あなたのシナプスをロックオン!お久しぶりです。ボニー・メリディアニの時間です!

ああ、もう!何度もアンテナをピンと張ってくださった方々、ご心配お掛けいたしました。火星は先日まで砂嵐にすっぽり埋まっていたんですよ。私もこの赤い大地でついに果ててしまうのかと思いました。その点、ゼーレは本気出すとすごいです。ネルフの人工雨計画が不発に終わってもうダメかとなった時、ふと空を見上げると大きな人造人間のシルエット。とたんメリディアニ基地局の屋根は激しい雨粒に打たれました。スコールは三日三晩この惑星に降り注ぎ、ついに昨日、晴空に虹が架かりました。あの中には誰が乗っていたのでしょうか。ゼーレに取材してもノーコメントしか頂けず……この場を借りてお礼申し上げます。火星にいるすべての生命を代表して、どうもありがとうございました!

さてさて、今回選んだのは待ちに待ったこの曲。映画『美女と野獣』のテイル・アズ・オールド・アズ・ザ・タイムです。ビューティ・アンド・ザ・ビーストとも呼ばれています。この配給会社の作曲家は素晴らしいですよね。色褪せないメロディを生み出す名手たち。普遍的な表現の中に等身大の飾らない想いが綴られている。きっと人生のベストシーンに自然と流れる音楽があるなら、こういうメロウで美しいメロディなのでしょう。

それでは聞いてください。シナプスを澄まして、目を閉じて。



テイル・アズ・オールド・アズ・ザ・タイム


むかしむかしの物語
時がうまれたくらい遥か彼方
本当のことだよ
友達でさえなかったふたり
突然何かが思いがけずに
運命を変えた

ちょっとした変化
言葉にできないほどささやかで
ふたりとも少し臆病で
何の準備も出来ていなかった
美女と野獣

こんなことはなかった
こんなに驚きを感じることも
今まではなかった
こんなに確かな気持ちで満たされるなんて
太陽が明日も昇るように 確かなんだ

むかしむかしの物語
時がうまれたくらい遥か彼方
なつかしい旋律
ずっとある音楽のように
甘くほろ苦くて ちょっぴりおかしい
君と出会って変わってしまった
君を知ってしまったのは 間違いだった

太陽のよう
太陽が東から昇るように 確かなんだ
むかしむかしの物語
時がうまれたくらい遥か彼方
なつかしい旋律
言葉がうまれた瞬間ほど
なつかしい
美女と野獣




-------------------------------------------------------------

『満汐(ミチシオ)』リリスの教科書(上)より抜粋

死海文書(シカイモンジョ)より伝わるむかしむかしの物語。かつて白き月と黒き月は遠くの宇宙にありました。それがやがて白き月がやってきてファーストインパクト(※詳しくは5章ー3に後述)、黒き月の引力につかまり、現在のような連星となりました。白き月はアダム、黒き月はリリスと呼ばれています。ふたつは一緒に廻り、影響を受けて自転と公転を同期させています。つまり、互いに同じ面を向けているのです。

複雑な周回軌道を描いているので月に一度、ふたつはとても接近してしまいます。これを満汐節(ミチシオセツ)と呼びます。その時、互いが干渉してひとつの磁場の流れをつくります。わずかな時間、重なった厚い大気圏の一部で無重力状態になります。この期間を満汐時(ミチシオドキ)、場所を満汐帯(ミチシオタイ)と呼びます。今では時刻と場所を正確に計算して接近禁止命令が布かれますが、昔はいつどこでそうなるかわからずに事故が多発してしまいました。

何故なら、ふたつの星を形成している物質はそれぞれ電子が逆なのです。物質と反物質と呼ばれています。どちらを物質と呼ぶか反物質と呼ぶかはまだ長い争いの末に結論が出ていません。(それらについては厳密な情報規制のもと、あまり公には明かされておりません。)

物質と反物質は少しでも触れ合うと互いに打ち消し合い、とてつもないエネルギーを発生させて爆発します。アダムとリリスを吹き飛ばすには物質の生命と反物質の生命が手を繋ぐだけで充分と、そんな説が専門家の間では言われています。

アダムに住みし者とリリスに住みし者は接触してはならない。これは両星の平和協定と各星の憲法及び法律で厳密に定められています。これを満汐法(ミチシオホウ)と呼びます。

-------------------------------------------------------------



ねえ、小さいころ僕は不思議な絵本の世界を信じていたんだ。その世界は平らでね、空には太陽と月があったんだ。どっちも星の名前。よく覚えていないけれど、確か、月は僕らの近くを廻っていて、僕らは太陽の遠くを廻っていた。

月が輝くのはいつも夜だった。やさしい光が弱くって、照らしてくれるのは足もとくらい。でもとても綺麗な色をしていた。見上げれば見守ってくれているのがわかったんだ。

太陽が輝くのはいつも朝だった。その光があればどこだって明るい。でも眩しすぎてずっと見ることはできなかった。見上げなくてもあたたかさを感じられたんだ。

だからこれはこの世界ではないどこかの星のふたりだよ。夢を見たんだ。絵本で見た月と太陽と惑星の夢。でも夢じゃないと感じた。きっとこの宇宙のどこかに存在しているって。

僕らの星々ではふたりは出逢えないけれど、そこでは同じ平らな地面にふたりが立っていたんだよ。君と僕は一緒にいたんだ。でも、そこでもすぐに離れ離れになってしまう。切ないよね。夢でも僕らはずっと一緒にはいられないなんて。

それは一瞬だったんだ。せめて夢ではずっと一緒にいたかったのに。

最後に、僕は君にちゃんとお別れが言えなかった。君はまた会えるよって言ってくれた。信じたかったのに……夢から目覚めた僕は泣いていた。もう二度と会えないんだって。

ねえ、だから僕らはちゃんと約束をしようよ。
夢のふたりのようにならないように。次の満汐時にはあの時ふたり上げた両手でハイタッチするんだ。それで反物質とか無重力とか宇宙のいろいろな仕組みが崩壊して世界が壊れちゃってもいい。いいよね。きっと。

だってこの世界だって夢なのかもしれない。壊れた世界の終わりに君と一緒にいられるなら、それでいい。きっとまた別の僕が朝に目覚めて泣いちゃうかもしれないけれど、でも、今のような悲しいばかりの涙じゃない。

何も伝えられないまま、一歩も踏み出すことができなかった。だから僕は繰り返している。頭の中で何度何度も。もっといいやり方はなかったのかなって。もっと僕に賢い頭と勇気があったならって。

やさしくない世界に従ってきた。だから一度くらいわがままをしたっていいよね。

ああ、僕は混乱しているんだ。悲しい夢だったから。こんなことを真面目に思うのも朝のまどろみの中でだけ。5分後の僕は歯磨きをしながらきっと日常のことを考える。常識とか習慣とか面倒臭くてどうでもいいことばかり。

でも、本当にそれでいいのかな。寄せては返す満汐のように、気持ちをそのままにして大人になった僕からは何が生まれるんだろう。さっきから夢の中の僕がノックして叫んでいるんだ。それじゃこの僕みたいに本当のひとりぼっちになるって。

だから今日、僕は小さな反抗をすることにした。違う星に生まれて、反対の引力に支配されているふたり。重力のしがらみを超えて僕らはやっと自由になる。世界の掟に反して、触れ合って、きっと何もかもおしまい。

でもその瞬間は最高に綺麗なんだ。僕はそのすべてが輝いている一瞬に、君に伝えたいことがある。

それは太陽と月が重なるみたい。地上では世界の終わりくらい暗くて何も見えなくなる。でも考えたことある?その裏側で太陽の光が月まで届く時のこと。太陽を独り占めして月は何を想うだろう。そのキラキラした一瞬に目眩しながら月が願うのは、自分しかいない夜?自分だけいない朝?

朝と夜が一緒になったらどうなるの?
朝と夜が一緒に来たら世界は何色になるのかな。



ハロー、新しい世界! 詩訳
みちしおのうた




朝焼けに夢を採る、そんな遊びが小さい頃に流行った気がする。

僕はまだ空が紫色の時間に原っぱにいた。満汐節だから隣の星がよく見える。教科書で習ったひとつっきりの大陸が、地図を丸めたみたいにほんのり大気に透けている。お互いに持っている大陸はひとつだけ。僕の立っている大陸はネルフ。あっちの名前はゼーレ。リリス星にはネルフ、アダム星にはゼーレ、そんな数え歌があったっけ。

今はまだ空の半分の半分の半分くらいの大きさだけれど、2回目の今日になれば地面に落ちそうなくらい大きくなる。遠くの地図は逆さまの生活空間になって頭の上に迫ってくる。街並みが、人々が、見えてくる。

満汐時、小さな星々に住む人々は対岸にお互いを眺めるように近づいてしまう。ハロー、ハロー、手を振ると、ハロー、ハロー、手を振り返してくれる。混ざった空は貝殻の内側みたいな虹色で、お互いを引っ張って重力が無くなっていく。あの丘へ行けば体が浮き上がりそうなくらい。そう。友達のケンスケからこっそり教えてもらったその場所には昔からこんな噂がある。


満汐風ってめったに吹かない風があるんだ。
それに乗って思いきりジャンプすれば満汐帯まで行けるよ。
満汐時ぴったりには無重力になるから、
あっちの誰かとこっちの誰かが手を伸ばせばきっとハイタッチができるはず。


立ち入り禁止区域の看板をくぐって挑戦する子供たちは後を絶たない。だから大人の警備もだんだん厳しくなった。ケンスケは誰にも見つからない抜け穴を知っている。だから僕はこうしてのんびりと空を見上げられる。

僕は半年前、満汐時に不思議な少年を見つけた。ほんの一瞬、目の前をすっと通り過ぎていった。銀色の髪の毛で赤い瞳。僕とは違う白い白い肌の色。何色の血が流れているんだろう。写真で見たことあるアダム星の人たちは僕と変わらない感じがしたのに。彼は存在しないみたいに神秘的だった。

そして僕は昔好きだった絵本を思い出したんだ。

あの微笑みはどうやったらできるんだろう。やさしそうで、他の誰とも違う。太陽みたいなんだ。自意識過剰かもしれないけれど、僕のためだけにある笑顔だって感じがした。ああ、なんでだろう。彼のことが頭から離れない。彼をもう一度見たくて僕はずっとここにいる。もしかしたらまた会えるかもしれないから。

微妙な地軸の関係で満汐時に接近する場所は変わる。次に会えたのは2ヶ月後。彼は僕にやあって言った。そんな気がした。遠すぎて聞こえないのに。そして次の月には名前を交換した。またそんな気がしたんだ。

「僕はカヲル、君は?」

声は聞こえなかったけれど、

「僕はシンジ!」

そう叫んでいた。だから僕は彼をカヲルくんと呼んでいる。3ヶ月もそう呼んでいる。そう、それからずっと会えていない。僕には彼が生きているのか死んでいるのかさえわからない。ぜんぶひとりぼっちのこじれた僕の妄想かもしれない。だからケンスケには絶対に内緒なんだ。

僕はケンスケに嘘をついてここまでひとりでやってきた。2回目の今日、もうすぐ運命の時が来る。僕は思いきりジャンプして満汐帯まで行くと決めた。それでふわふわ浮かんで、もしかしてあっちの星に落下して、みんな爆発してしまうかもしれない(でもしょうがないじゃないか。そうしなければ何もできないんだもの)。ケンスケには悪いけれど、他に誰も僕のことなんて悲しむ人はいないだろうし、僕みたいなちっぽけな存在は爆発しても大したことないだろうから。でも……もしもカヲルくんが爆発しちゃったら、嫌だなって悲しくなる。本当にケンスケには悪いけれど。

僕はそんなに大胆な性格じゃなかったんだ。控えめに言っても自殺や革命なんて企むようなやつじゃなかった。


寝そべって空を見上げるともう地図は立体的。七色の大気の層の中で息吹が伝わってくる。月と太陽の話よりもおもちゃみたいに小さな対岸。本当に違う星だなと思う。ああ、もしも言葉遣いも違って意思の疎通が取れなかったらどうしよう。イントネーションが真逆ならまだいいけど、好きと伝えたくて嫌いと言うくらい違っていたら?

遠くから見ているから好きなんだ。
目と目を合わせて話しかけたらまったく違うひとかもしれないんだ。
届かないから憧れるんだ。

なのにどうして僕は手を伸ばしているんだろう。屈伸して踵を踏んでつま先をピンと伸ばして。知らない風を味方につけて舞い上がる。虹色の空を泳いで、君を見つけようとする。



__僕は闇夜を照らす月
__君は朝を呼ぶ太陽

__お互いを求めても
__重なれば、すべて泡のように消えてしまう

__きっと もう わかってる
__届かない存在が最も美しいことを

__違う運命に手をとられて
__交わることの許されない絆が
__ふたりの胸を焦がしている
__それは、誰も知ることのない秘密

__過ぎ去る刹那の風の中
__そっと横目で君を追った
__君は僕の残した影にそっとキスをした




小さい頃、朝焼けに夢を採ったことがある。

上昇しているのか落下しているのかわからなかった。なのに僕を包むのは、幸せな予感。予感のすべてに君がいて、僕は君のことをほとんど何も知らなかった。

僕たちは何の準備も出来ていなかった。出会うべきではなかった。何もかもが間違いだった。

もう最後だと思った。なのにどうしてあんなに幸せだったんだろう。切なくて泣きたくなるくらい嬉しくて、やさしい。そうだ、君との時間はやさしかったんだ。


“ 汐という言葉にはね、ちょうどいいという意味があるんだ。満汐には、ちょうどいいがいっぱいになるという意味があるのかもしれないね ”


・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・


シンジは迫り来る岸辺に銀色の輝きを見つけた。

もう迷うことはなかった。確かなものだけが体の中に宿っていた。定められた運命へと祈るようにただ前へ進むだけだった。

月と太陽はこんな気持ちだったのかな、と彼は思っていたのかもしれない。シンジの瞳に映るカヲルは懐かしかった。何度も知っているのに思い出せないみたいだった。何度も……そうだ、ふたりはいつだって反対の力に縛られている。この世界でだってこうして逆さまの重力に縛られて、お互いを見上げるばかり。

小さいころ、シンジは神さまになって画用紙に月と太陽を並べて描いた。知らない星の物語。ふたつは手を取り合って朝でも夜でもない時間を一緒につくりましたとさ。めでたしめでたし。

ならこんな物語もあっていいじゃないか。重力の鎖を外したらーー美しい銀色の髪を揺らして、昔からの、生まれるより昔からの友達がシンジを迎えにやって来た。孤独な彼に、もう大丈夫だよ、と言いに来た。柔らかい、そのシンジをまるごと包み込んでくれる笑顔で、ふたりを反対の地面に繋ぎ止める世界なんて壊してしまおうよ、と誘うのだ。

そしてシンジはこの後に及んで戸惑いながら言うだろう。そんなのは間違っているよ、自分たちのために世界を壊してしまうなんて、と。

でも、どんなに間違っていることでも譲れないものがある。そしてどんなに正しそうでも全力で反抗したいこともある。どうしようもない、引力のようにずるずると、逆らえない。好きな気持ちには。

対流のうねりが混ざり合う満汐帯。チャンスは一度きり。猛スピードの帯に乗れば指数関数のさじ加減で一瞬の無重力へ。ふたりは息ぴったりに指先を願いの先へ。

カヲルとシンジは何度目かのはじめましてを繰り返す。


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・


君は笑っていた。無重力に浮かびながら僕と同じように手を伸ばしていた。

ああもうすぐ。もうすぐ世界は終わってしまう。真っ暗闇の夜が来る。新しい朝の僕は笑っているのかな。泣いているのかな。

君と僕がハイタッチしたら世界は何色になるだろう。
指先がもうすぐ君に触れて、夜と一緒にはじまりの朝が来る。


「次の世界ではずっと一緒にいようね、約束だよ」


僕たちは何もかも同じだった。半分ずつの存在だった。古い世界は消えて無くなって新しい世界が生まれてゆく。夜と朝は、半分と半分は合わさると、ゼロではなくイチになれた。

ハロー、新しい世界!




Beauty and The Beastの挿入歌、Tale As old As The Timeでした。とてもロマンティックですよね。

普遍的な音楽はいつの時代にも心に響きます。そしてそれは愛のうたが多いですよね。このラジオを受信してくれている方々はあるふたりに心動かされてここまで辿り着いたんだと思います。愛と表現するには未熟でいびつでよくわからなくて頭が痛いけれど、それでもあれは確かに愛だった。その運命の糸がもつれて、切れそうで切れなくて、いつも私達はハラハラしています。そして祈ってしまいます。すべての終わりに愛があることを。

夢うつつに夢語り、DJアシラでした。次回もあなたにお会いできますように。火星より愛を込めて。


top



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -