Vol.3 星空ストーカーの末路



君は正しかった。

僕はあれ以来ずっと君の事ばかり考えていて、ついに今日の朝、思い知らされたのだった。
僕は昨日一度も父さんの事を考えなかった。

それは雷に撃たれたような衝撃で、思わず朝食の途中で箸をポロリと床に転がしてしまった。

あれから三日が過ぎた。二日間カヲル君は学校を休んで、生徒会長の不在に大いに全校生徒はざわめいた。完全無欠の彼が休むなんて大病じゃないかと泣き出す女子生徒も居た。カヲル君の下駄箱にはこれでもかとお見舞いの手紙が詰め込まれて、きっと机に入りきらなくて下駄箱にも投げ込まれたんだろうと僕は察した。職員室でも話題の的で、先生達がああだこうだと暇を持て余した噂話に花を咲かせていたのだった。

けれど今朝登校してみると、綺麗さっぱり下駄箱の紙屑は消えていた。つまり、彼は今、学校に居る。

僕は驚く程の捻くれ者で、あれからずっとカヲル君へお弁当を作って持ってきていた。はっきり言って自信作だ。色とりどりで栄養バランスも見た目もとても良い。こんなお弁当残すのが持ったいないから昨日まで彼が食べない分は夕飯として僕の胃袋の中へと詰め込んだ。味だってとっても良いんだ。けれどこれを褒めてくれるのは君だけじゃないか、カヲル君。

僕は授業中もそわそわしっぱなしで苦手な数学はもはや呪文のようで頭に入らない。チラチラ気になって時折手提げ袋を見下ろして、お味噌汁の入っている水筒までちゃんとあるか確かめていた。午前の休み時間、カヲル君はいつものようにクラスの前を通らない。僕は授業開始のチャイムが鳴る度に、ちょっとだけ胸がチクリと痛んだ。

ー君もずっとこんな気持ちだったのかな…

ひょっこり廊下を通り過ぎて笑顔で僕に手を降ってほしい。だって、君が気に病む事なんて何ひとつもないんだから。

ーねえ、君はどうしてそんなに混乱しているの?

僕はつまらない過去なんて捨てる為に、少し羽根を休めていただけなのに。
繭を破った僕は今、君とどこまでも一緒になって、飛んでいきたいんだ。


「生徒会長さん、保健室らしいぜ。」

「え?」

それはお昼前の最後の休み時間。突然、情報通のケンスケがしたり顔で呟いたのだ。

「やっぱり大病なんやろか。この前はものっそい剣幕やってん。ほなやっぱーー」

「ねえカヲル君今、保健室なの!?」

「ああ、そうだって。って碇、どこ行くんだ?」

「僕も調子悪いから保健室!」

僕は駆け出して教室を出た。お弁当の入った手提げ袋も一緒に。

「弁当持って休む気満々やないけ。」

「お熱いねぇ。アレはもう、抱かれたな。」

「おえ。気持ち悪いこと言うなや…ぐええ…」



「…カヲル君、居る?」

ガラッとドアをスライドさせると、ひとつのベッドだけが四方をカーテンで覆われていた。

「…カヲル君?」

「遅いよ、シンジ君。待ちくたびれたよ。」

カーテンをすっと開けるとそこには頬を少し染めたカヲル君が居た。声は緊張のせいかいつもより上擦っていて、常に余裕な彼らしくはなかった。

「…大丈夫?病気なの?」

「まあ、そうでもあるだろうね。」

カヲル君の頬は痩けていたから、僕の心臓は針でぎゅっと串刺しにされる。

「…やっぱり、酷い病気なの?」

「そうだよ。酷い恋の病さ。」

「もう!脅かさないでよ!本当に心配したんだからな!」

「脅かしてなんかいないさ。酷い病に苦しんでいるんだ。お陰で何も喉を通らない。処方箋は君しか知らないんだよ、シンジ君。」

カヲル君は真面目な顔でそう言うと、カーマインの瞳を繊細に揺らした。その瞳は枯渇していて、眉は切なそうに形を作っている。

「…もしかして、わざと保健室で僕を待ってたの?」

「そう。君なら来てくれると信じていたよ。」

「…重病なの?」

「そう。辛いんだ。」

「何も食べてないの?」

「食欲が無いんだ。胸が一杯でね。」

僕はサイドテーブルに置いた手提げ袋を見た。

「…ねえ、処方箋はあげられるかもしれないけど、僕、イマイチ良くわからないんだよ。」

「何がだい?」

「カヲル君の気持ち。恋の病って、僕が原因なの?」

「今更それを聞くのかい!?」

「だって、どうして僕なんかをって思うし、僕はちゃんと、告白とかされた訳じゃないじゃないか。愛してるとは、言ってくれた、けど…」

「…好きに理由はないだろう。それに君を愛してるってわかってくれているなら、それならもういいじゃないか。」

「それじゃ僕はやだよ。ちゃんと聞きたい。自信がないんだ。」

「…告白はされるばかりで、慣れていないんだよ。」

「はあ。そんなセリフ言ってみたいよ。それに、キスはしてたけど、それは慣れてるの?」

「まさか…!あのキスが初めてだよ!……仕方ない。笑わないで聞いくれるかい?」

「うん。」

「僕はこれまで散々人の告白をこっ酷く振ってきたんだ。だから、君にちゃんと告白をしたら、彼女達の怨念のせいで駄目になってしまう気がしていてーー」

「ふふ。」

「…笑ったね?」

「ち、ちょっとだけだよ。カヲル君は可愛いなって。」

僕が笑いを堪えながら銀髪を梳いて宥めると、カヲル君は唇を結んで耳まで桜色になった。

「…ねえ、僕の口ばっかり物欲しそうに見ないでよ。」

それから僕はうっとり僕の唇を見つめるカヲル君に心臓が飛び出そうなくらいドキドキしてしまう。この前のキスと同じ場所だから、嫌でもカヲル君の雄々しく興奮した姿を思い出してしまうんだ。

「…これでも意識しないようにしているんだよ。」

熱を孕んだ瞳のままにゴクンとカヲル君の喉が鳴ったから、僕は少しだけ彼との間合いを取った。

「……いつから僕の事好きだったの?」

「一目見た時からさ。あの日、君がプリントを拾ってくれた出逢いの時から。」

「そんな前から?もしかしてずっと僕を見てたの?」

「…気づいていたのかい?」

「図書館で『アルジャーノンに花束を』を読んでるカヲル君を見つけてからだけど。」

「ふふ。君は宮沢賢治を読んでいたね。けれど、もっともっと前からだよ。僕は君に僕の事を気づいて欲しくて生徒会長に立候補したんだ。」

「ええ!?じゃあ斜め右を向いて話してたのは…」

「勿論、君に向かって話していたのさ。気づいてくれてたんだね。」

「僕の周りの女子達も勘違いしてたよ。」

「それにね、僕はシンジ君の借りた本は全部読んだんだ。」

「…『月面ウォッチング』も?」

「ああ、勿論。」

「すごいや!」

「…それと、実は…僕は君をストーキングしていた。」

「ストーキングって、何をしてたの?」

「いつも遠くから君を見てたし、たまに持ち物にも触ってた。」

「…もしかして体操服も?」

「知ってたのかい?」

「ううん。なんかたまに僕の畳み方と違ってたからアレって思った事があっただけ。体操服触ってどうするのさ。」

「匂いを嗅いで…いやらしい想像をしてたんだ。」

「…カヲル君って意外と変態なんだね。マニアックだなあ。」

「それで、これ。」

カヲル君はポケットから一枚のハンカチを取り出した。それはーー

「…君の忘れていったハンカチだよ。ずっと持ってたんだ。」

ーー僕がずっと前に失くした緑と紫のチェックのハンカチだった。

「…これでも、何か変な事した?」

「……ちゃんと洗濯したよ。アイロンも掛けた。」

「ふうん。ありがとう。」

「…これで、僕の事、嫌いになったかい?」

ハンカチを眺めてたら急に手首を掴まれてふと顔を上げたら、カヲル君は泣きそうな顔をしていた。

「気持ち悪いかい?僕の事。」

「全然。なんでそうなるのさ。」

「…君は友達だと思ってた奴が実は君のストーカーだったんだよ。少しも動揺しないのかい?」

「なんとなくだけど、それは、知ってたんだ。」

「……」

「いつも目が合うし、図書カードにも名前があったし、意識してたんだ。最初は訳がわからなくて怖かったけど、ケンスケがカヲル君は僕の事好きなんじゃないかって言ってきたから、そうやって見たら別に嫌じゃなかった。カヲル君だったからかな。」

「…シンジ君。」

「それにね、そうかもしれないって思いながら知らんぷりして僕はカヲル君をたくさん試してたんだ。本当に僕の事を好きなのかなって。ごめんね。」

「謝る事じゃないよ。」

「でもそれって誠実じゃなかったから。父さんの事でちょっと荒んでたんだ。ごめん。」

「…君は荒んでいても可愛いんだね。」

「それ、嬉しくないよ。」

「ふふ。なら今、誠実でいてくれるかい?」

「うん。わかった。」

「…じゃあ、シンジ君。」

「なあに。カヲル君。」

カヲル君はすうっと深呼吸をした。アンタレスがキラリと輝く。

「君が好きだ。僕と付き合って欲しい。」

「…うん。僕も……カヲル君が、好き。」

そしてカヲル君は僕の手首を引いて、僕を抱き寄せた。僕は上履きのままカヲル君の上に寝そべって腰を抱かれて、数日前の続きをしたんだ。それはとっても気持ちが良くてここが学校だって事も忘れてしまっていた。

暫くしてから昼休みを告げるチャイムが鳴って、僕らはゆっくり唇を離した。長い長いキスの間に僕らは互いに身体を弄っていたから、僕は正気に戻ると慌てて衣服を整えた。あとひとつでシャツの釦が全部外されるところだった。カヲル君を見ると、インナーから形のいい臍がちらっと見えていて、僕は自分のした事に驚愕した。

「…明後日からの夏休みが楽しみだね、シンジ君。食後の冷たいデザートの後は熱々のデザートも食べたいな。」

「…そんな事言ってるなら、今日のお昼ご飯はあげないよ。」

「え?」

「…僕の手作りのお弁当、食べたいんでしょ?」

その時のカヲル君の顔は本当に幸せそうだったから、僕の頭はショートしてしまった。僕は人から求められる喜びに感謝してカヲル君にもう一度キスを強請ったら、空気を読まない養護教論が勢いよくドアを開いて間抜けな欠伸を一発響かせたのだった。

「…ほらね。これが女子の怨念だよ。」

カヲル君が耳元でそんな事を囁くから、僕は思わず声に出して笑ってしまった。


ーーーーー…

二日後の放課後の事。今日は終業式の為、午前中のみとなる。本日の最高気温は三十五度らしい。

「カヲル君!」

「…シンジ君。君から訪ねてくるなんて珍しいね。」

「とぼけないでよ!もう噂になってるんだからな!」

そう。僕らの周りでは野次馬がヒューヒューと冷やかしを愉しんでいる。それは、彼の言う通り、僕のせいなんだ。


『渚先輩、好きです。付き合ってください。』

『すまない。僕は君の好意を受け取れない。僕には好きな人が居るんだ。』

『…それってもしかして、碇君ですか?』

『ああ、そうだよ。僕は今、碇シンジ君と付き合っているんだ。』


それは瞬く間に全校生徒に広まって、僕は漸く告白地獄から解放されるんだと思うと朝から清々しかった。

「僕まで有名になって質問攻めじゃないか!どうしてくれるのさ!」

「けれど嘘を吐いたってしょうがないだろう?」

「僕はカヲル君みたいに目立つのは慣れてないんだよ!」

「人の噂も七十五日と言うだろう?今だけだよ。」

「二ヶ月以上も僕、耐えられないよ!」

「でも君だって僕が告白ばかりされるのは嫌だったろう?」

「……うん。」

「それに幸いな事に明日から夏休みだよ、シンジ君。」

「……うん。」

僕はわざとこの噂を校内に広めた。何故なら僕は来年は高校生になる。シンジ君をこの中学に残して離れ離れにならなければいけない。そんな僕の目が届かない時に悪い虫が付いてしまったらと思うと僕は夜も眠れない。だからこれは虫除けなのだ。シンジ君は自分の元ストーカーを彼氏に選んだのだから、そんな事ぐらいで慌ててもらっては困る。



僕らは真夏の真昼間の中、並んで下校していた。アスファルトは茹だる暑さに陽炎をちらつかせていたけれど、僕は不快には思わなかった。そしてその波にゆらゆら揺られながら僕は再三お強請りをして、もうすぐ家に着いてしまうくらいになってやっとシンジ君と手を繋ぐ事が出来た。これは僕の夢だった事のひとつ。シンジ君は五度は周りを確認していた。

「ねえ、カヲル君。」

「なんだい?シンジ君」

「卒業する時は第一ボタン、ちょうだいね。」

「勿論だよ。僕はもうその気でいたのさ。」

「よかった。」

合わさる指先をキュッと握りしめる君。

「そういえば、シンジ君。」

「ん?」

「実は去年の卒業式の日、僕は君に最初の告白をしているんだよ。聞こえないくらいの囁き声でね。」

「え?……あ、やっぱりあれ、空耳じゃなかったんだ。」

満開の桜の下で囁いた短い言葉。愛を伝える三文字の科白。

「…聞こえてたのかい?」

「うん。こう言ったでしょ?」

君は僕の耳翼に手を添えてこう囁いたんだ。


好きだ。


するとあの時の花弁と同じ色に僕はみるみる染まってしまう。


あの頃、僕は遠い真夏の天の川を隠れて眺めるばかりだった。

けれど、今はーー

「シンジ君、夏休みは一緒に郊外に行かないかい?」

「うん、いいよ。でも、なんで?」

「僕は昔、そこで天の川を観たんだ。降るような満天の星空でね、手が届きそうな程近くに星を感じたんだ。」

「……うん。」

「…嫌かい?」

「違うよ。僕、家族旅行も行った事ないから、なんか夢みたいだなって思って。嬉し過ぎて驚いた、だけ…満天の、星空…観てみたいな…」


君の真夏の夜空は天の川を湛えて、澄んだ星屑をひと欠片、ポロリと零すのだった。
君は、その漆黒の瞳がずっと満天の星空を映している事を、まだ知らない。


ーーーーー…

「ただいま!」

「おかえりなさい。」

夕食の支度をしている僕にカヲル君は後ろから抱きついた。

「危ないよ!包丁持ってるんだよ。」

「ふふ。心配して走って帰ってきたんだから、これくらいいいじゃないか。」

そう言うとカヲル君は僕の頬にキスをして、それじゃ我慢出来なくて僕の唇にまで吸い付いた。

「ん…心配って?」

「携帯だよ。電源が切れてるんじゃないかい?」

「あ!携帯!どこやったっけ?」

僕は料理を中断して携帯電話を探した。そしたらさっき制服を脱いだ時にポロリと床に転がってしまったらしい。彼の指摘通り、電池切れで真っ暗なその画面。

「ごめん。僕、うっかりしてた。」

「君が無事なら良かったよ。さあ、早く充電してペアリングしよう。」

カヲル君は今高校一年生。難関高校に行くとばかり思っていたら、僕の中学と近くの公立高校に行ったんだ。僕はまだ中学三年だから、学校は離れ離れ。だけどそれ以外では、一緒なんだ。

僕らはあれから話し合って、僕のマンションを解約してからふたりで暮らす事にした。父さんにその趣旨を伝えたら、ああ、とかわかった、とか言って、郵送した書類にも難なくサインをして送り返してくれた。カヲル君の放任主義のお爺さんは粋な人でふたつ返事で了承してくれた後に、孫を宜しく頼む、と僕に言ってから新婚夫婦ではないのだけれど、キッチンの広い物件を勝手に選んで僕らに押し付けてくれた。僕はふたりの無責任な親権者に対して何とも言えない侘しい気持ちを沸々と覚えたが、カヲル君がとても幸せそうに、僕達はついているね、なんてカーマインをキラキラと輝かせていたから、僕もそう思う事にしたのだった。

「ねえ、携帯をペアリングなんて、普通のカップルはしているのかな?」

「僕達は普通のカップルではないだろう?最高のカップルなんだから。」

実際、今の僕は幸せで仕方がない。僕の側でカヲル君が僕だけを見てくれている。ずっと僕から離れずに君が必要だと言ってくれる。それは僕が幼い頃から夢に見ていたような事。親という家族は僕には手に入らなかったかもしれないけれど、僕にはカヲル君が居る。それだけでそれまでの酷く寂しかった想い出が、僕らの今を引き立てるただのスパイスだったんだなって思えるくらいに影を潜めてしまったのだった。

「あ。またしてる。」

カヲル君は僕の抜けた髪の毛を摘まんで、慎重に硝子管へと採取した。

「最高のカップルって言ったらとても幸せそうに微笑んだ君の想い出の品さ。」

そうしてそれをキュッとコルクで蓋をしてから、大きな革製のマホガニーのトランクを開錠した。
そこには不気味なまでにならんだ物凄い数の硝子管たち。

「ねえ、この試験管はいつの?」

「2014年9月29日、僕らの出逢いのきっかけのプリントの端切れさ。」

「じゃ、これは?」

「2015年3月21日。僕の細やかな告白の直前に掌に落ちた桜の花弁さ。」

「すごいや!これは?」

「2015年7月17日。夕立の日に君が使ったバスタオルの繊維だよ。」

「じゃ、これは?」

「2015年8月3日…僕達の初体験の日の体液をコットンに含ませたのさ。」

「……カヲル君、いつの間に…」

僕がかあっと真っ赤になって俯くと、白磁の顔が不安そうに覗き込む。

「嫌だったかい?」

「ううん。でも普通は写真で想い出を残すみたいだよ。僕の家は違ったけれど。」

「ふふ。僕は普通ではないけれど、写真でも想い出は残しているよ。」

「え?」

カヲル君は徐にノートパソコンの電源を入れて、少し弄ってから僕に液晶画面を向けた。

「あ…」

それは明らかに盗撮写真だったけれど、僕らの出逢った次の日からの、膨大な量の僕の記録があった。僕の横顔だったり、後ろ姿だったり、それに…

「おっと、これはイケナイね。」

「…何?今の。」

「…見逃しておくれ。」

僕の着替え中の際疾い姿だったり。


「カヲル君って器用だね。僕に気づかれずにこんな事まで出来るなんて。」

「初恋に狂っていたんだよ。今もだけどね。」

「ふふ。でもさ、」

僕はそんな可愛い僕の恋人にしなだれる。腰に回される僕だけを愛撫する、君の白い指先。

「今度はもっと家族写真みたいに、ふたりで写真を撮ろうよ。そしたら僕、現像してアルバムを作りたいな。」

「君が望むなら、喜んで。」

そうして僕らは蜜よりも甘い甘いくちづけをするのだった。



2015年8月19日。そのラベルの硝子管の中身を僕は知っている。

満天の星空を流れる天の川を僕らは観ていた。嬉しくて泣いている僕をカヲル君はゆっくりと押し倒して、僕らは星々に照らされた明るい草陰で蕩けるようなキスをした。その僕の耳元に落ちていた、月影を結晶にしたような煌めく小さな石。

そして僕の真夏の天の川を映す漆黒の瞳と、僕だけを映す君の蠍座の心臓のアンタレスの瞳が、その硝子管の中には閉じ込められている。



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