これは僕の小さい頃の話。そう言ってすんなり頷く君の物分かりのよさに僕は少し不安になる。子どもはもう少し疑い深くたっていいんだよ。

でも、もしも君が、そんなことあるはずない、見えることしか信じない、と言うなら僕はこう言ってみたいんだ。見えないことは君の目の前にないだけでこの広い世界のどこかに、宇宙のどこかにはあるのかもしれない。
不思議なことには証拠がない、と君は言いたいみたい。でもね、不思議なことがないことにだって証拠はない。だから今、答えを出さなくったっていいんだよ。まだ知らない不思議の囁きに耳を塞ぐ必要なないんだ。

鬼に豆をぶつけることで邪気を払い一年の無病息災を願う。それが今日、立春前日の習わしの意味らしい。

さあ、不思議な物語の、はじまり、はじまり。


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冬空は金色を湛え、桃色のひつじ雲が夜の最初を連れてきた。もうすぐ世界は藍色に包まれる。ひとりきり、シンジを残して。

原っぱには誰もいなかった。かじかんだ手を握り締めシンジは、居場所のない世界は寒い、そう思った。暖かい家が待っているのなら、こんな日は一目散に通学路を駆け出して「ただいま」も言わずベッドに潜り待つだろう。「どうしたの?」とやさしいお母さんの声を。シンジの哀しみを見つけて追ってきたその手は、夕飯の謎かけのような匂いがする。シンジは毛布を被り直して考える。今日は、肉じゃが?カレー?それとも――

「…夕ごはんは、なに?」

「シチューよ。」

あ、シチューか。そうして正解に辿り着いた頃にはシンジの心はちょっとだけ軽くなる。ほっとして流れてしまった涙がお母さんの膝枕を濡らしている。涙が乾いたらもう陽は沈んでいるだろう。けれどきっと、薄暗い部屋でぽつりぽつりと自分の気持ちを声に乗せるシンジはやさしい表情をしている。それを聞いているお母さんのように。

もしもシンジにお母さんがいたのなら。

今、シンジは寒さに震えていた。やっぱりぼくはひとりぼっちだ。シンジは冷たい海の底に沈んでゆく。



放課後の校庭でシンジは泣くのを我慢していた。いつもならこんなに感情を剥き出しには決してしない。集まってきた友達も、初めてのシンジにどうしていいのかわからない。

ぜったいに泣いてやらない、泣いたらぼくの負けなんだ。

シンジが絶対に譲らないから、どうしてそんなにがんこなんだろう、目配せをして困った顔をしてしまう。みんなシンジが間違っていると思っていた。だから彼をかばうこともできずに、何か言って攻撃対象にされるのも怖がった。やっと打ち解けたと思っていた転校生が、そうではないのかもしれないと思うとみんなは無性に悲しかった。

「ほな、行こか」

攻撃対象だったトウジがそう言うと、ぞろぞろとみんなは彼の後に従って校舎の陰に消えてしまった。去り際にケンスケが振り返ると、シンジは誰よりも悲しい顔で立ち尽くしていたのだった。

これでよかったんだ。ぼくにはカヲル君がいるもの。



「シンジ君。」

原っぱにほんのり暖かい風が吹き抜けた気がした。さっきまでの冷たい氷のような風に打たれた耳が痺れるくらいだった。シンジは返事をしなかった。おそいよ、とむしゃくしゃしたのだ。カヲルはそっとシンジの隣に座る。何も言わず沈みそうな夕陽を眺める。気になったシンジがちらっと盗み見てみると、銀髪は街中を走り回ったようにくしゃくしゃと毛先があちこちに跳ねていた。

カヲル君、ぼくのこと探していたのかな。

シンジはカヲルも見つけられないようなこの場所を選んで隠れていたのだ。そして心の何処かでは自分を見つけてほしいと思っていた。日が暮れるまでと自分に言い聞かせ、凍えながらカヲルをずっとずっと待っていたのだった。



最近、クラスでは鬼ごっこが流行っていた。寒いと体がぽかぽかしてシンジもその遊びが好きだった。ただし、シンジは「追いかけっこ」と呼んでいた。みんなが鬼ごっこと言ってもシンジはそうとしか口にしなかった。

リーダー格のトウジはいろんな鬼ごっこを知っていた。タッチされると動けなくなったり、鬼になった子たちは手をつないだり、鬼が誰かわからないで逃げるなんてものもあった。シンジにとって誰も家に帰りたがらないこの時間は何よりも楽しかった。カヲルとふたりで遊ぶ時間と同じくらい、シンジには幸せなひとときだった。

「豆まき?」

「そうや。節分やしオニを決めて豆まきしようや。」

シンジは豆まきを知らなかった。だからトウジが炒った大豆の袋を嬉々として高く掲げるのも、同級生が喜んでいるのもとても奇妙で、遠くからひとりでぽつんと眺めている気分になった。そしてトウジが、思いっきりぶつけてやる、とニタッと笑ったのでシンジは急に不安になった。

「ぶつけるって、もしかしてオニに当てるの?」

「なんや、豆まき知らんのかい。」

そして節分に何をするのかを聞いて、シンジは仰天する。

「オニがかわいそうじゃないか!」



にじんだ夕陽が沈んでゆく。もう決して昇ることはないだろう、シンジは何故だかそう思う。そんな時、ふと、隣からカヲルの温もりを感じたのだ。いつの間にか肩と肩が触れ合っていた。シンジは、カヲルの何も聞かないやさしさが嬉しかった。だから。幾度となく声を出すのを躊躇って、でも勇気を振り絞って、さりげなく、シンジは一歩、進むことにした。

「…豆まきがいやだったんだ。」

「どうして?」

シンジはまた俯いた。こんがらがった胸が暴れて、手で押さえる。言葉を選ぶ。

「…オニになりたくなかったから。」

そしてシンジは心とはちぐはぐなことを口にする。けれどカヲルにはわかっていた。筒抜けなのだ。カヲルはシンジを見つめた。嬉しいような哀しいような顔をして。



シンジの発言に友達は笑っていた。冗談かと思ったのだ。けれどシンジがちっとも笑っていないので、だんだん笑い声が静かになってゆく。

「どうしてオニに豆なんて投げるのさ。」

「オニやからに決まっとるやろ。」

「なんで!」

「なんで?」

トウジはケンスケを見た。ケンスケは他の同級生を。一斉に首を傾げる。そして最も弁の立つケンスケが代表のように、遠慮がちに、こう呟いた。

「それは…悪いヤツだからだよ。ヒトのテキだから。」

「かってに決めつけるなよ!オニが何したって言うのさ!」

それなのに、そうやってシンジが怒ってしまったから、校庭は嫌な空気で満ちてゆく。よくわからないと同級生が顔を見合わせ困っている。

「…もしも、君の友達がオニだったら豆を投げるの?」

悔しそうにシンジは言う。

「オニなんかとならないやろ、ふつう。」

「知らないで友達だったら?」

「オニなんていないよ、碇。」

わかり合えないことは怖い。誰もシンジを傷つけるつもりはなかった。それはシンジだって、そう。ひとりきり何かに立ち向かっているシンジはガクガクと震えていた。だからトウジは、最後の言葉を聞いてもう、言い合いは終わりにした。みんなを連れて新しい場所で鬼ごっこをしに行った。とり残されたシンジはひとり佇んでいた。立っているだけでやっとという、悲しみを背負いながら。



もうすぐ地平線に橙色が消えてしまう。黄昏に染まったふたり。ふたつの影は長くなり、夜の最初に溶け込んでゆく。

「…僕はね、シンジ君。世界中が僕を何だと思おうが別にかまわないよ。君がわかっていてくれるなら。」

「ぼくはよくない!」

シンジはカヲルの顔を見なかった。

「ぼくは…カヲル君がまるでオニがされるみたいにされたらいやだ!」

「それが鬼の役目さ。」

「そんな役目、まちがってるよ…」

カヲルにも突き放されたようで、シンジはギュッと胸が痛い。

「やさしいね、シンジ君は。」

「やさしくなんかない!」

寂しい。

「君は誰よりもやさしいよ。」

「ちがう!」

その果てしなさは、

「僕にはわかっているよ。」

やさしいほどに苦しくなる。

「カヲル君は何もわかってない…」


世界でシンジだけが知っている秘密――カヲルはヒトじゃない。不思議な力を持っている。

誰にも教えたくない、でも誰かに知らせたい。もし知らせられたなら…シンジの伝えようとしてる気持ちがきっと伝わるかもしれない。

みんなに嫌われたら、つらい。
ひとりぼっちに、なりたくない。

だから――

『じゃあ…天使は?』

それがシンジの最後の言葉だった。

シンジが放ったささやかなヒント。結局、友達には相手にされなかったけれど、それはカヲルの身を危険に晒すことだったかもしれない。一度口にした言葉は取り返しがつかない。シンジは追い詰められた自分の浅ましさに呆然とした。

ぼくは…

思い出しては暗くて冷たい闇の海に溺れてしまう、シンジ。息ができない。もう駄目かもしれない。


「さあ、まこう。」

カヲルは立ち上がった。地平線の橙色は消えてしまった。けれどきっとその先では、知らない街を明るく照らしていることだろう。

不機嫌な無表情を崩さないシンジ。だからカヲルは握り締めた手を広げてみせた。白い手のひらには豆粒ほどの赤く透明なルビーが溢れていた。薄暗いくすんだ藍色の空気の中、まるでキラキラと笑っているようだった。いくら不貞腐れていてもシンジは子ども。好奇心にはかなわない。

「…これは?」

「僕らの豆まきさ。」

口を尖らせるシンジ。

「もちろん誰にも当てないよ。ほら、立って。」

シンジは手を引かれて嫌々立ち上がる。もう指先が温かくなっている。カヲルが来てから冷たい風が吹かないことにシンジはまだ気づかない。

「原っぱいっぱい広がるように、高く高く空に向かって投げてごらん。」

おずおずとシンジが赤い粒をひとつかみする。まじまじと見てみるとそれは生きているようだった。シンジの息に吹かれてほうほう紅緋色が燃えている。

「さあ!」

カヲルのかけ声に合わせて思いっきり、シンジはその粒たちを空へと放った。すると……パン!一番高いところで粒が弾けてポップコーンみたいに虹色の綿毛が輝いたのだ。そしてふわふわの毛をなびかせて足許に落ちてくる。もう一度……ポン!今度は羽衣の花びらがスカートみたいに広がってゆっくりと落下してくる。その次は数えきれない色をした花火だった。発光した粉は糸を紡ぎパラシュートを描いて降りてくるのでシンジは思わず歓声を上げた。様々な面白いかたちで原っぱ一面に散らばってゆくたくさんの豆粒。気がつくとシンジは夢中で豆まきをしていた。着地した粒はあちこちからふたりを照らし煌めいていた。シンジはそんなキッチュな星空の中で夢見心地になった。悲しかった気持ちもいつの間にか消えていた。そして、最後のひと握りをシンジはカヲルと半分こにして「せーの!」一緒になって夜空高く放つのだ。そのルビーは彗星になる。後ろに流れる尾が羽根となり、廻りながらふたりを囲んで舞っていた。くるくると名残惜しそうに下降して、シンジが指先でつつくと夢のように爆ぜてしまう。光がこぼれ落ちるのでシンジは慌てて両手で包んだ。手のひらに残った一粒は、植物の種だった。

「春になったらきっと綺麗な花が咲くよ。」

シンジはカヲルをじっと見つめた。カヲルはその赤い瞳に想いを込めて、シンジを見つめ返す。すると、シンジの心にはある情景が広がった。白くて小さい名もない花が咲き誇る原っぱだ。いつか春の日に、シンジはカヲルとその中で微笑み合う、そんな気がした。

「カヲル君。」

「なんだい?」

「君は天使なの?」

真剣な眼差しでシンジはカヲルの答えを待つ。その顔は好奇に照らされるのではなく、ただ、大切なものを守ろうとする勇ましさに張りつめていた。

だからカヲルはこう言うことにしたのだ。

「僕は、誰でもない、僕なんだ。だから僕は、自分の自由意志で自分のなりたいものになるよ。」

カヲルは微笑んだ。

「僕は君が寒くてたまらない時に、シチューの匂いのするひとになりたいな。」

そして目の前のシンジを抱き締めた。シンジは心の声で言う。どうして、どうして。母さんを知ってるの。その胸の奥に隠していたお母さんを思い出すと、カヲルからあの匂いがした気がした。ジャガイモとニンジンの懐かしいあの匂い。シンジの目から我慢していた涙がぽろぽろ溢れだす。止まらない。シンジはカヲルにギュッとしがみつきながら栓が抜けたように泣きじゃくった。泣きじゃくりながらシンジはやっと、自分の居場所を見つけたのだった。

辺りはもう暗い冬の夜だったのに、シンジはちっとも寒くはなかった。
ひとりぼっちでもなくなっていた。


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この不思議な物語はこれでおしまい。

君は生まれた時のことを覚えているだろうか。君はきっと泣いていたんだ。僕たちは生まれた時には既に泣いていて、その後の数々の困難にぶつかりながら止まらない涙を流す。苦しいことや悲しいことばかりの現実に打ちのめされそうになる。

けれど、ちょっとしたことで乗り越えられるような気がする。信じてくれるひとがひとりでもいたら、遠く険しい道のりでも歩いてゆける。そう誰かを想えたなら、知らない街を照らすだろう沈む陽に手を振ってさよならを告げられる。また明日、と。

そうやって心から思える僕はとても恵まれているんだろう。その後も僕のひねくれてしまった心はいろんなことに血を流し泣き叫んでいたけれど、隣には必ず僕に膝枕を用意してくれるひとがいた。それだけで、僕は暗く冷たい海に窒息することはなかった。もしも僕に彼がいなかったなら、僕はこの言葉を君に届けられなかっただろう。

君にもそういうひとがいたらいいな。

心から僕はそう思う。


「あ、こんな時間!」

僕は作業机から飛び上がって、リビングへと駆け出した。待たせているひとがいるのだ。ドアを開けると、

「あは!おもしろい!やっぱりカヲルなんだ!」

暖炉の前、マリちゃんがカヲル君を指差して笑っていた。

「何がだい?」

「ワンコくんのセイギのミカタ。おはなしにかならずでてくるの。どんなことがあってもいつもたすけてくれる。コレみたいに。」

マリちゃんは絵本を両手で掲げて嬉しそうにカヲル君の顔面にぶつけそうな勢いで突きつけた。きっとカヲル君はマリちゃんに僕の本を読んであげていたんだろう。僕が来たことにも気づかずに、マリちゃんは夢中でおしゃべりを続けている。

「ねえカヲルはナニモノなの?スーパーマン?」

「天使だよ。」

「うそだぁ。ハネがない。」

「羽根はいらないからね。」

「なんでさ?とべないよ?」

「飛ぶ必要はないよ。僕の欲しいものは全てここにあるからね。」

カヲル君が僕を見てウィンクすると、

「ワンコくんだ〜!!」

マリちゃんが僕を見つけた。僕めがけてダッシュして勢いよく抱きついてきた。

「おねつ?」

そして僕がしゃがむと、真っ赤な頬をプニプニ引っ張るマリちゃん。こんな顔にした張本人に無言の抗議をしてみると、ニコニコとまるで天使の笑顔。悪気がないんだから困ってしまう。

そんな時に玄関のチャイムが鳴ったのは良かった。僕はそそくさと退場して頬を両手で冷ましながらドアを開けた。誰が来るのかはわかっていた。

「あんた風邪引いてんの?」

「違うよ、ちょっと火照っただけ。」

アスカは気の置けない友達だけれど、特に遠慮のない性格だ。今日もいきなりマリちゃんを「あんたのファンだから」という理由で「私が来るまでおもりしてて!」と連れてきて、僕が了解する前にどっかへと消えてしまった。だから僕らはわけもわからずマリちゃんと半日を過ごしたのだ。

「ヒメ〜!!」

背後からと突進してきたマリちゃん。アスカに大の字で飛びついている。その姿はまるで…

「その、アスカ、」

「何よ。」

「マリちゃんって、その、アスカの…」

「ちょっ!違っ!やーね!親戚よッ!」

ほっと胸をなで下ろすカヲル君と僕。ちょっと心配しちゃったじゃないか。そう言うと、アスカは親戚の子を預かる予定だったのに、のっぴきならない仕事が入ってしまったことを説明してくれた。

「悪かったわね。はい、コレ。」

目の前には節分の豆。だから僕はお礼につくってあった恵方巻を手渡した。アスカの苦手なキュウリは抜きだ。

「ねえ、まめまきしようよー。」

それから僕らはマリちゃんのためにみんなで豆まきをした。セットになっていた鬼のお面を問答無用でカヲル君に被せるから「鬼は僕がやりたい」と僕がお面を取ると、

「じゃ、ワンコくんになげつけるからカヲルがちゃんとまもりなさい!」

なんて。マリちゃんのいいつけ通りカヲル君と僕は奮闘する。容赦ない被弾に苦戦するカヲル君が可哀想で、そんなカヲル君を守ろうとしたら逆にカヲル君が僕を守ろうとぴったり身を寄せてくるもんだから、

「鬱陶しいわね。」

アスカの無慈悲な鉄砲豆にくずおれる僕たち。アスカとマリちゃんはそんなところがそっくりだった。


それから四人で並んで恵方巻を頬張ってから、食卓を囲んで夕飯を食べた。夕飯はマリちゃんのリクエストでシチューだったもんだから「なんで恵方巻にシチューなのよ!」なんてアスカに小言とデコピンを喰らったけれど、そんな賑やかなふたりが帰って家が静かになると、僕は人知れず、小さな寂しさに溜め息を吐いていた。

「さあ、僕らの豆まきをしよう。」

人知れず、とはいかないようだ。僕の手を引くカヲル君。ふたりで赤い粒を庭に放って僕らだけの豆まきをする。

「鬼は〜内〜!福も〜内〜!」

「ふふ、相変わらずだね。」

「そこは譲らないよ。」

毎年からかわれるもんだから、僕は頬を膨らませた。

庭に広がる星空をマリちゃんにも見せてあげればよかっただろうか、ふと、僕は幸せを独り占めしている気持ちになる。羽根の生えた最後の粒がゆっくりと地面に爆ぜた。

「…カヲル君の、嘘つき。」

「何故?」

「羽根がなくても飛べるくせに。」

「それは君とこうするためだよ。」

カヲル君が僕を抱き寄せる。ふたりはふわりと宙に舞う。地面の星空が僕らを下から照らしているから、僕は四六時中一緒にいる彼がまるで絵本から現れたように感じてしまう。そのやさしい腕にドキドキしてしまう。

「シンジ君こそ白状したらどうだい?」

「え?」

「僕が君の物語にいるって言われた時、君はなんて思ったかな?」

「あ、聞いてたの?」

あんまり心の声は聞かないでって言っているのに。

「君の口から聞きたいんだ。」

けれど。そんな真剣な瞳で乞われてしまったら、僕はその白く美しい顔を手繰り寄せ、耳許で囁いてしまう。

――本の中の僕だって、カヲル君といたいもの。

囁き終わると、豆粒がパン!と弾けたのが聞こえた。夢を見ているようなカヲル君。僕は言葉にならない気持ちがちゃんと届くよう、額と額を擦り合わせる。

美味しそうなシチューの匂いに酔わされて、僕は幸せのゆりかごに揺れている。



だから、僕は飛ばない
すべて、君のもの 続篇



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