初恋シロップ -真夜中のソーダ割り-
シンジの夜 - 夏のさわやかレモン味 -
カヲル君にキスされちゃった。ただ仲のいい友達だったのに。僕はカヲル君が好きだったけど、それはカヲル君がやさしくてかっこいいから当たり前だと思ってた。
あっという間だった。気づいたら唇は離れてて、体がちょっと浮いていた。ファーストキスは甘酸っぱいって誰かが言ってたけど、レモンスカッシュの味がした。カヲル君が飲んでたんだ。
僕たちどうして駄菓子屋になんて行ったんだろう。いつもは駅前のコンビニで寄り道するのに。駄菓子屋のすぐ裏に土手があって、それで一緒に夕陽を見ながら喋ってたんだ。空が燃えるように赤くって「きれいだね」って言ったら「そうだね」って返ってきて、そのまま沈んでゆく茜空を眺めてた。
「…もっと長くてもよかったのに。」
ふわっと触れるくらいの爽やかなキス。もっともっと、って思うような…
「…もっとむりやりだってよかったのに。」
ああ、僕、バカみたいだ!
さっきからキスのことしか考えない!
「…僕たち友達なのに。」
嫌じゃなかった。
「…僕たち男同士なのに。」
カヲル君じゃなきゃダメだって思った。
あのキスは気まぐれなのかな。カヲル君が真っ赤だったのは夕陽のせいかも。君が黙っちゃうから何も聞けなかった。僕も心臓が飛び出るくらいドキドキしてて、おかしくなっちゃってたし。ああ!君のせいで、眠れない。
「カヲル君…」
やっぱり君が好きみたい。
「どうしよう…」
あれで終わりじゃ嫌だな。だから、明日、今日の続きをしてくれるカヲル君や、今度の日曜日、ふたりでデートするカヲル君を想像してみる。変な期待をしてしまう。もっと…
「ああ!もう!」
僕はなに考えてるんだ!変態!
『シンジ君、君が好きだ。』
もしもそんなこと言われたら、僕はきっと、もう、僕じゃなくなる。期待しちゃいけないに。ああ、どうしよう。涙が出てくる。
カヲル君、今頃すやすや寝てるのかな。
僕の気も知らないで。
カヲルの夜 - 夏のとろけるメロン味 -
シンジ君にキスをした。永遠のような、一瞬だった。僕は忘れない。あの瞬間を。気がついたら自分を抑えきれなかった。交際の申し込みからするべきだった。
体中が君で満たされていて、興奮が抑えきれない。朝が来るのに、眠れない。シンジ君はメロン味だった。キスの前にメロンソーダを飲んでいたから。僕はそれを飲む度に初めてのキスを思い出してしまうだろう。今でもずっと、思い出している。
何度目かもわからない寝返りをうって、枕を抱く。ああ、これが君だったなら、とふやけた頭がハレンチな想像をする。体が言うことを聞かない。今はあの素敵なキスに浸っていたいから、そんなことはしたくないのに。僕は毛布を掛け直して、その昂りに知らないふりをした。
「こんなにエッチな気分なのは、君のせいだ…」
熱いため息。キスした後の君の顔が僕の胸を焦がしてゆく。
「今すぐに君に会いたいのに…」
時計を見たら午前四時。あと四時間も君に会えない。
「ああ、シンジ君!」
枕に顔を埋めて僕は叫んだ。もうそろそろ近所から苦情が来そうだ。
「好きだ!シンジ君…!」
あんまりにも君がとろけたような愛らしい顔をしていたから、そんな肝心なことを言いそびれてしまったなんて。僕は、間抜けだ。
「…今日こそはちゃんと君に伝えないと。」
拒絶されたら僕はきっと死んでしまう。
けれど、キスされた君は、嫌そうではなかった。
「…シンジ君。」
むしろ、嬉しそうだった。それは、つまり…
だから僕の頬は緩みっぱなしだ。こんな顔、君には見せられない。
「ああ!シンジ君!なんて愛らしいんだ!」
僕しか知らないシンジ君は夕暮れに染められて、とても美しかった。
『…僕もカヲル君が、好き。』
ベッドの上でのたうち回り、気の早い僕はもう、いつか来てほしいと願う未来に夢中になっていた。耳たぶが熱い。
シンジ君、今頃すやすや寝てるのかな。
僕の気も知らないで。
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