ひめごとふたり
おとなのキス? 続篇
「ぼくたち小学生だよ?」
こどもはおとなになる。その早さは千差万別。それは近くにいるふたりでも遠く差がひらけてしまって当たり前なのだ。たとえそれが恋人同士であったとしても。
「僕たちは恋人になってどれくらいかな?」
「えっと、5才のころからだから…3年!」
「そう。もう僕らはそれだけ愛を育んでいる。立派な大人だ。」
「大人、なのかな?」
「そうだよ。パンツの中だって幼稚園の時とは違う。」
「あ、あの話はやめようよぉ…」
シンジはお気に入りのロケット模様の布団をぐるぐる巻きにして隠れてしまった。ここはシンジの部屋。天井には彼の大好きな惑星のオモチャがぶら下がっている。
「また見せあいっこしようよ、シンジくん。」
「やだよ、」
「どうして?」
「だってカヲルくんだけ大人になってるんだもん。」
シンジは正直、カヲルの下だけがみるみる大きくなっていることに小さな不安を抱えていた。
「成長に個体差は付き物さ。気にすることはないよ。」
「きっと、カヲルくんと恋人だからかもしれない…」
「どうしてだい?」
「カヲルくんのほうが男らしいから体が勝手に僕を女の子だと思っちゃったのかも、」
シンジは少しファンタジーの中に住む少年だった。
「まさか。シンジくんは男の子だよ。」
「うん…そうだけど、」
「ねえ、今日はデートだろう?隠れてないで出ておいで。それとも、」
カヲルはベッドで不貞腐れているシンジのその布団の中へと無理矢理潜り込んできた。
「や、やだ、カヲルくん、」
「大人のキスだよ、シンジくん…」
もうこの頃にはシンジはすっかりその超絶技巧のキスにメロメロになっていた。その殺し文句を聞いたとたん、シンジは目を閉じじっとカヲルを待ち受けるのだ。
「ハア、ハア、カヲルくん、熱い…」
ふたりの抱き合う体が熱くてシンジは布団から顔を出す。するとカヲルは急に真面目な顔をした。
「どこらへんかな?下の方かい?ジンジンする?」
「…えっと、うん。」
「やっぱり見せあいっこしよう。大人になる勉強さ。」
「やだよ!母さんたちが帰ってくるかもしれないよ!」
「五分だけ。今度はトイレじゃなくてここでちょっと脱いでみようよ。」
「ベッドで!?」
「そう。ふたりがベッドで裸になる。ふたりの未来のためにね。」
「…カヲルくん、赤ちゃんがほしいの?」
「ん?」
「裸で一緒に寝ちゃうと赤ちゃんができちゃうんだよ。カヲルくんと僕ならきっと僕のおなかがおっきくなっちゃうよ。」
カヲルはシンジのその純粋な感性になんだか心も体もムズムズしてきた。
「赤ちゃんじゃなくて、シンジくんが欲しいんだよ。シンジくんのことを全部知りたいんだ。」
「わかった。いいよ。なんでも聞いて。」
「表現に語弊があったね。シンジくんのことを全部見たいんだ。パンツの中もね。」
「パンツのことばかり言ってるとヘンタイになっちゃうよ。」
「じゃあ、シンジくんのおちんちー…」
「だめ!言っちゃだめ!」
恥ずかしがり屋のシンジがキッと睨みつけると、カヲルはシュンとしょげてしまう。
「一生のお願いでも、ダメかい?」
カヲルはすぐそうやっておねだりするのだ。トイレでの見せあいっこもこの言葉のせいだった。
「カヲルくんの一生って何回あるのさ。」
「僕は何度だって生まれ変わるんだ。君を幸せにしたくてね。」
「カヲルくんがそんなこと言うときは、いつもイケナイことをするときなんだ。」
「…僕のことはもう好きではなくなってしまったのかい?」
カヲルががっかりした顔をしてまた布団の中に沈んでしまうと、シンジはキュンと胸が苦しくなってつい、懲りずにこう言ってしまう。
「カヲルくんが大好きだよ。だから一生のお願いも、ちょっと、聞いちゃう。」
「ありがとう、シンジくん!」
布団から顔を出してシンジを抱き締めるカヲル。彼が背後でガッツポーズをしていることなんてシンジは知らない。
「ア、ア、ちょっと、カヲルくん!」
恋人ふたりで裸になって布団の中で向かい合う。けれどいささか早すぎた。カヲルは恋人のなかなか成長しない仔ぞうさんを早くおおきくなあれとばかりにいじっている。ピンピンつつくとプルンプルンと柔らかそうに揺れているベビーピンクのかわいいお鼻。
「ア、ア、や、やだ、なんかでちゃう…!」
「精通しているのかい!?」
カヲルが目を輝かせるとシンジはピクピクしながら仔ぞうさんを両手で隠した。
「セイツウって?」
「おしっこじゃないものが出たことあるかい?」
「ええ?どんなの?」
「カルピスみたいなヤツさ。気持ちイイ時に出るんだ。実は僕はもうしててね。早かったんだ。」
シンジはわけがわからなかったがなんとなく、カヲルが自分よりも先に進んでいることは理解した。
「…カヲルくんだけ、また?僕は置いてけぼり…?」
自分の両手で包み込んだ小さなアレとカヲルの膨らみかかっておっきしている大きなアレを見比べた。そうカヲルは興奮しはじめていたのだ。
「僕だって、早く君と一緒にしたいんだ。ねえ、シンジくん。一緒に皆より一足お先に大人になろう。」
「でも、赤ちゃんが、」
「出来ないさ。それは男と女の場合なんだ。」
「でも、やっぱり僕が女の子に…」
「ならないために僕みたいにこう出来るようにするのさ。」
カヲルは自分のぞうさんを指差した。それは大きなお鼻がピンと上を向いていて、男らしかった。
「わあ、すごい…」
「ふたりなら、きっと出来るよ。」
シンジはカヲルを見上げた。そのやさしい恋人の笑顔に、きっとうまくいく、そんな風に思ったのだ。
「うん!カヲルくん、僕を早く大人にして!」
ーーーーー…
「やっぱり僕はカヲル君に騙されたんだ…」
歴史の長い恋人達は昔話を酒の肴にするのが好きだ。けれどもうすぐふたりは恋人とは呼べなくなる。先月シンジはカヲルの部屋へと越してきた。その理由は右手の薬指に光っているプラチナが知っている。
「愛は時に暴走するものさ。僕は誰よりも君を愛しているからね。」
「綺麗な薔薇には棘があるんだ。カヲル君も綺麗な顔してただのスケベだったんだ。」
「おや、もう酔ってしまったのかい?」
今日はシンジが幼稚園の先生になってから初めての卒園式だったのだ。ふたりはそのお祝いにとシャンパンを開けたのだが、ちょっとその可愛い新米先生は悪酔いをしてしまったらしい。
「全然。でも、カヲル君はエッチなんだ。」
「うん、そうだよ。」
「あ、開き直ったな!」
シンジはカヲルに飛び掛ったつもりでいたが、そのまま抱きつくようになって、すんなりとベッドへと運ばれてしまう。
「あ!犯罪者だ!お巡りさーん!」
「フィアンセをベッドに寝かせるのは犯罪なのかい?」
やや眉を下げて笑うカヲルにシンジの胸はキュンとしなる。
「ううん。ごめん、嫌だった?」
するとカヲルは頬を膨らませて面白そうにぷっと吹き出す。
「あは!シンジ君はやっぱり騙されやすいね!僕は酔っている君を組み敷いてちょっとエッチな昔話で興奮している。君は完全に包囲されているのさ、こねこちゃん。この後は、わかるだろう?」
「もう!やっぱりカヲル君はただのスケベだ!変態だ!」
そのちょっとエッチな昔話のふたりはあれからまもなく大人になる。その大人になるとは色々な意味を持つ。小さな仔ぞうさんはやっぱり鼻からカルピスは出なかったけれど、かわりに気持ちイイことを知ってしまったのだ。それからふたりはシンジの両親に見つからないようあの手この手を使っては、いかがわしい大人へのレッスンを重ねて、性なる愛を育んできた。
「君が悪いのさ。僕を虜にして離さない、僕の可愛いフィアンセがね。」
ふたりの百戦錬磨の夜がどんなものなのか。それは大人になったふたりだけの秘め事なのだ。
寝室のサイドテーブルには小さなプラネタリウムが今日もシンジの好きな満天の星空を部屋中に映している。
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