ハロー、素晴らしき世界!地球、聞こえますか?まだ火星人には会っていないDJアシラです。

本日はいよいよスペシャルインタビューをお送りいたします。人類初の火星と月との生電話!
それでは!A10神経の感度をぐぐっと上げてくださいませ。登場していただきます。ドゥルルルルルル…葛城調査隊特別監査役兼特務機関ネルフ副司令官、冬月コウゾウ氏です!

ーやあ、どうも。

冬月副司令、よくぞオファーを引き受けてくださいました。よろしくお願いいたします。

ー宜し、ク…

ではさっそく質問に入らせていただきますね。まず、これは第三新東京市の――

ーバヒィエ、ポ…

ん?

ーブババルエピロヲウィ…ズヴ…

もしもし?

ー…というわけでhjgjg…ポ?

あの…

ーボグコ発見したヌhjブヒjkgsj…

………

ーjsjk碇bゲンdhjsjドウはjhdlいぼwkf痔hjmk…プッ――ツー、ツー、ツー…

はい?…はい!冬月コウゾウ氏でした!どうもありがとうございました〜!

またの機会がありましたらよろしくお願いいたします。そしてこちらではネルフに正式に衛星の整備を申請しようと思います。予算は月に取られてばかり。火星はつらいよ。


雰囲気を変えて音楽の時間です。今日お届けするのはホワット・ア・ワンダフル・ワールド。ルイ・アームストロングのしゃがれた美しい声を思い出す方も多いでしょう。この曲は実に幅広く歌われていますね。自分の好みにあった歌声を見つけると、たとえあなたが涙に暮れて電話片手に誰の番号も押せないとしても、まるで遠くの友達に励ましてもらっているかのように、その曲はあなたに囁きかけてくれるでしょう。

それでは聞いてください。



この素晴らしき世界


僕にはわかる
木々の緑も赤い薔薇も
君と僕のために命を咲かせている
そしてひとり想う
この素晴らしき世界を

青い空を白い雲を見上げる
輝く祝福の昼
暗く神聖な夜
そしてひとり想う
この素晴らしき世界を

空には七色の虹
なんて美しいんだろう
行き交う人々の表情もそう
友達が握手を交わしこう言うんだ
「調子はどう?」
でも本当はこう言っている
「大好きだよ」

赤ちゃんの泣き声が聞こえて
僕は成長を見守る
彼らはより多くを学ぶだろう
僕の知りゆくことよりも
そしてひとり想う
この素晴らしき世界を

そう、ひとり想う
この素晴らしき世界を



絶体絶命の飛翔


雲よりも空に近い気がする。カヲルは息を呑むほどにそびえ立つ高層ビルの屋上にいた。見渡す限りの天空の摩天楼。靄がかかって仄暗かった。見下ろすと、遥か彼方に要塞都市の営みが血脈のように流れ、しかし彼には誰も居ないと感じられた。そしてひとりきり、冷たく照るアスファルトを行ったり来たり。途方に暮れる。

××

シンジはもう、笑うのをやめた。

カヲルとシンジは行きつけのカフェにいる。ふたりは十年来の親友。近すぎて見えないくらいだ。シンジはそんなことを想った。彼にはもうわからない。目の前の親友が、最近何かで悩んでいる。でも自分には何も告げず、ふと哀しそうに遠くを見たり、瞬きをして目を逸らしたり。そんなことを繰り返している。ほら、また伏し目がちで口元に指を当てて。ほとんど途方に暮れた顔。さっきまで、自分の話を聞いて笑ってくれていたのに。

「渚君」

「…何だい?」

「それ僕の台詞だよ」

どうしたの、と聞いてみる。優しく、僕がいるじゃないか、と微笑みかける。
けれどカヲルは黙ったまま、余計に困った顔をした。

××

雨雲に包まれたような陰鬱がビルを取り巻く。カヲルは落ち着きなく動き回った。どうしよう。どうしよう。困り果てる。時折、頬を不穏な湿った風が打つ。煽られて見渡せば、恐ろしくて堪らない。身を乗り出して雲の下の静謐に馳せる。飛び降りればどんな痛みが待っているだろう。僕は助からないかもしれない。カヲルは想った。けれど…

目を閉じれば、その先には、光があった。

××

瞳を閉じて深呼吸をするカヲルにシンジの胸はざわついた。その予感は言葉にならず、ひんやりと肌に伝わる。ゆっくりと赤い瞳が、シンジを捉える。

午後のテラスに新しい風が吹く。テーブルに放置され行き場を失くした指先に、カヲルのそれがそっと重なる。カヲルは音もなく身を乗り出した。

ふたりの手を軸に、世界は廻る。

××

足を踏み均し、覚悟を決めて。カヲルはもう振り返らなかった。全速力の助走。滞った空気を切り裂き、命の限り思いきり、高層ビルの屋上から飛び降りた。

果てしない飛翔。太陽に手を伸ばし――

墜ちてゆく。

疾風が彼を容赦なくいたぶる。もがくけれど手は何も掴めない。幾重の雲の闇の中、ただ独り。カヲルにはもう、何も見えない。

××

カヲルは時の流れに逆らうようにゆっくりと、シンジへと顔を近づけた。瞬間、シンジは戸惑う。驚きに睫毛を震わす。ずっと同じ季節を生きていた。それを永遠のように感じた。それでもいいと想っていた。それなのに。

“距離を測り名前を付ける。名前は付けられた者を縛り付ける”

シンジには、親友のその先がわからない。わからないものは怖い。それはきっと引き返せない。

カヲルは立ち止まった。そこには迷い子に似たシンジがいた。

××

がむしゃらに宙を掻く、墜落の途中。彼は結末を知っていた。地面に落ちるとどうなるかも。

『僕は君に会うために生まれてきたんだね』

でも、もう誤摩化しきれなくなっていた。想いを無視できなかった。

『渚君は大袈裟だよ…』

だからカヲルは奇跡を信じた。ただ、光を抱き締めたかった。

―僕はこのまま死んでしまうのだろうか…

全身を痛みが刺す。孤独がカヲルを真っ暗にする。

××

カヲルの眉が秘めた感情を滲ませて微かに動く。重なった指先が、その温もりが、シンジの手から離れてゆく。まだ間に合う。何もなかったという嘘は、いつかきっと長い歳月を経て、真実になる。

『渚君は大袈裟だよ…』

―でも…

シンジはカヲルを見た。泣きそうな顔のカヲルを。

『僕はもう、君のことしか考えられないんだ』

―それでいいのだろうか…

白い指先を追いかけて、手繰り寄せるシンジの指先。

―僕は…

まっすぐに向かい合う。同じように、頬を寄せる。

××

虚しく宙に投げ出されたカヲルの手を、誰かが掴む。雲が一陣の風に散る。輝きに目が眩む。見上げれば、光の中にシンジがいる。澄み渡る黄昏の空、ふたりで一緒に落下していた。

カヲルとシンジは見つめ合う。中間色の地平線。街が金紅橙に染まってゆく。陽がこっくりとビルの谷間に落ちてゆく。ふたつの体はくるくると舞い上がるよう。手を取り合い、互いの温もりを確かめる。

―ずっと、こうしたかった。

そうして互いに頬に触れた。光が溢れてゆく。プリズムが地平の走り、虹色の夕焼けへ連れてゆく。

―きっと、ずっと待っていた。

完璧に溶け合うよう。無数のガラス窓に囲まれて、夕陽を浴びて、キスをする。抱き締め合うと、もう離れられないとわかった。ふたりは旋回し、重力に逆らって、けれど果てしなく墜ちてゆく。そして空の向こうのその深淵から、いつまでも終わらない音楽を、聴いた。

この瞬間を忘れない。

××

ふたりはゆっくりと顔を傾けた。そしてまるでそれをずっと待っていたかのように、目を閉じて、唇を重ねた。辺りは黄昏に包まれて、世界はとても美しかった。



いかがでしたでしょうか。What A Wonderful World…なんて美しい響きでしょう。
アームストロングつながりで小話を。遠い昔、月に降り立った宇宙飛行士がその灰色の地平線から昇る青く輝く地球に感銘を受けた。その光景をアースライズと言います。火星にいる私には手に届かない青い惑星。そこに今日も、これを聞いてくれているあなたは生きているんですね。明日の天気は何でしょう?この錆びた惑星では雨ですら、奇跡です。

今日はここまで。あっという間でしたね。ここでお知らせです。シナプスのメンテナンスは定期的に。テレパシーはあなたの感受性が命です。感受性をツルツルに磨きましょう!

地球と火星を繋ぐ架け橋、DJアシラでした。そろそろ砂嵐が来そうだなぁ…


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