レッド・プラネットのメリディアニ基地局より遥々お送りしておりますピュアラブファンタジックプログラム。あなたの住んでいるブルー・プラネットが恋しいです。

この放送も第三回目になりました。只今の火星の気温はマイナス47℃。平均気温よりも4℃ばかり冷え込んでおります。支給される標準装備のプラグスーツで体温管理はばっちりですが、基地内はその必要がないくらいに温かです。

ここでお便りを紹介します。もちろんここは火星。高性能テレパシーで受け付けております。

ではさっそく。ペンネーム、メガネ軍曹さんから。

ーアシラさん、はじめまして。いつも欠かさず聞いております。

まだ三回目ですが、ありがとう!

ー実は僕の友達のN君とI君について、相談があります。僕はそのふたりと同じクラスでちょうど間の席に座っています。先日席替えがあったのです。
それで相談というのは、僕はどうやらふたりに見つめられているみたいなんです。五分とか生易しい時間ではありません。朝から放課後までもう、ずっとです。何故そんなことになってしまったのか自分でもよくわかりません。ちなみに僕のモテ期はまだ来てません。
僕はどうしたらいいのでしょうか。火星から客観的に見て、教えてください。

うむ。火星からお答えしよう。
まずは君が頭ひとつばかり後ろにズレてみるんだ。そして何かを悟ったら、席を交換してあげよう。すると君はメガネ軍曹から気の利くメガネになれるはずだ。健闘を祈る。

またのお便りをお待ちしてますね!

さて、このへんで曲紹介を。今回の楽曲はブック・オブ・デイズ。一歩踏み出す後ろにはそれまで歩んできた道のりがある。
それでは、聞いてください。



ブック・オブ・デイズ


ある日、ある夜、ある瞬間に
僕の夢が明日をつくるかもしれない
一歩踏み出し、下を向き、そしてためらい
東か西か、陸を越えるのか、海を渡るのか
そのひとつの道が僕の旅路になる
この道が僕の人生の記録になるかもしれない

くる日もくる日も
目の前には長い巡礼の旅が続き
夜を繰り返すたびに
僕の旅の物語は永遠に語られる

どんな日も、どんな夜も、どんな瞬間でも
僕の挑戦を邪魔することなんてできない
いつか舞い上がり、沈んで、そしてくじけて
僕は自分の人生を見つけるだろう、遥か彼方に
遥か彼方に

いつの日か、いつの夜か、いつの瞬間か
信じる夢を連れて
前に進み、またつまずき、よろめいても
広い海の向こうに新しい大地を見つける
そしてこの道は僕の旅路になった
この戦いは共に終わる、遥か彼方で
この時代は共に終わる、遥か彼方で
遥か彼方で



その背中に生えている祈りのかたち


シンジはもう何もかもが嫌になっていた。

お気に入りの鉛筆が真っ二つに折れてしまった。
小学校の校門で転んで膝を擦りむいた。
いじめっ子のトウジにゲンコツで殴られた。
お昼にお弁当をひとりで食べた。

だって昨日、唯一の友達の綾波が転校してしまったから。

こらえきれなくなって休み時間に掃除用具入れの隅で泣いていると、隣の席のアスカにそれを見られてしまった。その時は何も言わなかったけれど、明日みんなに言いふらすかもしれない。いつもシンジのことをバカと呼ぶくらいだから、きっとそう。帰り道、土手を歩いていたシンジは憂鬱な気持ちで肩を落とした。

「なんにもないや。」

何があったのかはわからないけれど。シンジの帰る家には父さんも母さんもいない。センセイには何をしゃべればいいのかわからなくて、何も言えない。かなしい、とも言えないのだ。

もっと大好きな星の話をしたい。
お弁当のウインナーは自分でタコさんにしたと自慢したい。
転んだ時は誰かに大丈夫って言ってほしい。
泣いている時は誰かに側にいてほしい。

「あ、」

きれいな石ころが落ちている。夕焼けみたいに橙色で澄んでいる。ほら見てよ、と言いたいけれど、隣には誰もいない。

嬉しいことはふたりで半分こにしたい。

シンジはそっと小さな手でそれを拾った。そしてそれを大事に抱えて歩き出した。けれど、立ち止まる。また歩き出し、立ち止まる。うつむいて、じっとしている。

ぽろ。ぽろ。こぼれる涙。もう、帰らなきゃ。けれど。帰っても、この石ころを見せるひとなんていない。誰かに見せて、きれいだね、と言ってほしいのに。シンジは自分が迷子になってしまった気がした。

「きれいだね。」

え、とシンジは顔を上げる。こころで描いたまんまの言葉。あたりを見渡しても、誰もいない。

「ここだよ。」

声は上から降ってきた。見上げると、木の枝にひとりの男の子が座っていた。

「やあ、はじめまして。」

「はじめまし…あ!」

シンジは思わず驚いて口を押さえた。ポロッと石ころは地面に転がる。木の上の男の子はとても高いところから、ふわりとシンジの目の前へと舞い降りたのだ。とても勇気のいる高さだった。

「君、天使なの?」

「僕の背中に羽根が見えるかい?」

男の子は可笑しそうに背中を見せた。そしてシンジの足もとにあるその夕焼け色の石ころをそっと拾った。

「だって、人間に天使の羽根は見えないもの。」

「信じるこころがあれば見えるかもしれない。」

シンジはその男の子をじっと見つめた。天使みたいにきれいだった。目をこらしてみると、なんだかふわふわした白いものが後ろで動いている気もする。

「見えた。やっぱり天使なんだね。」

「本当かい?」

クスクスと笑う男の子。シンジは何が何だかよくわからなかった。けれど手渡された石ころは、ちょっと温かくなっていた。

「僕は渚カヲル。君は?」

「碇シンジ。」

「明日、君の学校に転校するんだ。よろしくね、シンジくん。」

カヲルはシンジに手を差し出した。その手をぽかんと見つめるシンジ。ゆっくりと、おそるおそる、自分の手を差し出してみる。

「よろしく…」

そうしてふたりは握手したのだ。シンジは今まで初めて会ったひとと言葉を交わしたことなんてなかった。なのにカヲルとは自然とこうして笑い合える。なんでだろう。

「カヲルくん、」

シンジはさっきよりもちょっと緊張して、その名を呼んだ。

「これ、カヲルくんにあげる。」

そして、もうひとつの手の中にあるきれいな石ころをカヲルに渡したのだ。ふたりの両手が重なった。

「いいのかい?」

「僕、カヲルくんにあげたいんだ。」

シンジはカヲルが石ころを受け取ると、とても嬉しかった。カヲルも嬉しそうにシンジを見つめて笑っている。

「ありがとう。」

やさしい風が夕焼けに染まった草木の波を涼しげに奏でている。シンジはもう何もかもが嫌になっていたことなんて忘れていた。一緒に並んで歩くその足音も返ってくるその言葉も何もかもが幸せだった。そして、明日もカヲルくんに会えますように、と一番星に祈ったのだ。シンジにはまだまだ半分こにしたいことがたくさんあった。

「ねえ、カヲルくんって、星、好き?」



幼い頃は自分の周りが世界の全てでしたね。EnyaのBook of Daysでした。美しい調べは天からの贈り物のようですね。
酸化鉄の砂嵐にも負けないこのアンテナはネルフの特注品。火星補完計画によりこの星が緑に囲まれるなんて夢のまた夢のようです。今日も砂が荒れそうだ。愛するふたりに愛を込めて。シーヤ!


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