弁当を食べ終わったとたんに渚が賢くなった。


1111


「三本の矢って知ってる?一本だとすぐ折れちゃうけど三本だとなかなか折れないって昔のエライ人の名言」
知ってたけど興味ない風に装ってみた。
「へー」
初耳だった。
「だからポッキーは何本だと折れないかシンジ君と確かめようと思ってさ」
そして渚はお菓子を取り出した。ジャジャーンと。
「急に頭いいこと言い出すと思ったらこれだよ」
「今日はポッキーのお祭りでしょ」
「お祭りじゃないし君が持ってるのはじゃがりこ」
「だってポッキーもプリッツも売り切れてたんだもん」
そこはせめてフランとかにしないと意味ない、と言おうとした。

「おーい渚」
そこで現れたクラスメイトの男子の声。渚は振り向かずに
「ん」
とだけ答えた。
「俺たちポッキーゲーム10人抜きの動画撮るんだけどお前も参加しろよ」
「なにそれ」
「投稿用。お前カメラ映りいーじゃん、やれよ」
「やんない」
「やれって」
「やんない」
「じゃ碇がや」「やっぱやる」
渚はため息ひとつ、クラスメイトと教室の後ろへ去った。

11月11日。毎年この日になると男子中高生はノリでポッキー食べながらキスをする。ポッキーなくてもキスするし、とにかくキスする。女子にもウケるしドキドキするし盛り上がる。SNSでつかの間の人気者になれる。

シンジは女子にもウケたくないしそんなので人気者にもなりたくないから教室から抜け出した。昼休みの非常階段。トッポの袋が捨てられ踏みつけられていた。

「みんなバカみたいだ」
僕だけは違うと独り言で弁明。今頃渚はそのバカのひとりになって別に仲良くもない男子とキスしたりしているんだ。それからまたキスしたり、キスしたり。10人抜きって10回くらい?

無邪気で楽しそうなその顔を思うとシンジは嫌な気分になった。階段を上履きでコツンと蹴ってみる。この全然うらやましくないのにうらやましくて、迷子の途方もなさを足したような気持ちはどこから来るんだろう。手すりのない壁に寄りかかって空を見上げた。

青空。遠く群れの喧騒。そして駆けてくる足音。

「ポッキー強奪成功〜!」
真横のドアから渚が勢いよく飛び出してきたからシンジは驚いて声も出ない。
「あは、やっぱここだね」
「…ゲームは?」
「やるわけないじゃん。コレもらうためだよ」
振るとサクサクッと鳴る四角い箱。
「もらうんじゃなくてどーせどさくさで盗んだんだろ」
「違うよ物々交換」
「まさかじゃがりこと?」
「そ。そっちのほうがウケるって言ったらイッパツ」
「あはは、なにそれ」

笑ってしまう。安心したような気の抜けた声になっててシンジはドキッと驚いた。
でも更に驚いたのは、

「これめっちゃ硬いんだけど!」
渚が普通にポッキーを束ねて手で折っていること。
「なんの実験だよ」
「うっ…くそっなんで…」
「楽しい?」
「これ全然折れないんだけど!」
強っ!と叫びながら50本折りに挑戦中の渚を冷ややかに見つめるシンジ。
「シンジ君やってみなよ」
「折ってどうするのさ」
渚が片眉を上げた。
「知りたい?」
すると小指くらい短くなったポッキーをシンジの口に挿して――チュッ――そのまま唇まで一緒に食む。ポリポリ。短いポッキーぜんぶ食べる。

「超高速ポッキーゲーム」
「…へえ」
「短くした方が折れないでしょ」
「ふーん」
「しかも折ったら2倍に増える!」
「あっそ」
「僕たちこれで何回このゲームできるかわかる?」
「知らないよ!」
チラッと渚の手の中を確認した。あと何回キスするんだ?
キスするんだってなに。

「気にしてないフリしてめちゃくちゃ気にしてるシンジ君って可愛い」
顔が熱くならないように空を見る。なんで僕はこんなにカジュアルに渚とこんなことしてるんだ?シンジは思った。思ったけど、全然嫌じゃない。だってシンジは日本の普通の男子中高生。今日はポッキーの日。
「…つまり三本の矢って折って増やすってことなの?」
「ううん、協力しようって教訓」
「へー」
今日の渚はなんだか賢いのだった。
「じゃ、次はシンジ君の番ね」
だからなんだか悔しいから、
「ん」
シンジは短くくわえた渚のポッキーをひょいっとつまんで唇にキスしてポッキーをそのまま食べた。予想外のことに思わず渚が両手で顔を覆ってしまう。
「僕の方が賢い♪」
してやったとおちゃらけながらも耳まで真っ赤なシンジだった。


top



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -