渚とシンジのモテ対決がはじまったのは高2に進級してからだった。
モテ対決って何やねんとお思いの方が多いかと思いますがとりあえず読んでみてください。



最高のライバル



高1の頃からその兆候はあったのだ。

「碇くん碇くんねえねえ碇くん」
「……何ですか」

教室の真ん中で。何度目かにしてやっと無愛想な応答をする。なのに女子はキャ〜〜なんて騒ぎ立ててシンジを囲んだのだった。

「ねえうちらにも笑ってよ〜〜」
「はい?」
「笑った顔超かわいいじゃん」
「スマイル〜〜」
「嫌ですよ」
「なんで!」
「理由もないのに笑えない」

女子たちは目配せして意味深にニタリと笑った。

「え〜〜じゃあさっき渚くんに笑ったのはちゃんと理由があったんだ〜〜」

笑ったか?とシンジがキョトンとしていると、窓際の席でずっとこっちを見ていた渚がニコリと笑った。

「僕の噂でもしてんの?」

一見紳士的な笑顔。中学の頃はそれだけで女子たちは真っ赤になって発情した。
けれどここは高校だ。

「ほら、軽そう」
「イケメンだって自分のこと熟知してるよね」
「自意識過剰〜〜でも」
「「「碇くんは硬派」」」

まるで練習でもしてきたかのようなハモリに思わずシンジはむせてしまった。

「照れちゃってる」
「かわいい〜〜」

そして上から目線の女子たちはシンジの肩をチョンと突ついて颯爽と廊下へと消えてしまった。

なんだ?今の……

彼女らは隣のクラスの中の上の賑やかなグループ。その中のひとりが先日、貧血で倒れた時にたまたま横を歩いていたシンジに助けられたのだった(いきなりこっちに倒れてきたから脊髄反射みたいなもんだ)。機転を利かせて先生を呼び保健室までおぶっていったシンジは彼女から見たら王子様イケメンだった。あの人誰?あー隣のクラスだよ、碇くんって言うんだ〜〜、と見事彼女たちに発掘されたシンジはじわじわと有名になっていった。たまたま貧血女子はクラスの人気者でもあった。

「碇くんって渚くんと仲が良いんだよ」
「だからじゃん?発見が遅れたの」
「私は前から目ェつけてたもん」
「言えよ」
「言ったら抜け駆けできないじゃん」
「それな」
「それなじゃねえ」

そしていつしか矛先は……

「でもさ〜〜渚くんってなんかえげつないオーラ持ってるよね」
「そうそう、碇くん被害者」
「ブリーチかけすぎ」
「地毛やで」
「嘘だ〜〜モテたいだけ」
「ヤリチンのくせに」

「ねえ、なんで僕ヤリチンにされてんの?」

嫌でも端っこの溜まり場から聞こえてくるガールズトークに渚が顔をしかめる。シンジの机までやってきて渚がイスを後ろ向きで抱きしめて座った。

「僕が加害者みたいだしさ」
「ただの冗談だろ」
「いやいや見てよ」

シンジが振り返ると女子たちはシンジに向かって笑いかけた。渚へは何故か虫ケラを見るような目でクスクスと笑うのだ。

「ひどくない?」
「まあ自業自得かな」

中学の頃は見た目が良い渚が圧倒的にモテた。羨望の眼差しで渚は女子たちに崇められた。尊すぎて告白できない女子、仲良くなりたくて虎視眈々と狙いを定める女子、そして初恋を渚に捧げて勇気を出し告白してフラれた女子。嘲笑われた女子。無視された女子。病んだ女子。そう、渚は彼女たちにつらく当たったのだ。興味がないことを隠すこともなく、失恋の痛みへの配慮もなく、渚は無邪気に彼女たちと目が合っただけでサヨナラした。そんなグッバイガールズはこの第壱高にもたくさんスライディング入学している。
渚はもはや彼女たちの敵だった。変な噂が伝言ゲームで尾を引いて、中学の頃よりもちょこっと人気が落ちたのだ。

「ちょこっと?だいぶ落ちた気がするけど」

学校を我が物顔で歩けていたのに。現在、虫ケラ以下。なんとも過酷で悲惨な事態だ。
一方、シンジは中学の頃より背は伸び、根暗さはやわらぎ、地味さは硬派に変わり、引き締まった表情にかっこいい要素もプラスされた。かわいい雰囲気はそのままで綺麗さが増した感じ。何よりも男女共に認める性格の良さがポイントだ。男のやさしさはどんな女子だって大好物。それに高校生になったら非現実的な理想よりも手の届きそうな相手が魅力的。シンジは絶好の標的だった。ダーリンをハンティングしたい女子たちには。

「それで僕の票を全部かっさらっていったわけ」
「なんの票だよ」
「総選挙とかやってるんだよ、あのイジワル女子たちは」
「えっ1位は?」
「食いついたね」

まんまとハメてやったみたいな顔されてシンジは無表情になった。

「ま、どうでもいいよ」
「僕はよくない」
「は?」
「君にモテで負けたら僕に何が残るわけ?」
「自分で言うなよな」

ちょっと来て、と渚に連行されてシンジは教室を出た。休み時間の廊下はガヤガヤ思い思いに騒いでいる。少林寺拳法を披露するバカ男子とかおっぱいを揉み合う女子とか。いきなり壁ドンする渚とか。

「知ってる?コレ」
「?????????」

片手で壁を押しやって、逃げられないよう両腕でシンジを挟んで、顔を近づける。キスを寸止めされてギュッと目を瞑るシンジ。一気に注目の的。黄色い絶叫が響き渡った。

渚は耳許で囁く。

「びーえる。女子は男同士が仲良くしてるのが好きなんだよ」
「はい??」
「つまり、モテる」

驚きすぎると正常な反応を忘れてしまう。やめろよ!と突き放すのを忘れてシンジはぼんやり渚を見つめた。意味わからない落書きをどうにか解読するみたいに。

そうやって渚は無事に1位を死守したわけだがシンジが僅差に迫ってきていた。あぶないあぶないと胸を撫で下ろすのはまだ早い。なんと女子たちは総選挙を学期ごとのイベントにしてしまった。継続的な努力が必要なのだ。

渚は思う。モテたい。何故か?
モテることがシンジとの関係性で優位に立てる最重要事項だと彼は思っていた。
どうしてそれが大事なのかはまだわかっていなかった。



「そんなくだらないことで四六時中一緒にいるわけ?」
「一緒のほうが華があるじゃん。ほら」

ガラス越しの羨望の眼差しへとウィンクする渚。うぶな下級生たちは真っ赤になって逃げ出した。

「最近は僕たちが右か左かで戦争になってるらしいよ」
「なにそれ」
「攻めとか受け」
「どういうこと?」
「だから僕が君にちんぽを入れるか君が僕にちんぽを入れるか」
「どうしてそうなるわけ!?!?!?」

高2にもなって情けない……頭を悩ませシンジは机に突っ伏した。

「顔赤いよ」
「うっさい!!!」

居心地が悪くて立ち上がる。

「どこ行くの?」
「トイレ」
「あ、僕も」
「僕はひとりで行く!!!!!」

クラスメイト♀が喧嘩ップル〜〜♥と萌えている。仕方なしに視線だけで見送る渚。廊下では前からシンジにちょっかいを出し続けている貧血女子がシンジに話しかけていた。ここからだと窓から見切れてしまう。どんな表情か見たいけど、見たら負けな気がして渚はプイッと反対側へと向き直る。青空だ。ガラスに反射したイケメン顔が雲のあいまに浮かんでいる。

前髪はこうした方がモテる?

いじってみると前よりいい感じがした。うなずく。我ながらそんじょそこらの女子よりも顔がキレイだなと思う。
でも、と渚はまたうなずく。

ちんぽは僕が入れる方だよね。シンジ君は何でも受け身だし。

つい汗だくで自分を受け入れるシンジを想像した。顔が真っ赤、裸のシンジは最初は恥ずかしくて嫌がっているフリをしていたのに。今はもう自分に突かれる度に嬉しそうに身をよじるのだ。あ、かわいい。乳首が勃っている。そして――

『なぎさぁ、アッ……』

耳許で聞こえた気がした。生々しくて全身の毛穴がゾワゾワ立ち上がった。一瞬で血液が沸騰。汗が噴き出す。ドクンドクンと真ん中が脈打ってどんどん大きくなっていく。まずい。

僕はどうしてモテたい?
どうしてシンジ君の優位に立ちたい?

(シンジ君に認められたい。好きだって)

違う。

渚は気づいてはいけないものに気づきかけている自分に気づいた(ややこしいが)。


それから連日、渚は無駄な抵抗を続けた。

「シンジ君ってアレみたいだよね。アレアレ」

わざわざ声をかけておいて

「何?」
「……なんだっけ」
「は?????」

頭が真っ白になって言葉が出てこない。

「シンジ君、もやし取って」
「今なんて言った???」
「……プリント取って」

言い間違いもご愛嬌。

「あの子とうまくいってるの?」
「あの子?」
「ほら僕をヤリチンとか言ってた貧血の子」
「ああ……普通」
「協力してあげてもいいけど」
「遠慮する」

心とは裏腹のことを言ってしまう。
自分でも醜態だなと思うくらいにはわけのわからない言動になっていた。余裕綽々だった中学時代の自分はどこへやら。カムバック!!渚カヲル!!なのに笑えるくらい自分ではどうしようもできない。
シンジとのBLを想像して勃起した日から渚の中はぐちゃぐちゃで、

「なんで?あの子ブスだけど人気あるじゃん?」
「そういうこと言うなよ」

何もかも歯車がギクシャクして、

「僕はそういうこと言うやつは嫌いだ」

妙にシンジから取り残された気になって、

「あっそ!!!僕もシンジ君が嫌いだけど!!!」

枕を濡らしてひとり泣いていた。

「シンジ君は……僕のことなんか……うう、」

男の謎の生理というヤツかもしれない。

シンジは渚の情緒不安定な様子を見て「そんなにモテたいんだ……渚って」とちょっと引いていた。
でも、

「渚は渚らしくしてれば十分なのにね」

それ以上になんだか渚を応援したい気持ちになったのだ。


ある晴れた日。貧血女子が体育祭で使う装飾品を運んでいた。

「ねえ」
「あ、碇くん!」
「それ手伝うよ」
「いいの?……ありがとう」

もうこの頃には貧血女子もシンジの前では緊張してしおらしくなっていた。ダンボールを抱えるシンジのうっすらと浮き上がる筋肉に目が釘付けになってしまう。

「碇くんって意外とたくましいよね」
「意外なんだ?」

モチモチの白肌、横顔の睫毛の長さ。女の子みたいとも思ってしまう。

「えっだってかわいい系でしょ……私はイケメンと思うけど!」

かわいい系が引っかかる。でもかわいくない系よりマシか。

「一応褒めてくれてるんだよね?ありがとう」
「ちゃんと褒めてるよ!渚くんとは全然違う」
「どうして渚が出てくるの?」
「だって渚くんに……嫌われてる気がする」
「何かあったの?」
「この前通りすがりに舌打ちされた」
「ああ……あはは。君がひどいこと言ったから根に持ってるんだよ」
「器小さ」
「でも渚はいいヤツだよ」

シンジの瞳にはいろんな渚が映っていた。

「僕がクラスに馴染めないでひとりで本を読んでたら声をかけてくれたんだ」

あの日の渚、その日の渚。

「帰りに肉まんを半分くれたこともあるよ。ちょっと前に僕が金欠でお腹すいてるって言ってたの覚えてたんだ」

いつかの渚。

「ああ見えて実はすごくやさしくてさ」
「さすがにそれは」

どの日の渚?

「それに――」
「へえ。ふたりとも仲良しじゃん」

階段の途中、見上げると渚が立っていた。

「付き合ってるの?」
「そういちいち彼女につっかかるなよな」
「僕はシンジ君につっかかってるんだけど」

一歩一歩もったいぶって降りてくるその顔は、こわかった。

「シンジ君って昔っから趣味悪いよね」

冷たくて、心が無くなってしまったみたいで、

「綾波って子も相当ヤバかったし」

何故かすごく悲しそう。

「惣流ってメンヘラとも」
「もうその辺にしとけよ」

寂しくて、でも泣くこともできない子どもを眺めている気がして、

「最近どうかしてるよ」

慰めたいけれど、

「さ、行こう」

今はこうすることしかできない。
シンジは渚の横をスルーして貧血女子と一緒に階段をのぼった。せっかく立ててやったのに自分からぶち壊すなんてさ。呆れて腹立たしくもなる。

目も合わせないシンジに渚は抗えない激しい感情に襲われた。無視しないで。そう泣き叫びたい衝動だ。全身を切り刻むような心地だった。
だから。

「あ、」

それは一瞬のことで、まるでうまく練られたコントだった。
舞台装置のスイッチは渚。横を通過するシンジの持つ箱の端からちょろっと縄が出ていた。考えるよりも先に(ほんの出来心で)渚はそれを引っ張った。ダンボールにはくす玉が入っていた。くす玉は貧血女子の足元へと落下していく。拾おうとして踵を踏み外す女子。傾いた体をシンジがまた精髄反射で助けたつもりが足がもつれて彼女の身代わりとなる、つもりが、その背中を支えようと身を乗り出した渚と一緒に階段をころころ転がって、下敷きになった渚とシンジが折り重なって派手に着地。ふたりの頭上で気を利かせたくす玉が割れて『おめでとう』と祝福して、貧血女子が「マジ?」と思ったところで、コントは終わった。



「身から出た錆だね」
「君のために犠牲になったのにさ」

渚は左腕を骨折。次の日にはギプスに三角巾で登校してきた。

「君が無傷なのは誰のおかげ?」
「ハイハイ」
「利き手使えないなんて地獄だよね。あーん」
「……あーん」

昼休みの屋上にて。シンジは渚に唐揚げを食べさせている。

「この前まで菓子パンだったろ。なんで急に弁当なんだよ」
「栄養つけなきゃ治んないでしょ。あーん」
「……あーん。あーめんどくさいな」

と言いつつ手取り足取り介抱するシンジ。はたから見るとノリノリで嬉しそうに見えるけれど。荷物は持ってあげる。ノートはとってあげる。体操服は着替えさせてあげる。トイレは……さすがにひとりで行かせたが、洗面所では蛇口まで捻ってあげてる。そんなシンジは気を抜くと水を得た魚顔になるから頑張って真顔になってますという感じ。一部の女子は「碇くんは介護士の才能があってすごい」と感想をつぶやいた。

「のど乾いた」
「ハイハイ」

渚も魚に水を注ぐように調子に乗って赤ちゃんがえり。

「ちょっとこぼれちゃった」
「気をつけろよな」

むしろ片手が不自由を口実に思いきり波乗りを謳歌している。口をティッシュで拭ってくれるシンジを間近で見つめる。甘えるのがこんなに快感だとは知らなかった。

「起こして〜」
「甘えんぼすぎる」

置いていこうと歩き出しても一瞬でUターン。それがわかっていて渚はずっと手を伸ばして待っていた。シンジは伸ばされた手を引っ張りあげる。向き合う渚とシンジ。安心二重マル。

「危ないからゆっくり降りろよ」

一段も距離がないように並ぶ。警戒が緩んでいると思う。狭い非常階段ではたまに体がぶつかっている。さっきは繋がった手をしばらく握っていたのに振り払いもしなかった。怒る直前ギリギリで手放すのはなかなかスリリングだった。

どこまでがいいんだろう、と思った。

気になってしかたないことがある。さっきからすごく違和感で歩きづらい。2階校舎入口の踊り場で立ち止まる渚。渚はつかめない顔をしてシンジを見た。手すりに寄りかかってもじもじしている。食べカスでも残っているのか口までもごもご動かしている。

「何?」

もうすぐチャイムが鳴るのに。それまでにシンジは渚に手を洗わせたい。

「……しゃがんで」
「しゃがんだけど?」

だからさっさと済ませたかった。
なのに。

「……ちんぽじ」
「は?」
「チンポジなおして」
「やだよ!!!!!!!」

さっさと済ませられない難題だった。

「いつも右なのに左向いてる」
「知らないよ!!」
「チンポジの切実さ君にもわかるだろ」
「片手があるだろ!!」

ここまでキツく否定されるとママにおっぱいもらえない赤ちゃんの気分だ。だから渚は切ない顔して実演してみせた。股間をぐりぐりして溜め息。

「ギプス邪魔でうまくキマらないんだもん」
「トイレ行けてるだろ!!」
「出すのとちゃんとするのは違うでしょ」
「お願いだから自分でどうにかしーー」
「「「キャ〜〜!!!」」」

下の階から現れた女子の集団が顔を覆ってドアから校舎の中へと逃げていく。指の間からふたりをガン見している子と目が合った。その子の視界ではちょうど渚がシンジへ腰を突き出していて、シンジの顔が三角巾に隠れていた。

「フェラしてるって間違われたんじゃない?」
「笑えない」

明日から硬派が一転「碇くんって淫乱」なんて蔑まれるのだろうか。
ま、どうでもいいが。

「はあ……ほら早く」
「ん?」
「なおしてほしいんだろ?どうすればいいのさ」

シンジには渚のほうが大事だった。それについてシンジは深く考えたことがないが。

従順そうに見上げるシンジ。こんなに上目遣いで見つめられたのははじめてだった(シンジにはそんなことしてる自覚はない)。まるで……フ……フェ……渚は自分で言っといて妄想が止められない。

触ってほしい。慰めてほしい。やさしくして。服従して。
シンジ君。
君の心も体もぜんぶちょうだい。

「!?」

シンジの目前で渚の股間がパツンとテントを張ってしまう。渚は恥ずかしさのあまり前屈み。でもいくら小さい分身に言い聞かせても聞かないのだ。ドクンドクン身勝手な期待が膨らんで硬くなっていく。

「……」

呆れ顔のシンジ。汗がジワリ、真っ赤な渚につられてこっちまで顔が火照る。

そこで男同士の気遣いで「食後で眠いんじゃない?眠いと勃つだろ?」なんて流せば超やさしかったのかもしれない。でも先にチンポジなんて言い出したのは渚だ。やられっぱなしじゃつまらない。
シンジの中でいじめたい欲が勝った。

「へえ。何考えてんだか」
「……」

この状況を愉しもう。

「僕のこと好きなの?」
「好きだよ!!!」

が。思わぬ即答が前のめりストレートで返ってきた。

「好きだから勃起してんじゃん!!!」
「な、なんでキレるのさ」
「超かっこ悪いから!!僕が!!」

泣きそうなのに強がっている表情。そんな渚に間抜けなタイミングでチャイムが降り注ぐ。「アホ〜」とツッコまれているみたいで泣けてきた。うるうる。なんなのこの非常事態。自分でも未消化なこと叫んじゃってるし。消えたい。
渚は尋常じゃなくパニクっていた。

追い打ちをかけるように聞こえるクスクス笑い声。

「君って本当に面白い」

なのにその声の主は天使みたいに笑っているのだ。みんなが見たがってる本当の笑顔で。

「なんでそんな顔してるの?ヤリチンなんだろ?」

自分にだけ無邪気に笑ってみせるのだ。

「ヤリチンじゃないって」

体の力が抜けていく。

「今全然説得力ない」
「あはは」

いつからだろう。こんな風に笑い合えるようになったのは。
ふたりの距離がこんなに近くになったのは。



「集計でた〜〜」

隣のクラスの女子たちが輪になって顔を寄せ合っている。

「まさかの」
「同着」「1位」
「マジ?」

学期末、一時休戦の平和を味わっていたのに。

「碇くん碇くん」
「何?」
「渚くんと同着だよ」
「……へえ」
「次は大差で1位になれるよ」

貧血女子たちご一行はシンジに対していろいろとオープンに報告するのだ。

「いいよ別に」
「よくない!渚くんに負けないで!」
「そんなことで勝っても」
「ほら見て。計算したよ〜〜!だから大丈夫」
「負けんな」
「私たち応援してるから!楽しみだね!高3!」

たまに彼女が自分に気があるのかファン心理なのかわからない。

「やっとあの淫乱男を引きずり下ろせるわ」
「ね〜〜長かった〜〜」
「淫乱?」

「終了〜!強制終了〜!」

いきなり間に割って入る渚。シンジの裾を引っ張って並んで歩かせた。

「ギプス取れたからって油断しないでよ」
「もうひとりでできるだろ」
「ひとりでできないもん」

軽く体当たりして自己主張してみるとグッと腕で制止された。

「君、淫乱男にされてたよ」
「はあ??なんで?」
「さあ」

振り返って女子たちを睨みつけると親指が180°下向きに回転。

「頭おかしくない?おかしいよね?」
「ヤリチンも淫乱もそんな変わらないけどね」
「ま、シンジ君が知ってればいいや」

首を傾げて伏し目がちに耳許へと囁く。

「僕が君に一途だって」

すれ違った女子にズキュンと命中する。

「やった!1票!」

からかわれた?渚のしたり顔にメラメラと闘志が燃える。

「僕にかもよ」

シンジが渚の首に手を回す。少し背伸びをして頬にふわりとキスをした。女子は気絶した。

「ほらね」

思わず前屈みになってしまう、最高のライバルに。

「降参する?」

次のモテ対決、渚は投票権があるならシンジに入れてしまうかもしれない。


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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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