジ君……」

「……、」

シンジは恥ずかしさにあまり声も出なかった。

「恥ずかしがることはないよ。僕が楽にしてあげるからね。」

え、とシンジが心の中で呟くと同時にシンジは下着ごとカヲルに膝までするりと脱がされてしまっていた。

「あ!だめ!カヲルくん!やめて!」

カヲルは熱い溜め息を吐いて小さく膨らみ始めたシンジのものを見つめていた。

「やだ!やめてよ!」

シンジが咄嗟に前を隠しても、優しく嗜めるように指先をぱらりと剥がされてしまう。

「やだ!やだ!お願い!カヲルくん!」

すっと白い指先がその小さく頭をもたげるものに添えられると、シンジの腰はびくりと跳ね上がった。

「あん!だめ!カヲルくん!やだ!やだ!……かをるくん!ああ!」

ちゅくっと艶かしい音を奏でて、カヲルはシンジのものを口に咥えていた。もうそれからはシンジの切ない喘ぎが部屋中に響き渡り、だめ、やめて、いや、などの短い言葉は時折混じるくらいだった。その間を卑猥な水音が埋めていき、腰を捩る床擦れの音がちらほらと重なり、息を多く含んだ喘ぎは段々と甲高い叫びに変わって、シンジの中芯は自身でも驚く程張り詰めた後にカヲルの口の中で弾けた。指先を銀髪に食い込ませて腰を持ち上げ引き攣らせたシンジは、熱い白濁を震えながら出し切ると、くたりとシーツの上に沈む。その姿を恍惚とした表情でカヲルは見届けながら、ごくりと何度か大きく喉を鳴らした。そしてずずっと残りの水分を吸い切って、舐めとって、名残惜しそうに唇を離す。まるでキスの後のように。それでも唇の端から垂れたシンジの精水まで指で拭い舐め取ると、それはそれは恍惚ととろけた笑顔で興奮に酔いしれるのだった。自分の中にシンジを吸収する喜びは彼の支配欲をひたひたに満たした。その時カヲルには何も見えていなかった。

「シンジ君…僕のシンジ君………シンジ君?」

そしてやっとカヲルは気づく。くたりと動かなくなった愛方は静かに泣いていた。唇を噛み締めて、両腕で顔を覆って、火照って紅潮した頬は汗か涙かわからないくらいに濡れていた。

「シンジ君、どうしたんだい…?」

蒼ざめたカヲルの声は震えていた。そんな筈がない、と彼は思った。そんな筈がない、自分に愛されて果てた目の前の愛しい人が泣いている筈がない。今までずっとそうだった。自分の行為に彼は酔いしれて微笑んでいた。ありがとう、と言っていた。自分の献身はいつだって彼を満足させたんだ。自分の献身で彼が泣くなどという事は絶対にない。そんな筈が…

「いやだって言ったのに…いやだって…」

「でも、気持ち良かっただろう?楽になっただろう?」

「でも、僕は望んでなかった。嫌だった。カヲル君が望んで勝手にやったんだ。カヲル君だけ喜んでたんだ。」

そうしてシンジは嗚咽混じりに声を出して泣いてしまった。カヲルはその姿を見て、愕然とした。足元から今まで積み上げてきたものが全て崩れ落ちてしまった気がした。苦しかった。シンジの哀しみがカヲルに染み渡り、生まれて初めて胸が苦しくて苦しくて涙が溢れた。ぽろりと頬と伝う透明な水は唇を掠めてしょっぱかった。

カヲルはその時初めて知った。自分の行為は献身などではなかったと。自分の望んでした、自分の為にしていた行為。シンジが好きで好きで堪らなくて独り占めしたくて、触れたくて触れたくて支配したくて、善意に似せて行動していただけだった。本当に献身的に尽くしたのはシンジの方だったのだ。全てを受け入れるという絶対的な献身でカヲルを笑顔にしていたのは、紛れもなくシンジの方だった。

「…僕は、卑怯だった……」
 
初めて聞くカヲルの涙に濡れた声にシンジは驚いて泣き止んだ。恐る恐る腕の隙間からカヲルの方を見てみると、カヲルが顔を歪めて苦しそうにぽろぽろと涙を零して泣いていたので思わず腕を顔から外した。

「…カヲル君……」

「ごめん、シンジ君……僕は君の優しさにつけ込んで、卑怯な道を選んでいた…君の事を恋愛として好きなのに、そうと言う勇気が無かった…君は僕が何をしても許してくれたから、まるで恋人のように僕は振る舞っていたね…自分でも境界線がわからなくなっていた…」

カヲルは浅い呼吸をして唇を震わせていた。シンジは今やっと本当のカヲルの姿を見た気がした。常に自分を甘やかし手を引いてくれていたカヲルは実は、自分と同じように他者に怯えたり憧れたりして愛を求めるひとりの少年だったんだ、と。

「シンジ君、君が好きだ。どうしようもないくらいに、好きなんだ。初めて君を見つけた時からずっと、ずっと。君を知る度に君をどんどん好きになっていって、いつしか体が君を求めるようになっていたんだ。だから君に触れたくて、触れたくて…卑怯なやり方で君に触れていた…ごめん…」

シンジはカヲルを見つめていた。なんて綺麗な人なんだろう。自分を好きだと言ってくれる。いつだって側にいて、自分が欲しくても手に入らなかったものを毎日のようにくれる。

カヲル君、僕は君の事が…

壊れたようにシンジを好きだと言っているカヲルの頬にシンジは腕を伸ばした。指先が濡れた頬に触れるとカヲルはぴたりと静かになった。自分を跨いで前屈みに座っているカヲルを手のひらで頬を挟み自分の方に誘うと、吸い込まれるようにカヲルはシンジに顔を近づけて、そのまま体を重ねた。

「僕は、君が好きだよ、カヲル君。初めて会った時からずっと、好きなんだ。」

シンジはそう告げるとそのまま自分の方へとカヲルの顔を導いて、初めてのキスをした。軽い細やかな音がするような優しいキス。とろけるようで、それでいて…

「にがい…」

その感触にうっとりとした。でもびっくりするくらい不思議な匂いと苦味が口内に広がる。

「君の味だよ、シンジ君…」

カヲルがとろけた笑顔で言う。

「僕、カヲル君が嬉しそうにしてるから、おいしいのかと思ってた。」

自分の精液をとても美味しそうに恍惚と飲み干していたカヲルを思い出す。

カヲル君はこんなに不味いものを喜んでいたなんて。

「僕にとっては、美味しいんだよ。シンジ君の味だから。」

「……じゃあ、次は僕がカヲル君の味を知る番だね。」

シンジはさっきからずっと気になっていた。自分に覆いかぶさる体の真ん中が硬く腹を押していることを。

この日からふたりの絶対的な献身は、絶対的な愛情へと昇華したのだった。



よくやるよな、ケンスケは思った。今日も教室の一角では絶対的な献身が行われている。毎度毎度本当に飽きないな、そう心の中で呟いてから、はっとした。何かが違う。何だろう。ふたりが自分の前を通る。ケンスケの鼻の穴が少し膨らんだ。

あいつら…同じ匂いがする…

相田ケンスケがもう一度彼らを見た時、彼らはもう恋人同士にしか見えなかった。参ったな、と彼は思った。

「俺も野暮じゃないからな…」

そうしてそれからケンスケは、もうふたりを気にしなくなった。好きにやってくれたまえ。俺は自由恋愛主義者だ。



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