キャパシティオーバー・ラブ!


「ねえ、そろそろしよ」
「なにを」
「セックス」

シンジが固まる。エクソシストにお祓いされたかわいい悪魔みたいに逃げ腰でベッドの隅へ。

「なんで逃げるのさ」
「ななな渚が変なこと言うからだろ!」
「あは!照れてるんだ」
「照れてない!」
「シンジ君かわいい」
「かわいいとか言うな!」
「?」

かわいいなんて不吉な。シンジは真っ赤になって思う。その手には乗らないぞ。

「もう僕たち3ヶ月だよ?僕待ったほうじゃない?」
「ほらそうやって!」
「?」
「渚のくせに!」
「なんの話?」

毎日放課後に互いの部屋に立ち寄ってキスばかり。健全にオトナの毛がちょこっと生えたような交際もそろそろ終わりにしたい。

「なんで黙ってるのさ。嫌なの?」
「……」
「寸止めってキツくない?」
「……」
「もしかしてコンプレックスがあるとか?僕はどんな体でもシンジ君のなら好きだよ」
「……」
「ねえ、僕もうオナニーだけじゃムリなんだけど。シンジ君見る度に教室でも勃起しちゃう」

もっこりしている渚の制服のズボン。シンジはちらっとそれを確認し、驚いて二度見してからフンッと鼻を鳴らした。明らかに仏頂面。

「だからさっきからナニ怒ってるの」
「男らしさをアピールしてさッ」
「アピールじゃなくて勝手に勃つんだよ」
「ハイハイ。君のほうが大きいですね」
「どうして敬語なのさ」

また黙るシンジ。ちょっと得意げに「比べてみる?」とズボンを脱ごうとした渚に高速で枕を投げる。右ストレートっぽく。

「油断も隙もないな!」
「そんなに怒るかなぁ。僕のこと好きなんでしょ?」
「あ〜〜も〜〜!!」

まるで駄々っ子のようにベッドの上でふて寝するシンジ。意味不明だけどすごくかわいい。もしかして誘ってる?そういう気がしてそろそろと近づいたら呪いをかけられそうなくらい睨まれた。

「僕が上だからな!」
「へ?」
「僕が上で君が下」
「ちょっと本気?さっきまで僕に舌を挿れられてあんあん言ってたのにさ」
「あんあんなんて言ってない!」
「あぁん…なぎさぁ…だめぇ…」
「真似するな!」

真似ってわかってるんだから言ってたんじゃん、渚が非難の目を向ける。ますます真っ赤になるシンジ。

「どうして急にそんなこと言うのさ。確かに君は普段はツンツンしてるけどエッチなことする時はいつも受け側じゃん」
「たまたまだよ!」
「たまたまってなに」
「じゃ、ジャンケンで勝ったほう!」

シンジがいきなりジャンケンをはじめて反射的に受けて立ったら渚が勝つ。なかったことになる。

「そろそろ交代したい」
「上下を?」
「うん」
「なんで?」

渚の鋭い視線に耐えられずシンジが目を逸らす。ちょっと瞳がうるってなる。

「僕だってできる」
「……」
「男だし…」
「……」
「……」
「ハァ、わかったよ。いいよ」
「ほんと?」
「君とセックスできるならなんだっていいや」

渚がベッドに寝そべった。シンジの横でまるで棺桶に入るように横になる。そして、

「来なよ」

穏やかに笑ってシンジを誘った。シンジはおずおずと渚に馬乗りになる。渚を見下ろす。

そして、

固まる。

もうすぐカップラーメンが出来上がる時間。

見つめ合う。

世界五分前仮説でいうところの、世界がはじまったかもしれない時間が来る。

完全なる静寂。

「ちょっとどういうこと?」

さすがに渚が問いかけた。イラッと不貞腐れた顔。すると、

「……うう、」

シンジが泣き始めた。両腕で顔を覆ってへたり込む。

渚は真っ白な顔から血の気が引いて青くなる。え、ど、どうしたの、アレ?って慌ててシンジを抱き締めた。

「ごめん。そんな嫌だった?なら待つから、大丈夫だから」

よしよしするがシンジは泣き止まない。渚はもうひとつの可能性を考えて、悲しくなる。

「…僕とはそういうことしたくない、とか?」

まるで死刑台での最後みたいな声。シンジは首をフリフリする。

「僕だってしたい」

渚がほっとして天井を仰ぐ。もし違う答えだったらそのまま死んでしまっていたかもしれない。

「話してよ。僕、受け止めるから」

そこでシンジは渚の肩で涙と鼻水を拭ってからとぼとぼと話し始めた。

「僕、入らない」
「入らない?」
「渚の。大きいから」
「まだ僕の見てないじゃん」
「体育の着替えでパンツ見た」
「シンジ君のエッチ」
「渚だっていつも見てる」
「バレてたんだ」
「…指入れてみたんだ」
「え、お、お尻に?」
「うん、ちゃんと入るかなって思って。でも…」

シンジは涙に震えてしゃくりあげた。

「指もちゃんと入らなかった。痛くって」

渚は自分を想いながらお尻に指を突っ込むシンジを妄想して思考回路がショートする。

「だから僕にはできないよ。ごめんね」

こんなかわいいごめんね聞いたことがない。渚の全身から湯気が出る。

「僕のほうが小さいから渚になら入るかもと思ったけど、なんかちょっと難しくって」

シンジは渚をぎゅっと抱き締めた。

「男同士でお尻使わないセックスってあるかな?」

渚、ついに爆発。我慢できない。ほとばしる熱いパトスでシンジを押し倒し、呪文のように、大丈夫、僕がちゃんとしてあげるから、力抜いてて、とその発達途上の柔らかい体をペロペロ食べる。シンジのお尻がプルプルのとろけるプリンになるくらいしっかりと馴らしてあげる。そして、ほら、こうすればちゃんと入るでしょ?と教えてあげた。

「ほんとだ。ちゃんと入った…!」

小学生が理科の実験で成功したみたいに喜ぶシンジ。渚はそんなシンジに、どうしてそんなにかわいいの!と気絶しそう。やさしく愛したい気持ちと夢中で突きたい気持ちでもうキャパシティオーバー。

「僕おかしくなりそう」


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