Twitterより イラストに文章を添えるタグによる掌編
距離感がおかしいとは言ったけど、別に、我慢比べをしようと言ったわけじゃない。
「じゃあさ、どこまでが許されるわけ?」
五分前、渚はちょっと不機嫌な声で僕にそう聞いた。だから僕は三メートルくらい離れてみせた。馬鹿じゃないのと渚は言った。そんなにパーソナルスペースとってたら電車にも乗れないだろって。
言われてみればそうだけど、そうじゃない。
僕が言おうとしたのは急に後ろから抱きつくなとか、手を握ってくるなとかそういうやつなんだから。
「君が我慢できなくなったら降参って言ってよ」
挑発的な声に僕の体は硬くなる。降参って卑怯な言葉だ。渚が近づいてきた。
「はい、残り一メートル」
一歩、また一歩。少しずつゆっくりになる。スニーカーが床へ着地する振動が、ビリビリと敏感になった肌に伝わる。
僕の心臓は警報を鳴らす。瞳は迫ってくる脅威を捉える。頭を下げて、瞼を伏せても、敵は視界に入ってくる。
僕は何をやっているんだろう。降参って言えばいいのに。突き放してやればいい。
「ねえ、もうキスしちゃいそうな距離なんだけど」
1ミリも動けなくなってしまった僕を、渚は嘲り笑う。息の根を止めようと、僕の肩に手を置いて、顎に指先を添える。
くだらない二文字の呪いにかけられた。
適切な対処法がわからないんだ。渚もそこは同じなんだろう。爪先と爪先がぶつかっている距離の中、渚はじりじりと僕に自由落下する。
隕石が降ってきて地球が壊滅するほどの事故が、これから、起こる。
「降参」
そう告げたのは渚だった。
僕は下を向いたままだ。火照った頬は自分の幼さを象徴しているようで、自覚した。僕は負けたんだ。
「なに意地になってるの?」
別に意地になっているわけじゃない。
「ねえ、なんで動かないの? 遠くにいても離れろって言う癖にこんなに近づいたら逆に何も言わないし。ちゃんと説明してくれないと意味わかんないんだけど」
「……距離感がおかしい」
僕はただ、意気地なしなんだ。
初恋というくだらない二文字
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