無味乾燥と弁当男子
「ふーん、また引き分けだね」
昼休み、机の上に、弁当ふたつ。
「君のそれって…弁当っていうの?」
片っぽは潔い日の丸だった。
「食べものじゃん」
「そうだけど」
さっさと食べはじめる弁当主。
「それでいいの?」
「何が?」
「ご飯だけって味気なくない?」
「別に。梅干しあるし」
「でもさ…」
「しつこいな」
ズルじゃないし。渚がそう言おうとしたらシンジがそっぽを向いてしまった。
「どうしたの?」
「……」
「ねえ」
「しつこいな」
同じ言葉を返されてしまう。何ソレ、意味わかんない。
「シンジ君にもらった梅干しなかなかおいしいけど」
ハイ、無反応。だからムシャムシャと白米を食べる。梅干しの種を飲み込む。ごっくん。
ふたりはひょんなことから「毎日弁当をつくってきて続かなかった方が負け」という勝負をはじめた。決着はすぐにつくと思っていた。めんどくさがりの渚に続くはずがない。けれど。負けず嫌いの渚は一日目から奥の手を使ったのだ。
「うわ、真っ白っ」
白米弁当。もう21世紀なのに。
「お米に水入れてスイッチ押すだけで何日も食べられるなんて便利だよね」
「お米研いだの?」
「研ぐ?」
「うわ、」
元々渚が昼に何も食べないところからはじまったのだ。見てるとイライラする。だからシンジがエナジーチャージ系のドリンクゼリーを机に置いたら無表情でちゅーちゅー吸うだけ。食事というより補給。すごくイライラする。いっそ自分の弁当を渡そうかと思った。1人分も2人分も変わらないし。でも。どう説明すればいいのだろう。変に緊張してそれがもう、ものすごくイライラする。
だから競うかたちにしたのにあいつは白米弁当を持ってきた。嫌味のつもりでスーパーの梅干しを押しつけたら、今度は日の丸弁当を持ってきた。本末転倒だ。
「…体って栄養でできてるんだ」
そっぽを向いて食べるシンジがぶつくさと呟く。
「ビタミンとかミネラルとかタンパク質とか…バランスが大事なんだ」
「ねえシンジ君って」
シンジが目だけで振り向く。
「お母さんみたいだね」
「もういい」
なんで怒ってるの、無視しないでよ、渚がワアワアやかましい中、シンジはこけし顔で弁当のフタを閉じた。ごちそうさまでした。
心配した僕がバカだった。
けれど。
根のやさしいシンジである。
「アレ?」
翌日。昼休み、机の上に、弁当ふたつ。
「君のそれって…弁当っていうの?」
片っぽは潔い日の丸だった。
もう片っぽにはおかずばかり。
「君に言われたくない」
「あは!シンジ君ごはん忘れたの?君の負け?」
「違うよ。ちゃんとある」
いただきますとシンジはキンピラを箸でつまんだ。そして日の丸弁当を取って、ごはんをぱくり。
「あっ僕のごはん!」
「君のって名前書いてない」
じゃ、僕も。渚は報復とばかりに卵焼きを頬張った。
「おいしい?」
「うん」
もぐもぐとおいしそうに2口目に箸をのばす。
「君って料理の才能あるね」
そう言って3口目。大きい口は食べるのが早い。
「こんなの誰でもつくれるよ」
「僕はつくれないよ」
「ふうん」
「この茶色いのもおいしい」
「あっ唐揚げ大きい方取ったな」
「明日もこうしよっか」
自分のつくった料理をおいしそうに食べてくれている。そんな上機嫌な渚にドキッとして、シンジは不貞腐れた顔をする。
「仕方ないな」
2人分のおかずつくるのなんて大した労力じゃないし。
「別にいいけど」
ふたりで半分こって、悪くないし。
「あ、でも君の弁当はごはんとおかずがセットって言ったよね?ね?だからやっぱり君の負けでしょ?負けたらひとつだけ言うこと聞いてくれるって話だったよね?僕、君にキ」
「うるさい」
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