君の髪をいじるのは


「何それ」
「あ〜コレ?」

シンジが渚の頭をツンツン引っ張る。銀髪がへんてこに結わえられている。カラフルな髪ゴムで。

「さっきあの子たちが」

人差し指の先には高校のヒエラルキーのトップ、読者モデル風女子たちが渚に手を振っていた。

「ふうん」

不機嫌そうなシンジ。

「逆らうと怖そうでしょ?」
「変な髪」
「なんで嫌そうなの?」
「僕嫌そう?」
「うん」
「君、自意識過剰」
「自意識過剰?なんで?」
「なんでも」

シンジは極めて興味ないという態度で自分の席へと戻っていった。

「チヤホヤされて楽しい?」

そして何かと渚につっかかるアスカが登場。

「これチヤホヤされてんの?」
「女子が群がってたじゃない」
「僕寝てたし」
「シンジには自慢気に話してたくせに」

渚は、別に自慢してたわけじゃないけど、と自分に言ってみる。でも、なんか、

優越感?

違う。もっと、こう、

「気にしてほしいの?」
「そう、あ」

心の声じゃなかった。

「あんたバカ?」

なんだかちょっと胸のあたりがヒヤッとする。見られたくない相手にパンツの中身を見られたような。

なんだろう、この感じ。


後日。

「何やってんの?」

たまに自分のしたことってブーメランみたいに跳ね返ってくる。

「さあ」
「さあじゃないでしょ」

シンジの黒髪をアスカがいじっている。ナナメに梳いてヘアピンでアレンジしている。

「流行ってるの。可愛くできた子が勝ち。ね〜」

クラスの女子たちが、ね〜、と鳴く。確かに、シンジは案外可愛く仕上がりつつあった。まるでボーイッシュな女の子みたい。

「やめなよ」
「嫌よ」
「やめろって!」

アスカの手を払う渚。ヘアピンが床に転がる。これにはシンジも大声を出す。

「何してるんだよ!」
「それはこっちのセリフだよ」

渚は彼らしくなく真剣に怒っていた。

「君自慢してるの?それとも優越感?」
「はあ?」
「僕の気を引きたいわけ?」
「はああ?」
「仕返ししてるんだ?」

シンジの顔が小さく火照る。

「君、やっぱり自意識過剰」
「へえ、とにかくそれ外しなよ」

渚がシンジの頭をつかんでピンを引っ張る。

「いたたたっ何するんだよ!」
「取ってよ」
「いたっ髪抜けるっ」
「早く取って!」

いつにない剣幕だからシンジは結局、最後のピンを外したのだった。渚の顔はほんのり赤くなっていた。やっぱり、らしくない。

「これで満足?」

それからシンジも張り合うくらいの剣幕で教室をあとにした。それでも渚は追いかけなかった。

シンジと渚は何度も何度も小さなじゃれ合う喧嘩をしたが、長期戦ははじめてだった。


ふたりが口を聞かなくなって一週間が過ぎた。

渚は落ち着きがなくなっていた。貧乏ゆすりが止まらない。シンジはずっと仏頂面だったが、感情を隠すのが上手な分、少し不機嫌モードくらいにしか見えなかった。

それが渚は気に入らなかった。彼のもともとゆるめのネジが外れてゆく。

ある時は、黒板一面に碇シンジと星の数ほど書き殴る。

ある時は、シンジのプリントで足の生えた紙飛行機を折る。いっぱい折る。

まるで小学生。けれど、シンジはスカートめくり宜しく体操服の短パンをずらされても絶対に反応はしなかった。ガン無視である。

渚は何やってんだろ…

でも心の中ではちょっと面白くなっていた。最初はイラついたけど、可愛いとも思う。なのに、

仲直りのきっかけって、難しい。

頭の中は渚でいっぱい。渚。渚。渚。いっぱいになりすぎて、一週間と一日目、ついに、

「渚!」

移動教室の時、シンジはケンスケを呼ぼうとして、違う名前を叫んでしまった。

「な、なに?!」

思いもよらない事態に渚は椅子からつんのめって立ち上がった。シンジはその失態が恥ずかしすぎて、一周まわって、冷静になる。

「…僕、行くから」
「僕も!」

慌てて渚は駆け出した。ふたり並んで歩いてゆく。黙々と歩く。

そしてそのだんまりを破ったのは、

「…渚と喧嘩しててもつまらないって思って」
「うん」
「ごめん」

シンジからだった。こんな風に素直に謝るなんて。

「僕もごめんね」

渚はものすごくドキドキして、シンジの横顔に手を伸ばした。黒髪を白い指先がすっと流す。

「こうすると可愛い」

耳に少しだけ伸びた前髪をかけて微笑む。シンジはとたんに頬っぺたを真っ赤にした。


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