夢子は断罪


拝啓 先輩様

二度目ましてです、こんにちは。先日お会いした夢子です。突然このような手紙を下駄箱に放り込んでしまったことをお許しください。ところで先輩は私が渚くんと碇くんを股にかけてもてあそんでいる悪女だということをご存知でしょうか。誠に申し上げにくいんですが、そういうワケでしてあの申し込みはお断りさせていただきま

と。ここまで書いたところでヒカリがその紙をビリビリに破って捨てた。

「夢子ちゃん現実を見て!人に戻れなくなるよ!」

そう。いや、違う。私はすでに人じゃない。クラスメイトの美少年たちを眺めながら四つん這いでホモォホモォと呻きつつ授業中にはR18の妄想を糧に、家に帰ればいかがわしいBL漫画を誰も頼んでいないのに勝手に自分のために仕上げる、そういう私はとっても腐女子。腐女子は人じゃない、腐っているから…ゾンビ?いやなんか違う。

「もう人じゃないけど」
「そんなんじゃダメだって!せっかく告白されたのにぃ〜!」

世界にはほんと色々な人がいる。よくわからない(見たこともない)先輩が私にいきなりコクってきたから、流石にこんなヤツのせいで青春を棒に振ってはいかんだろうと親切心でお断りの手紙をしたためることにした。腐っても良心はある。私は煮ても焼いてもあぶってももうホモしか出てこない。ホモがなきゃ生きていけないが恋愛なんてしなくても別に何ともない。なのに青春の手前そんなヤツにメールしてデートしてリア充擬態してる間にどれだけの薄い本が読めると思ってんだホモしか興味ないっつってんだろ!!と心の中で叫びつつもこれは何かの縁、私に惚れたそのお人をものの哀れと詫びをしたためていたというのに…これである。

「夢子ちゃんもカッコいいって言ってたじゃん」
「でもホモじゃない」
「ええ?」
「その先輩が例えば碇くんを好きになったら私は全力で応援するよ?」
「意味がわからないよ!」

ヒカリはいい子だ。ちょっとおせっかいだけど(自分がリア充だと差別化を図っているようだけど)きっと私の将来をすでに案じてくれてるんだ。でも大丈夫だよヒカリ。私はこれで満足してる。

「だって漫画描く時間なくなるし」
「両立すればいいじゃん」

ヒカリの秘密の生態をご存知だろうか。彼女は隠れ腐。私が休み時間にコソコソ漫画を描いていた時に偶然を装ってヒカリは話しかけてきたのだ。「何描いてるの?」と素知らぬ顔で。私は彼女が同志だとすぐ察知したけれどそこは思いやりで、途中のネームを見せながら「これホモだよ」とパンピ向けの解説をした。そしたらヒカリは明らかに腐っていたけど「え〜どういうこと〜」なんてこそばゆいくらいに拒否りつつもガッツリ食いついて修正前のなんちゃらに鼻を膨らませていた。今では夢子作18禁漫画読了後に「音楽室のシチュって好きかも」なんて言うくらいには警戒が解除されている。

「ククク…」
「なんで急に笑い出したの!?」

教室の片隅では渚くんと碇くんが今日もイチャイチャ手を握り合って遊んでいた。(何の遊びだ?)ほう。これは最終段階だな。私は笑いが止まらない。

「フラグ立ち過ぎか」
「も〜」

渚くんと碇くんはあと一歩でくっつくんだ。そのためにはなんかこう、大きな障害が必要なんだ。だからその先輩が碇くんにちょっかいを出すモブになってくれたなら…渚くんも本気出してついに碇くんをモノにするでしょう。ハア念願の展開。ふたりは禁断のオトナの階段へと駆け出すでしょう。

あッあッあッ;;;;;尊い…!!

「なーに話してんのよ」

私の脳ミソがちょっとエロに足を突っ込みはじめたら、机にアスカが腰かけた。

「アスカも言ってやって。夢子ちゃん、このままだと完全に婚期を逃すよ!」
「もう救いようがないから案ずることもないわよ」
「そうそう。私を救わんでくれ(婚期とかさ…婚期…)」
「でも〜」
「夢子はホモと添い遂げるのよ。尊いって合掌しながら召されるの」

アスカを見る度にハーフっていいなぁって思う。何でも許されるよね。ひどいこと言ってそうで的を得てるようでやっぱりひどいのに、この許される感。美少女からいたぶられるのはたまらんな。

「でもまだ召されないよ。カヲシンが愛を成就するまではね」
「かをしん?」
「カヲル×シンジ。シンジきゅんが受けなの」
「気持ちわるッ」

白目を向いたアスカ。アスカはあのふたりと仲がいい、というより碇くんと、とっても。きっと好きなんだろうなと思う(それで彼女もフリーだから味方してくれるんでしょうけれど)。

「アスカは碇くんと仲いいじゃん。なんかレポくれ」

だからこの『碇くんと仲いいじゃん』ってつけるとたいてい何か情報をくれる。

「あ。この前、私があのバカに気まぐれで弁当つくってやったらあのナルシスホモが『毒が入っているかもしれないよ、シンジ君』って騒ぎだして」

何それ萌える…!あからさまな嫉妬やん!ジェラシーや〜〜ん!

「でも『そんなこと言ったら失礼だよ』ってあのバカが食べたのよ、全部。そしたら次の日休んじゃって。ほら、あの木曜の日。しょうがないから見舞いに行ったら食中毒らしいって。アイツ無理してちょっと酸っぱくなってるのに食べたんだって。バカよねー。3日前にオカズ作っても夏はすぐ腐っちゃうのね」

っょぃ。ヒカリと私は合掌した。

「そしたらホモルが私を殺してやるって感じで『僕がいなかったらシンジ君は真夜中に倒れたまま朝まで苦しんだかもしれないんだぞ!』ってさ。ホントねちっこい。その日は両親が出張で家には誰もいなくって」
「待って!」

私は興奮で少し震えていた。

「なんで渚くんがいたの?」
「え?」
「どうして真夜中に、両親のいない碇くんのマイハウスに、渚くんがいたの?」
「え」「え」
「寝るような時間にいたんでしょ?一緒に」
「え?」「え?」「え、」「え!」「え!」「え!?」

私達が「え」だけで会話していると、遠くで渚くんと碇くんがカーテンの裏でコソコソ何かやっていた。

「夢子に言われるまで気づかなかったわ…」
「やっぱり夢子ちゃんはホモへの嗅覚が鋭いね」
「まあね」
「褒めてないわよ」
「たまには褒めてよ〜アスカ〜」
「アンタは何なのよ…!」

目の前のおっぱいに脳天埋めてグリグリしてみたらアスカがちょっと照れていた(Cカップか隠れDだな)。

「でもさ、確証が欲しいよね」
「何のよ」
「ふたりがどこまでいってるのか」
「ハア!?」
「たまたま泊まっただけかもしれないよ?」
「ヒカリは鈴原くんの家に平日でもお泊まりすんの〜?」
「ブフォ!そんなことグエェ!な」
「ところで夢子、この紙切れ何よ?」

美少女にはコクられるなんて日常茶飯事かもしれないけど私には斜め上の出来事だから不覚にもドキッとした。でも――

「いいこと思いついてしまった」

――私はその千切れた言の葉たちを見つめて、ある考えがひらめいたのです。


「で?OK?」
「ばっちり」

碇くんを呼び出して、私はあるお願いをしたのだった。要約すると@変な先輩からコクられてしまったので断りたい(ここからはオプションです実にスミマセン→)Aストーカーっぽくて困ってるB誰かと付き合ってると言ってしまったCアスカに相談したら碇くんが頼りになるって言われた、と手短に話をした。碇/く/ん/が/頼/り/に/な/るって部分を強調したら碇くんは耳を赤くし照れていた。むしろ守ってあげたい気持ちになった。

ちょっと自慢になるが、出だしはこうだった。

「碇くん、ちょっといい?」
「ぼ、僕、ですか?」
「うんちょっと話したいことがあって。できれば誰もいない場所で…」
「夢子さん…あ!アスカがそう呼んでるから、つい。夢子さんって呼んでも大丈夫ですか?」
「もちろんだよー。夢子でもなんでも好きに呼んで」
「夢子!?いや、その…じゃ、あのやっぱり、夢子さん、で」

私たちはちゃんと話すのが初めてなくらいのただの知り合いだった。知り合いと心を許した相手との壁が碇くんの中では越えられない壁らしい。つまり、この碇くんの処女っぽい雰囲気を味わえるのは今だけ!である。

「そうですか…大変でしたね。僕でよかったら、あの、力になります」

碇くんはちょっとぎこちなくはにかんだ。目も合わせられなくて伏し目がちなんですよ。ハ〜??可愛いすぎか…!私は興奮した。(抱き締めたい…渚くんになって!)そしてちょっぴり、嘘吐いちゃってごめんねって気持ちになった。


「アスカのほうは?」
「私がヘマすると思う?」

思いません。アスカは渚くんにこう伝えた。『シンジが男のセンパイに呼び出されたらしいわよ』もちろんそやつを呼び出したのはこの私である。碇くんに交際をお断りしてもらっちゃうのだ。でもこの可愛い受けちゃんはきっと恥じらいながら申し訳なさそうにその大役を務めてくれるであろう。まるで自分が告白されて必死でお断りするように。

―渚くんはどんな反応見せるかな?ククク…

「でもアイツがそんなことちゃんとできるのかしら」

確かに。相手は年上の知らない先輩。顔見知りの私でさえあんな調子なのに、大丈夫かな。私は胸がチクッと痛む。そしてこのツンデレこじらせちゃってる姫、アスカのおっぱいを無性に揉みたくなった。


決行の放課後を前にして、最後の授業の前の休み時間、私は渚くんに声をかけられた。

「夢子さん、ちょっといいかい?」
「ウホッ」

やだ変な声出た///渚くんに名前を呼ばれるのは初めてだったし。直視できないほどの美少年に私は目が泳いだ。

「い、いいですけど…どうしたの?」

敬語混じりのキョドり具合。このタイミング。私は何かバレたんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていた。

「まだ夢子さんとはちゃんと話したことがなかったからね」

けど違った。渚くんはもしかしたら碇くんと接触していた私をマークしただけなのかもしれない。そのやさしそうな笑顔や美声は腐っている私ですら勘違いしてトゥンクしてしまいそうになる破壊力。(夢子っていい名前だね、なんて言われて一瞬口説かれたかと思ったしww)寸でのところでご馳走さまですと心の中で手を合わす。これで四つん這いの私が色々捗ります。

「夢子さん、漫画が描けるんだろう?」
「ん?」
「どんなものを描いているんだい?」
「あ゛!?」

何故知っている…!

「…強いていえば恋愛モノ、かな?」
「へえ、素敵だね。夢子さん、今度僕にも見せてよ」

本人に見せられるわけがなかろう…!

「…どうかしたかな?」
「いやェ…………………今日も地球の空気おいしいなって」

私のビミョーなジョークにも渚くんはにっこり笑ってくれた。イケメン!そして教室の対角線の先、私たちが話しているのを碇くんがチラチラと気にしていた。


放課後、校舎裏に向かう途中だった。もうすぐ碇くんとナントカ先輩の待ち合わせの時間。私はアスカと一緒に事の行く末を見守る約束をしている(ヒカリは鈴原くんとちゃっかり帰りやがった)。なのに私としたことが、何故かスマホを音楽室に忘れてきてしまったらしい。渚くんとしゃべっている時は持っていたからたぶん楽器を片している最中に落としたんだ。

―ありゃ?

私は音楽室のドアに手を伸ばして立ち止まった。

「もう誰も邪魔者はいないね」

私はとっさに身を隠した。ホモセンサーが私にwktk訴える。どこか中を覗ける隙間はないか探しまくった。もうひとつのドアがまるで私のためじゃないかってくらいにちょうどいい感じで開いていた。

「僕はもう我慢できないよ」
「どうしたのいきなり、」
「つれないね…シンジ君」

ヒアアアアなんてこったあああ;;;;;渚くんと碇くんがピアノの下でなんかしてる〜!!

「だってそうだろう?僕がいるのに」
「ちょっと、カヲル君、」
「夢子さんだけじゃなく知らない男までたぶらかして」
「そ、そんなんじゃないよ」

尊い…尊…ん?待てよ、

「なら僕だけが好きって証明してよ」
「え?」

どっかで聞いたような…

「ここで僕とひとつになろう?」
「ッ!」

この展開…

「待って、やだ、」
「もう待たない」
「あッ!」
「君は僕だけのものだ…」

_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> 私の描いた漫画と同じやないか〜い! <
 ̄Y^Y^Y^Y^YY^Y^Y^Y^YY^Y^Y^Y^YY^Y ̄

「誰にも渡さないよ…」
「あ、あ、」

_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> 渚くんもう読んでるんやないか〜い! <
 ̄Y^Y^Y^Y^YY^Y^Y^Y^YY^Y^Y^Y^YY^Y ̄

「君を僕色にしてあげる…」

何故渚くんがそれを読んでしまったのかはわからない。でも何より、

「あ、ダメ!そこ…!」

この感じ、ただものじゃないよね…

「ア、ア、アッーー!」

ふたりもう、いたしているんじゃないかな…

その時私はひらめいた。アスカの話していた例の木曜日。アレってほんとに食中毒だったのかな。おなかが痛いって他にもあるよね。中だry(規制されました)嫉妬深い渚くんが牽制のためにわざとアスカにそう言ったんじゃ…ってことはコレも牽制?まさかね?HAHAHA…

『やッ…!もっとグリグリしてぇ…!』

その時だった。いきなりBLドラマCD(濡れ場)が流れてきた。なんなの?なんで大音量なの?えちょっと待ってやだコレ私のスマホからじゃん?数学の時間に聞いてたアレをああしてああしたアレじゃん?え、待って、どこ、ほんと…!

麗しき男性声優たちが近場でものっそい勢いで喘いでおる。スマホは何故か音楽室の横の掃除用具入れに奉納されておられた(音響効果すごいね)。震える指で消音にして誰かに聞かれたかと見渡すと、廊下の向こうから担任教師が颯爽とこっちに向かってやってきた。腋汗滝の如くかいてたらそのまま私の方にやってきて、

「夢子さんのノートは早めに返しときますね〜」

古文のノートが返ってきた。と思ったら古文のノートじゃねえええ!!!自作ホモ漫画ノートじゃねえかあああ!!!カヲシンのセッッッに花マルつけて「よくできました」じゃねえええ!!!!!

「夢子〜!」

私がご乱心しているとアスカが駆け足でやってきた。ヤバイ時間遅れたかと思ったら、

「ちょっとどうなってるの?」

と逆に聞いてきた。私が聞きたい。何故ホモが…あッそうだ隣の音楽室でふたりは今頃ドピュッじゃない?!私は捨て身でホモを守った。

「聞いてよ〜古文のノートと間違えてホモノート提出しちゃったマン〜」

と言い終えたところで曲がり角から例の先輩が白い歯を見せて笑っていた。

「夢子さんってホモが好きなの?」

眩しい笑顔で「夢子さんって腐女子さん?」なんて聞いてきやがる。

そう。私はいつの間にかリア充にドナドナされてしまったのだ。先輩は帰りのHR前に交際OKサインを何者かから受信したらしい。私のスマホも何者かからの♥おめでとうメール♥を受信していた。

今でも思う。アレは全部、渚くんの仕組んだこと。私は彼に断罪されたのだ。

「すごいよ夢子さん」

でも私はホモ断食なんてしていない。

「実は俺も腐男子なんだッ!」

類はホモを呼ぶらしい。私は彼氏を相方にして今でもBLを描いている。カヲシン自家発電だって欠かさない。

「ね?両立できるって言ったでしょ?」
「まあね」
「腐神に感謝!」

そしてヒカリは最近私以上にホモ沼にはまって、

「最近バカシンジ、つれないのよね、」

アスカは相変わらずだった。私は胸がチクッと痛む。だからこのツンデレこじらせちゃってる姫、アスカのおっぱいを無性に揉みたくなったので、揉んだのだった。

「夢子の変態…!」

遠くでは渚くんと碇くんがおホモ畑で遊んでいた。


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