三日月をホイップに混ぜて
木漏れ日をポケットに入れて 続篇





セレナーデ・オブ・ストロベリーアイスクリーム


おなじみのデジタル数字がコンポの画面で点滅している。

『今日はストロベリームーンですね。月と太陽の距離が遠く、月が赤く見えるそうです。いただいたツイートで去年の様子を拝見しました。ふふ、まるで月が恥じらっているようだ』

心地いい声が鼓膜を程よく刺激する。

『そして地球からも離れているのでとても小さく見えるらしいです。わかります。恋をしているとそんな時がありますよね。相手の存在が大きくてこちらが縮こまってしまう。ああやっぱり、お月さまは恋をしているんだ』

軽やかな笑い声のあと。何を思い出しているんだろう。ラジオパーソナリティはうっとりと溜め息をついた。

『ハムみたいなんて言われていますが、僕にはストロベリーアイスクリームに見えます。ふふ、ストロベリーアイスが好きな君へ。大好きだよ。それでは今日はこのへんで。またね』

最後にチュッとリップ音が聞こえた気がする。

無機質な機械音が鳴って録音は終了。僕は放心する。今日も最高だった。「ふふ」って、「ふふ」って11回は言った……
ファンはみんな同じことを考えているらしい。番組のツイッター垢はファンの感想をRTしている。ハッシュタグ「#ふふ祭り」が爆誕していた。コアなカヲラーは渚カヲルの微笑の鼻にかかる息遣いが大好物。今日は柔らかめでお茶目さ5段階のうちの5くらいの「ふふ」だった。は〜〜むり。むり。

パソコンからアラーム音が聞こえて気づく。イプだ。

「カエル子さ〜ん、どうしたの?」
『…………』
「通信障害かな」
『……あれ私』
「へ?」
『ツイート……リツイした』
「ストロベリームーンの?」
『そう!!!カヲルさまの!!!麗しき!!!瞳に!!!私の!!!リツイが!!映ったの!!!やばい!!!」
「すごいじゃないですか!!よかったですね!!」
『やばい!!!しぬ!!!しぬ!!!し……プツッーー』
「カエル子さーん!!死なないでくださーい!!」

僕の叫びは虚しくカエル子さんは死んだ。いや、つまりーーカエル子さんは断末魔をあげながらヘドバンをしてその勢い余ってマウスをはねのけそれがピンポンのようにマグカップをひっくり返して咄嗟に液タブを救おうと持ち上げるつもりがそのまま目の前の画面に激突、液タブとパソコンは火花をあげて絶命した。けれどもうすでに断末魔をあげているカエル子さんはその数秒の出来事にこの世の終わりの沈黙を守っていたらしい。

__ま!!!カヲルさまのお目々に写ってしまったんだからそれくらいはね!等価交換でしょ!!!

そんなこの世が終わった直後にキメッキメのポジティブハイテンションなLINEが来てるなう。渚カヲルの精神効果はすごいなと改めて思う。

__きっとアイコンから私の名前も知ってしまったよね!!!
__きっともう覚えちゃったかもですね
__カエル子…ふふ、偶然だ。僕の名前と似てるね。これは何かの縁かな^^
__wwwww
__カヲル子、結婚しよう!!!\突然のプロポーズ/
__名前変わってますwwwww

僕はそんな地獄のピタゴラスイッチを体験したら次の日会社には行けないかもしれない。ゆとりとか言わないでください。だってパソコンと液タブを買い直すお金でどれくらい渚カヲルにお布施を納めることができると思っているんですか。むしろ必死に働けって?わかります。

「カエル子さん元気だなあ、ふふ」
「またカエル子さんかい?」
「わあああ!!」

振り向くとそこには。

「カヲル君、早すぎじゃない?」

繊細な飴細工職人でもこの美しい造形は実現できないであろう絶世のイケメンが微笑んでいた。

「君の大好きなものを買ってきたのにつれないな」
「え」
「いちごのアイス、いるだろう?」
「わ、嬉しい、ありがとう」

皆さん聞いてください。とても信じられないことだとは思いますが、

「おかえり」
「ただいま」

僕は熱狂的ファンをさせていただいてる渚カヲルさんと今、同棲しています。


「それにしてもカエル子さんは要注意だね」

カヲル君は僕にサプライズをしようとお土産のリッチなアイスを持ってタクシーで直帰してくれたらしい。僕たちはカヲル君の看板番組を放送しているラジオ局の近隣に住んでいる。

「そんなこと言わないでよ。カエル子さんはカヲル君がツイート見てくれたって喜びすぎてパソコン壊しちゃったんだよ」
「猟奇的だね。ますます要注意だ」
「もう!言い方」
「僕の大切な恋人にちょっかいを出してくるんだから当然だよ」

カエル子さん、実はもうずっと前からあなたの名前は覚えてもらっています。

「それにしてもあれが彼女だったなんて気づかなかったよ。無意識にカエルのアイコンに反応してしまったのかな、見せてごらん」

最愛の渚カヲルさまにライバル視されているなんて彼女は思いもよらないだろう。僕は自分のスマホを彼氏に渡してキッチンへ向かった。両頬に手のひらを当てながら。

「帰ってくる前にひと言ちょうだいよ、もう」

ひとりごとをごにょごにょする。まだ慣れない。ファンから恋人に切り替えること。心臓があの猿が光速でシンバル叩くおもちゃみたいになってる。(あ、ちなみに名前はジョッコーモンキーというらしいです。)

「シンジ君、ふふ祭りってなんだい?」

番組のツイートはADさんがやっているらしく、カヲル君は打ち合わせの時に見せてもらっているみたい。お夜食を用意していたら部屋着に着替えたカヲル君が後ろから抱きついてきた。

「え、えっと、カヲル君がそうやって笑うから、」
「ふふって?自覚ないなあ」

肩に顎を乗せられて、喋るたびにダイレクトに声と息が体に響いてくる。緊張で金縛りに合う。

「ふふ」

身体の内側がじいんとして息が止まる。僕は罠から逃れるように腕の中から脱出した。興奮していることを気づかれないようにそそくさと食事をテーブルへ運んだ。
カヲル君は自覚があるのかないのか、僕にこういう即死のシチュエーションを仕掛けてくる。今カヲラーが命を捧げてもほしい『耳もとで「ふふ」』をいただいてしまって、なんかもう……先端からちょっと出ちゃったかも。えー、いや、まあ、そうです、僕の性感帯は耳にあるので。誰も聞いてないですよねそんなこと。

「いつもこんなに美味しいごはんをつくってくれるなんて、シンジ君は妖精かな」

いただきます、両手を合わせるカヲル君。いつも宮廷の料理のように隅々まで眺めてくれて心から感謝してくれる。だから僕は手を抜けない。

「帰る前にひと言LINEくれたらヴィシソワーズも作れたのに」

なーんて言って実はめちゃくちゃクックパッドで勉強してます。初めて手料理を披露した時に気合いのアクアパッツァを作ったら普段からそんな食生活だと勘違いされました。

「ごめんよ驚かせたくてね。あ、これ冷たくて美味しいね」
「よかった!カッペリーニって言うんだよ」
「カッペリーニ?すごいねシンジ君」

物知り顔で言いましたが冷製パスタのことです。

「今日はどうだったかな」
「もちろん最高だったよ」
「……」
「……」
「……それだけ?僕がいないところではもっと言ってくれてたのに」
「え?!」

カヲル君はキョトンとすまして話を続けた。

「笑う前のほんのちょっとの間が尊いとか」
「うっ」
「大好きだよは脳内エンドレス再生とか」
「ひっ」
「お便りを読む時に内容に合わせて声色を変えてるイケメンアカデミー賞〜とか」
「いつからいたの!?」
「君が、特にカヲルさんのふふは第53回目の放送が至高って言ったあたりから」
「あ〜〜〜〜」

僕は情けない母音を出してテーブルに突っ伏した。ご本人に萌え語りを聞かれるなんて。つらい。ヲタ丸出しじゃないか。しかも、賢い方なら気づかれたと思いますが、僕のイプ相方は爆死していたのでこれ全部TL眺めながらの独り言です。

「でもどうしてみんなが同じ名前なんだい?」

TLでフォロワーさんがほとんどストロベリーアイスになってて誰が誰だかわからない事案が発生していたのだ。

「そりゃみんなカヲル君が好きだから」
「なら好きな食べ物の欄に書けばいいだろう?」
「そんなのないよ」
「名前にすることはないのに」
「ファンはそうやって楽しむ生き物なの!」
「ふーん」

カヲル君はちょっぴり寂しそうな顔をした。

「僕より仲良しさんなんだね」

頬杖をついて上目遣いの赤い瞳が僕を探るように揺れる。

「僕はシンジ君が好きだからアイスの話をしたんだけどね」

ちょっと睨まれてるみたい。

「失敗だったかな。まるでふたりの秘密に知らない人たちが割り込んでくるようだ」

声を大にして言いますが、カヲル君は普段ファンを大切にしている。でも僕が絡むとこうやってすぐ不思議ないじけ方をする。公共の電波に乗せたのはあなたですよ。ふてくされて頬を少し膨らませて、

「お風呂入ってくるよ」

ちょっとしてから瞬きが多くなると反省が深まっている証。こうやって一度ひとり冷静になって、戻ってくる頃には、

「もう遅いけどアイス一緒に食べようか」
「そうだね。お茶淹れるね」

毒が抜けていつもの調子に回復している。

「さっきはごめんね。ついヤキモチをやいてしまったよ」

お湯を沸かしてる僕を抱き締めたり頭にキスをしたり手をにぎにぎしたりいっぱいちょっかいを出してくる。クンクン首筋の匂いを嗅がれたから「くすぐったいよ」と身をよじった。

カヲル君はイチャイチャするのがとても好き。愛情表現が豊かで信じられないくらい僕を大切にしてくれる。僕の勝手なイメージだけど、ファンとくっつくなら上下関係というか主従関係(?)がカップルの中にありそうだけど、カヲル君は彼曰く「僕が君に一目惚れをした」とのことで僕を敬ってくれる。僕にはそんな価値はないのに。僕がカヲル君にそうするようにカヲル君は僕の良い所(と彼が思ってくれるささやかなこと)を褒めてくれて下手なところは慈しんで、ちょくちょく羨望の眼差しを向ける。

「君の急須に添える手の角度が好きだよ」

ほらね。意味がわからない。

「じゃあこの角度は?」
「それも素敵だ」
「どれでもいいんじゃないか」
「あは、シンジ君ならね」

うっとりと赤い瞳が潤んで僕だけを映してくれる。僕もきっと彼にこんな目を向けているんだろう。わかりやすく瞳の中にハートマークがちらついている。

ーー僕のどこがいいんだろう?

彼が勘違いをしているのか僕が詐欺をしているのか。僕の口にアイスを運ぶカヲル君は本当に最高の恋をしているみたいで、スプーンの上のピンク色のようにとろけている。

「あーん」

口からはみ出たアイスの液体を指ですくって舐めるカヲル君。

そういえばカヲラーの間で最近話題になっている。カヲル君のキャラが少し変化したと。前は憂いがあって孤独そうで庇護欲を掻き立てるものがあったけれど、最近は翳りが薄くなってきた。話の内容も明るくなってきたからいよいよ片想いが両想いになったんじゃないかという考察が物議を醸した。懐古厨のみなさんはキャラを戻してほしいとぶつぶつ文句を垂れた。そりゃそうだ。見えないところでキャッキャウフフされるのは正直胸が痛いしできればそれを匂わせないでほしい。まあ僕が当事者ですが。ファンはただでさえ姿を公表しない彼にやきもきしている。僕がこうやってあーんして食べさせてもらっているなんて知られたら特定班に捕獲されて火炙りにされるだろう。

「ベッドで食べるとお行儀が悪いかな?」
「ううん、いこっか」

カヲル君は時々僕にだけわかる愛のメッセージを電波に乗せる。今日のストロベリーアイスみたいに。僕の心はドキドキの嬉しさと実感のなさが入り混じってマーブル模様。さらに加えて僕ひとりがそんな特別扱いされて同志たちを裏切っている罪悪感が半端なくてふやけてしまいそう。そう、このアイスクリームみたいに。

「明日の仕事は午後からだからふたりでゆっくりできるね、あーん」

出会ってから交際に至るまで、僕達は朝の満員電車で小さなデートを重ねていた。デートというより遭遇というほうがそれっぽい。「1秒でも君といたい」とカヲル君は会社帰りの僕をよく待ち伏せてくれた。僕もラジオ局の出待ちに紛れて驚かせたことがある。でもきっと僕よりも相当頑張ってくれたんだろう。連絡が取れないと思ったら風邪で倒れてしまったんだ。声を使う仕事なのに喉が腫れて高熱が下がらずに点滴をしてどうにか乗り切ったらしい。僕はその時初めてカヲル君のひとり暮らしの部屋に行った。そして「祖父の葬式で」とバレバレな嘘をついて(あとで気づいたが僕は既に3回祖父を殺している)三日三晩泊まり込みで看病した。これは大人気ラジオパーソナリティのキャリアを守る大使命なのだからクビになってもそうしたと思う。カヲル君は体温が下がるたびに死にそうな顔をした。おかしいなと僕は思った。声もいつもと変わらなくなった最後の晩、この世の終わりのようなか細い声で「君となかなか会えない生活がむり」と彼は白状した。風邪をちょっと大袈裟に表現してしまったらしい。お母さんに看病してほしくてお茶で体温計を温めたクラスメイトを思い出して、僕は微笑ましかった。

「カヲル君も食べなよ。あーん」
「あーん」

ということで僕達はあのあと住処をここに決めた。ここはふたりの愛の巣だ。アイスのカップもスプーンもひとつずつ。僕たちはとっても仲良し。
仲が良すぎて、

「もっとほしいな」

スプーンの出番がなくなってしまう。カップをベッドサイドに置く乾いた音。次に室内に響くのは柔らかな肉の吸いつき、まさぐり、はむはむする湿った音。濡れた吐息があふれてこぼれて気がつくと僕は枕に頭をあずけて体を彼氏にあずけている。

数ヶ月前まで使う予定もなくただの飾りだった僕の僕はそれはそれはもう元気いっぱいで、それはカヲル君も同じだった。部屋着の薄い生地から僕らは互いの欲を感じ取る。密着して寝そべってお互いの体を確かめ合うのは脳天がしびれるほど気持ちいい。だんだんふたりの境界線がわからなくなる。アイスの個体と液体の部分がわからなくなるみたいに。
カヲル君は熱を持て余したような強い溜め息をついてから横並びの体を起こし僕の上に覆いかぶさる。キスにちょっぴり余裕がなくなる。頭の中で“準備”を始めているのを肌で感じてしまう。

「ん……ふ」
「嫌かい?」

やんわりと抵抗をするとカヲル君が畳み掛けてきた。耳もとで切ない声で訴えられて、尋常じゃないくらい感じてしまう。

「明日、収録」
「こんなに感じているのに?ふふ」
「あ、だめ」

硬くなったアレのかたちを確かめるように触れられて、僕の理性は木っ端微塵に吹っ飛びそうだ。

「収録、でしょ」
「我慢できないよ、」

僕の手はもっと木っ端微塵になりそうなカヲル君へと誘導される。無理やり指を這わされて、血管が浮き出るくらい切なくなっている彼の張り詰めたソレを想像した。


「寝よ?」

しばらくして。可哀想で可哀想で最後まで迷ったけれど……いやらしい攻防は奮闘の末に僕の勝ち。カヲル君はちょっと怒ってしまったみたいで僕に背を向け丸くなって寝てしまった。

これにはちゃんと訳がある。
僕たちは先週けっこういいところまでいってしまった。パジャマを着ているのか着ていないのかまで乱しながら。僕はカヲル君の手のひらで転がされて射精までしてしまった。びっくりして放心している僕をカヲル君は愛おしそうに「いい子」と囁き撫でてくれた。すごく愛されていると感じた。幸せ満点の僕はその日の生放送を夢見心地で聞いていた。そして番組が始まってすぐに気づいてしまったのだ。

カヲル君の声がエッチだ。

コアなファン達はすぐにその異変に気がつきツイートした。

__今日のカヲルさんセクシーすぎない?
__事後?

その二文字を見た僕は「ひえええええ;;」とリアルに呟いて滝汗の中で残りの放送を聞いていられないくらい動揺したのだった。大好きな渚カヲルの声に集中できないなんて生まれてはじめてだった。つらい。僕とカヲル君の枕事情を丸裸にされてるだけじゃなくてファンとしてのダメージもでかいダブルコンボ。もちろん本人には言えるはずもなく、その日僕は「24時間以内に収録がある時はエッチなことはしない」とひっそり誓いを立てたのだった。

背中合わせだったカヲル君が寝返りを打って僕を抱き枕にした。

「シンジ君だけ、ずるい」

意識が途切れる直前、カヲル君がそう呟いたのが聞こえた気がした。




本番とは?


どんなにラッキーでハッピーでファビュラスでも世界からストレスが消えることはない。

カヲル君と付き合ってから増えたストレス。それは僕の場合だと人間関係。仲良かった学生時代の友達ともたまにLINEはするけれど、日常では圧倒的にカヲラーさんとのやりとりばかりだ。Twitterのリア垢は2年前から更新していないけれど@カヲラーがつくほうだと毎日のようにラジオパーソナリティ渚カヲルを讃えている。でもやっぱり誰かと盛り上がりたい時はSkypeが役に立つ。特に看板番組の後は缶チューハイ片手に萌え語りが最高だ。

先月、相方のカエル子さんとイプをしてたらついヒートアップしてしまった。声のヴォリュームもアップしていたんだろう、光の速さで帰宅したカヲル君に気づかなかった。

「シンジくーん!今帰ったよー!」

突然まるで歌のおにいさんのように華麗に彼は登場した。

『待って今カヲルさまの幻聴が聞こえた』
「え、いや、その」
「僕の大好きなシンジ君はどこかなー?」
『私さっきからカヲルさまの天の声が』
「シンジくーん?」
「ファービーが!!!誤作動してる!!!」

そう叫んで僕は接続を切った。音声通話で本当に良かった。すぐ後ろにカヲル君の殺気立った顔があったのだ。

「本当に何でもない子なの?」

その日がカエル子さんのデビューだった。僕が彼女の名前を言うたびに顔をしかめたり訝しげにパソコンを睨みつけていたからなかなか報われなさがあったけれど。

「僕と同じでカヲル君のファンだよ」
「どうしてそんなふざけた名前なんだい?」
「カヲル君に名前を似せたかったんだって」
「失礼だな」
「ファンは大切にしてね」
「……ライバルだと思って妬いてしまったんだよ」

ハイトーンで可愛い声だから余計に焦ってしまったらしい。不思議だよね、僕はカヲル君の声が好きで別に女の子の声が好きってわけじゃないのに。

その他のストレスだと、最近アイドルがいきなり結婚報告をして、しかも相手がファン出身だったらしくて「元ファンってどんなオチだよ」とか「ファンを差別するなんて」とか騒がれていて胃がキリキリする、なんてこともあります。

でもまあ、僕のストレスは致命的ってほどじゃない。カヲル君が嫉妬でイライラしないように工夫ができる。問題はカヲル君のストレスだ。


「僕はもう仕事を辞めたい」

帰ってくるなりそんなことを言われて毛根が死にかけたのは一週間前。ご存知の通り、カヲル君は顔出しNG、テレビや雑誌のインタビューでも絶対に髪の毛一本映さないことで有名だ。でも上の方から言われてそろそろキレてしまいそうみたい。

「どうしても嫌なの?」
「嫌だよ、僕は声の仕事をしているんだ。自分のパーソナルな部分まで晒す気はない」

珍しくめちゃくちゃ落ち込んでいた。どんなに彼が憤慨しても押し切られてしまいそうとのこと。でもね、これはカヲル君にも内緒だけど、その事務所の偉い人のご意見わかります〜となってしまうファンとしての僕もいるんだ。

今じゃカヲル君が不思議な言葉遣いをすると「イルミナティの暗号じゃないか」なんて議論するヘンテコな少数派の人たちもいる。(初期からのファンの僕が解説しますと、それはもともとそういう言葉遣いですのでご安心ください。)それくらいカヲラーの母数は膨れ上がってうなぎのぼりだ。カヲル君の名言総選挙なんてファン企画も賑わうくらいだからこの人気ぶり、おわかりいただけただろうか。ああ、昔からのファンの僕は誇らしくも少し寂しい。ファン心理ってそんなでしょ。

話を戻しますが、このノリノリの時期に顔出しして一気に人気をビッグバンさせたいんだろう。贔屓目に見なくても大変なことになると思う。an・anの表紙は固い。時の人になってヌードを披露してセクシーな袋綴じで特集を組まれるはず。ああ、そんなカヲル君も見てみたいな。
素人の僕がこう思うんだから上層部だって何度も何度もカヲル君を説得しているんだと思う。顔を出したら更に売れるよって。でもカヲル君は頑固一徹、そこは一歩も譲らない。

「僕はシンジ君との生活を大切にしたいんだ」

僕だってこんな超絶かっこいい彼氏を世間に公表して手の届かない存在にはしたくない。恋人の立場としての僕とファンとしての僕が殴り合いのレスリングをしている。

その日のカヲル君はいつもよりも甘えん坊で、僕は彼を髪の先まで慰めてあげた。するとカヲル君は僕の膝枕で舌ったらずの喋り方をした後に(録音したかった……)僕の顔を引き寄せて深めのキスをしたのだった。自然とイチャイチャが止まらなくなって、

「くすぐったいよ」
「気持ちいい?」
「うん、」

僕たちはお互いのパジャマの脱がしはじめてしまう。

「カヲル君、興奮してる」
「そうだよ、君が可愛くて」

恥ずかしくてたまらなかった。僕たちはまだキスの先を知らなかった。カヲル君は安心二重丸な感じで僕をとろとろにしてしまう。煮詰めた蜂蜜よりも甘いお返しをされてしまい、

「だめ、そんなに、しちゃ」
「だめなのかい?」
「で、でちゃう」
「だしてごらん」
「〜〜〜〜んッ」

僕は本当に余裕が無くなって、カヲル君にされるがままに吐精してしまったのだ。あの時はカヲル君だって吐き出したかったはずなのに、いっぱいいっぱいで脱力してしまった僕に気遣ってくれたんだろう。そのあと僕たちは抱き合って眠った。ああ、今考えても僕は泣きそうなくらい嬉しい。「いい子」って頭を撫でられた時、僕は心底死んでもいいと思った。

それにしてもカヲル君とのイチャイチャは法規制されたほうがいいのかもしれない。危険ドラ●グだ。


気がつくとあっという間。ストロベリームーンが三日月に変わっていた。

人気者は大変だ。休日がない。つまり僕らはエッチなことをしていない。
このことについてカヲル君と話し合うべきなのかもしれない。彼は最近本当に心身に余裕がない。

「寂しいな。君からはしてくれないんだ」

イチャイチャタイムで僕はカヲル君のキスを返さなかった。僕だって聖人じゃない。我慢大会にまた参加して振り切れる自信がない。僕だってそろそろカヲル君と最後までしたいんだ。でもそれが公共の電波に乗って気づかれるのがたまらなく嫌なんだ。

「僕のこと、愛していないんだね」

カヲル君は僕のほうを見ないでそう言い放つ。ベッドから起き上がって寝室から姿を消した。しばらくしてエビアンと一緒に戻ってきた顔はやつれて見えた。僕はさっきの言葉が衝撃で凍ったみたいに身動きが取れなかった。ファンにとって彼は世界を統治している絶対神だ。彼のひと言で僕はいくらだって死んでしまう。

ーー捨てられる前に世界が終わってくれないかな……

部屋はやけにしんとしていて静寂は僕を責め立てる棘を孕んでいた。

「ねえシンジ君、最後まで聞いてほしいんだ」

カヲル君は僕に背を向けベッドに座り、僕が小さく返事をするとしばらくは柔らかいペットボトルを指で潰しながら傾ける音が響いた。負荷のかかる話題なんだろう。体の彼に面した側がどんな小さな動きも敏感に感じ取っていちいち悲鳴をあげていた。散々僕を無言の重圧でなぶってから、カヲル君は抑揚のない小さな声で語り出した。

「僕がラジオパーソナリティじゃなくても君は僕を好きでいてくれるかな」

脳内の予測変換を待たずして次の言葉を受信する。

「僕は今の仕事を辞めようかなと思ってる」

ああーー途方もない痛みが広がったのは、ファンとしてか僕自身としてか。
僕は自分のことばかり考えていた。カヲル君がそんなに仕事に対して悩んでいるとは思いもよらなかったのだ。彼が悩んでいるのは「顔出し」という局所的なもので、そんなのは結局カヲル君が駄々をこねれば押し切れるものだと勝手に推測をしていた。僕は世間知らずだと上司に昔言われたなあ。

ーーカヲル君は僕を心配させないようにどんなに辛くても明るく振舞ってくれてたんだ。

僕はギロチンに自ら首を差し出したくなる。ギロチンはないのでカヲル君に首を差し出す。
僕が向き直るとカヲル君も一秒遅れで同じように正座をした。

「ラジオの仕事は嫌いじゃなかったけれどもうこんなに我慢を強いられるのは嫌なんだ。転職して時間をつくって君とふたりでやり直したい。君も嫌だろう?ちゃんとデートもできないで体の関係を求めてしまう恋人なんて」

ん?と思った。

「仕事を辞めてデートしよう、シンジ君」

聞き間違えかなと思った。

「僕は君と水族館に行きたい」

彼はいたって真剣だった。ストレスにさらされ続けた人間は正常な判断力を失ってしまう。

「途中から意味が、わからなくなっちゃった、かな」

僕がアニメの人物だったら目玉が左右逆方向に回転している。頭をフル回転させながら次の言葉をマイルドにした。

「デートは行きたいけど、でもカヲル君のラジオが聴けなくなってまで行きたいかって言われるとちょっと違うかも。あ、カヲル君と水族館にはすごく行きたいよ」
「つまり?」
「え」
「僕とセックスができない理由が他にあるのかな?」

いっそ殺してくれって顔でこんなことを聞いてくる。
ああどうしよう。本人にあんなことは言いたくない。全然言いたくない。言うほうだって恥ずかしい。
でも目の前の赤い瞳にどんどん涙が溜まっていくから、もう逃れられないんだ。僕は目を閉じて「逃げちゃダメだ」と念仏のように胸の内で唱えてから今世紀最大の深呼吸をした。

「カヲル君、あの日の放送ね、話題になってたの」
「あの日?」
「……僕がイッた次の日」
「どんな話題?」
「セクシーすぎるって。誰かは事後って言ってた」
「……」
「僕たちがエッチなことをするとカヲル君の声でバレバレみたい」

うつむいて早口になってしまった。チラッと恋人の様子を確認するとなんとも言えない表情で、蒸発して消えてしまいそうなくらい顔がピンクに茹であがっていた。

「だから休みの日にしたいって思ってたんだけどお休みがないよね」

カヲル君はしばらく言葉を失っていた。

「でも……エッチなことをして時間が経っていただろう?」
「うん」
「君にもわかった?」
「うん、なんかすごく……………………ベッドの上でピロートークしてる感じがした」
「!?」

最後はほとんど囁き声、尻つぼみになってしまった。カヲル君は口を押さえて何やらいろいろ考えているご様子。

「……あの時、君のことを考えていたんだ」

カヲル君は悶々ともどかしげに僕を見た。

「次は本番だと思って君との体位について考えていたんだ」
「収録中に何考えてるの〜〜〜〜〜〜;;」

むしろお仕事中が本番じゃないか。思わず顔を手で覆う。指の隙間から彼氏を覗いたらじとっと睨み返されてしまう。

「僕だって欲求不満が限界を超えているんだ。君が鉄の壁で僕を締め出すからひどいことをしないように自慰で対処してるんだよ。でもこんな関係は……寂しい」

やっぱりデートのくだりは僕としたい為だったのかななんて複雑な気持ちだけど、カヲル君のこんな可愛い涙声が聞けるんだから良しとしよう。僕は前のめりに倒れこんでカヲル君に抱きついた。膝の上に頬を寄せて伸ばした両手を彼の腰に巻いてギュッと力を込めた。

「へへ、嬉しいです」

つい敬語になってしまった。ファンの癖で僕も一歩引いて遠慮してしまう時がある。でもカヲル君はずっと僕と対等でいてくれる。ファンと知ってるんだからずるい手だって使えるのに。

「僕はカヲル君が好きです」

カヲル君は誠実で正攻法しか使わない。

「おうちにいる僕とラジオパーソナリティの僕、どっちが好き?」

正攻……法……

「それって太陽と地球どっちが好きって聞いてるのと一緒だよ」
「太陽と地球どっちが好きなんだい?」
「どっちも好きだよ、どっちもないと僕は死んじゃうんだからな」
「そっか。うん、わかったよ」

ふてくされた頬をプニプニ白い指で押してくる。見上げるとカヲル君が幸せそうに目を細めている。正座の足が崩れると元気に硬くなっている真ん中に気がついた。僕の脇の下に手を挟んでずるずると持ち上げて手繰り寄せて抱っこをするカヲル君。僕はもう顔も体もふにゃふにゃしていてされるがまま。僕たちはぺちゃぺちゃじゃれ合うようなキスをした。

「君を僕でいっぱいにしたいな」

そして鼓膜からノックアウトされてしまう。



ホイップ!


僕の彼氏が本番中に考えた本番の体位は騎乗位だったらしいけれど、

「そんなこと考えちゃダメだよ」

僕たちはいつも通り変わらない。僕の上に覆いかぶさるカヲル君。

「今はもうしてないよ。あの時なかなか勃起が治らなくて焦ったんだ」
「もう、そんなの、あはは」
「笑ったね」

耳の中を舐められて僕は思わず喘いでしまった。

「かわいいシンジ君、ふふ」

先程の見解を僕は訂正しなければいけない。カヲル君が僕はファンと知ってるのにずるい手を使わないってのは嘘だ。

「もう余裕がないみたいだね」

カヲル君は僕の耳が弱いのを知っている。

「我慢できなくなってきたのかい?」

僕がどの言葉に無性に感じてしまうかなんて全部お見通しなのだ。無邪気な僕がみーんな話してしまったから。

「もっと我慢できなくしてあげる」

耳もとで執拗に煮詰めた蜂蜜より甘い言葉で攻められて、僕はさっきから赤ちゃんがえりしてしまってる。脳ミソがじんじん痺れてなんにもちゃんとできないのだ。

耳たぶに触れそうなくらい近くキュンキュンくるセリフを囁きながら、カヲル君は僕の乳首をつまむ、脇を羽根のようにくすぐる、横腹をするする冒険してゴムをくぐって布の中へ、核芯に触れてくる。大きな手に包まれてパンツの上から揉みしだかれて僕はどんどん膨れてしまう。先端がこすれてそこからは涙がにじんだ。そうして耳の穴を熱く湿った溜め息でいっぱいにするもんだから、悶えて悶えてたまらない。

気がつくとパジャマのズボンが脱がされていた。最後の一枚がするすると太ももを滑って下ろされる。かかとに引っかかっていたから足首で蹴って床に捨てたら、

「いい子」

汗ばんだ額に張り付いた前髪を撫であげて、カヲル君はそうやさしげに囁いた。火照った顔で見上げるとそこにはうっとりと満たされた顔がある。

『ねえカヲル君。あの時みたいにいい子って言ってみて』
『そんなこと言ったかな』
『2025年11月15日の53回目の放送で言ってたよ』
『僕より僕のことを知っているんだね』
『うん!僕、熱狂的なカヲラーだもの』
『……いい子』

子供をあやすような表情を浮かべてカヲル君は僕の頭を撫でてくれたっけ。そうだ。あの時から、カヲル君はそんな言葉を集めていたのかもしれない。

僕は恥ずかしいくらいに興奮していた。パンツがどっかいったからそれを誤魔化すこともできない。カヲル君が僕のをやさしくしごいていく。そんなにされたら弾けそうになってしまう。

「ご褒美がほしいだろう?」

なんのためらいもなく口にくわえて美味しそうに舌の上で転がして。ああ、僕がするんじゃないの、そういうことは。僕がカヲル君の大きいカヲル君にご奉仕するはずだったのに。おかしくなりそう。

「ずるいよそんな」
「ずるくていいよ。君にそんな顔してもらえるなら」
「僕どんな顔」
「とってもいい顔」

ああきっとすごくいやらしい顔なんだ。モザイクがかからないから枕で隠す。

「見ないで」
「見せて」
「だめ」
「いけない子だ」

枕は奪われて遠くに飛んでいってしまった。
でも、いやらしい顔は目の前にもあったのだ。紅潮して汗だくで余裕がなくて、

「あまり焦らさないでおくれよ」

必死だった。

「君に幻滅されたくないんだ」

カヲル君は僕の弱いところをいじめながらこんなことを言ってきた。もう膝を爪でツーッとされるだけで宙に浮いたつま先がピクンとなるのに。

「ずっとファンでいてほしい。僕を好きでいてほしい」

そして僕の後ろの穴がまさぐりながら、

「だから、君の感じている顔を見せて」

泣きそうな顔をしていた。

ファンとセックスするってどんな感じなんだろう。失敗は許されないって思っているのかな。カヲル君は僕より前に恋愛をしたことないと言っていた。それってつまり……童貞ってことだよね。カヲル君はオトナのお店に付き合いでも行かなそうだし。僕みたいな重度のファンは勝手にカヲル君の元カノを想像して具合が悪くなったり、付き合いはじめも元カレを想像して死にそうになっていたけど、今は何も心配はいらない。だってカヲル君に身を委ねてるから。

「好きだよ、シンジ君」

カヲル君、どんなものを抱えて今、本番を迎えているの?

「僕も好きだよ」

僕は精いっぱいの愛情を込めて伝えるしかできない。

「大好きだよ、カヲル君」

たとえこれからすごい失敗をしてもそれも含めて僕はカヲル君が好きだから大丈夫なのだ。

許容量を超えてしまうと言葉が出てこないカヲル君。緊張しているのかも。指を絡めて愛情を送ると、一瞬の表情が自信なさげに幼く揺れた。いよいよ本番の本番の準備中。コンドームをしている渚カヲルを見られるのは世界中で僕だけだ。僕はというとカエルがひっくり返ったような姿勢で……カエル子さん……!カエル子さんごめんなさい……

「何考えているのかな」

カヲル君はたまにエスパーを発揮する。唇を支配的に塞がれて、僕の中にみちみちとカヲル君が入ってきて、僕は知る由もなかった快楽前の痛みに思わず身を固くした。僕が「痛すぎ!」なんてそぶりを見せたらきっとカヲル君はやめてしまう。力いっぱい抱きついて我慢する顔を見せないようにした。これは後で知ったんだけど、だいしゅきホールドというらしい。カヲル君も初体験でこんなに未知の男のパワーでがんじがらめにされて大変だったかもしれない。ゆっくりジェントルマン、やがてジョッコーモンキーになるカヲル君。繊細な見た目なのに(脱いだら意外と筋肉質です)どこにこんな力が眠っていたんだろうってくらいパンパンパンパン力強くシンバルを叩いて、

「僕のストロベリーアイスクリーム」

不思議なことを囁いてから、すぐに僕らは限界点を超えた。そんな冷静に考えたらなんだそりゃって囁きまで僕はありえないくらい感じて、僕の内側で存在感を増していくカヲル君の大きなカヲル君にもクラクラで、極めつけは、

「大好きだよ」

鼓膜をガンガンに犯され尽くした僕はもう果てるしかなかった。ストロベリーアイスクリームはクチャクチャにホイップされてしまったのだ。やっぱりカヲル君の声はたまらない。もちろん同じくらいカヲル君もたまらない。どうしよう。

僕は渚カヲルが大好きだ!!!

そしてーー

「カヲル君もイッたりするんだ……」

これはもう病気のようなもので、僕は何かにつけてカヲル君に驚いてしまう。カヲル君が生きていること、うとうとすること、トイレに行くこと、僕を好きなこと。僕のイク瞬間をカヲル君が見逃さなかったように僕もカヲル君をガン見していて、僕はイキ果てた気だるさの最中、真っ白な頭でそう感想を呟いてしまった。目の前の彼氏の顔をまじまじと眺めながら。

「そうだね。でもイクにもたくさん種類があるから。君はいっぱいコレクションしたいだろう?」

そしてそんなヲタクな僕に負けていない。

「君だけの真夜中のパーソナリティになってあげてもいいんだよ」

負けてないどころか勝ってしまう。

「楽しみだね、碇シンジ君」

満たされてちょっと挑発的な表情。
渚カヲルは正真正銘名実ともに最高で最強のラジオパーソナリティだった。


そして僕の大好きなラジオパーソナリティは大失敗をしてしまう。

__ねえもはや事後っていうか
__最中じゃない?

次の日、とんでもないセクシーボイスで世の老若男女をノックアウトしたのだった。僕はコンポの前で泡を吹いて倒れてしまった。

『ああ、たまらないよ。おかしくなりそうだ』

「言葉の……チョイスが……おかしい」

そんなにおかしくないお便りに笑いながら息も絶え絶えそんなことをのたまっている。なんでそんなにエッチな響きなの。彼は確信犯だろうか。

「僕だっておかしくなりそうだよ!カヲル君!」

何年ファンをやっていてもいつも新しい顔を見せて僕たちを驚かせてくれる。
だから、渚カヲルのファンは、やめられない。



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