地球、聞こえますか?火星のメリディアニ平原よりお送りしております、ボニー・メリディアニ。砂漠が目に沁みます。

メリディアニとは子午線のこと。境界線は哀しいくらい何事にもありますが、その最たるものは愛し合うふたりのそれではないでしょうか。特に心は目に見えないもの。だから相手を信じることしか私たちは出来ない。そうした心の壁を今の科学ではA.T.フィールドと呼んでおりますね。

第2回の楽曲は、ムーンリヴァー。甘い旋律で淡い記憶に想いを馳せる。思い出が埃を被るほどに輝くのは何故でしょうか。
かつて憧れた地へと旅立ち、気がつけばその地で故郷を懐かしむ。いつだって手に入れたいものはその手に届かないものなのかもしれません。

それでは遠く離れた火星より、愛を込めて。



Bedside Love Story
Worldwide Love Story 続篇



僕らが逃避行先に選んだのは名もない島の名もない川のほとりだった。そこにふたりの小さな家を建てて、慎ましいふたりきりの時間を過ごす。もうどれくらいだろう。僕らは時計なんて持ち合わせていなくって、時を知らせてくれるのは太陽と月くらい。日が昇り瞼を開ければカヲル君の綺麗な寝顔がすやすやと寝息を立てていて、日が沈み蝋燭の火を吹き消せば月光に照らされたカヲル君のやさしい笑顔が僕を求めて近づいてくる。今の僕らにはもう、愛を育むことくらいしか残されていなかった。とてもシンプルな繰り返しの毎日。けれど、それが僕にはたまらなく幸せなのだ。

「ほら、見てごらんよ。もうすぐだ。」

きっとカヲル君もそう。けれど君は僕から故郷を奪ったと思っていて、共犯だと信じている僕にはそれが、少しだけ、寂しい。ある日、カヲル君は言った。君の故郷よりも素敵な楽園をここに創ろう、と。そして小さなトランクケースから不思議な硝子管を取り出したのだ。中にはとろみのあるLCLが入っていて、カヲル君の血と混ぜるとそれは紫色に変化した。その紫色の液体を島じゅうに撒いていったカヲル君。それは木漏れ日の美しい季節だった。

「今度は何を見せてくれるの?」

僕らは今、満天の星空の下、大きな木の上に並んで座っている。ふたりの足元では月を浮かべた川面が煌めいている。カヲル君は僕を気遣ってそっと腰を抱いてくれた。身を寄せ合うととても温かい。うっとりするくらい、温かい。

鈴の音が聞こえる。僕らの頭上、無数に広がる枝葉の上、ホタルドリが明るいブルーに輝きながら鳴いている。僕が名づけた、カヲル君からのプレゼント。あの紫色には魔法が詰まっていたらしい。僕はこの前、不思議な黄色のリンゴを食べた。スイートポテトの味がした。

「あ!カヲル君!」

しばらくすると水面が大きく震えてきた。キラキラと何かが一面にうごめいた。

「すごい!」

そして一瞬にして、いっせいに魚たちが飛び出したのだ。小さな紙飛行機みたいに虹色のヒレをめいっぱいに広げて宙を泳いでいる。みんなして、同じ方角へと高く高く舞い上がっている。その目指す先は、月。

「渡り鳥みたいだ!きれい!」

「さあ、今度はどんな名前だろう、シンジ君。」

「んーと、ワタリウオ?ひねりがないかな?」

「ふふ、ちょっとね。」

「もう、名前って意外と難しいんだよ。」

僕らがそうしてじゃれていると、ホタルドリがそれぞれの巣へと羽ばたいてしまった。急にあたりが暗くなる。

「…ありがとう。」

そうして暗闇に紛れて伝える本当の気持ち。カヲル君はそれに答えるかわりに手探りで、僕の額へキスをくれた。

「僕たちもそろそろ帰ろう。」

もっとキスしてほしいから。けれど、

「シンジ君。」

僕を呼び止めるカヲル君。木の葉が月の光を隠し、おぼろげにしか君の顔が見えない。

「君は、本当に僕を選んだことを少しも後悔していないのかい?」

その声に僕の胸はキュッと痛くなる。

「僕は故郷と呼べる場所を持っていない。だから君の気持ちがわからないんだ。君は友人や家族を捨てなければならなかった。それはリリンにとって、とても苦しいことだろう?僕は君を苦しませているのだろうか。」

また、そんなことを言う。

「カヲル君。」

どう言えば君に伝わるのだろう。

「たまに、父さんは元気かなとか、友達は今頃何をしているのかなとか、考えるよ。でもね、」

僕はカヲル君のもうすっかり冷えてしまった手を握った。

「僕は今が一番幸せだよ。こんな穏やかな気持ちになれたのは初めてなんだ。カヲル君がいてくれれば僕はそれだけでいいんだ。だからきっと、僕は何度でもカヲル君を選ぶよ。だって、」

君に、届いてほしい。

「僕の居場所はいつだってカヲル君の隣だもの。」

君は今、どんな顔をしているのだろう。そんなことを思いながら、僕は手探りで君に、キスをした。



ムーンリヴァー


大きな月の川
いつか君を渡ってゆく
遠い夢をくれた君
そしてそれを破った君
何処へ行こうと僕は君と一緒

ふたりはさすらい世界を見る
こんなにもたくさんのものがあったなんて
でも結局は同じ虹の終わりに辿り着く
だからその角で待ってて
ハックルベリーフレンド
ムーンリヴァーと僕



あなたの胸にある懐かしい風景は何でしょうか。火星にもかつては大河があったという説があります。遠い未来に火星の川を懐かしむ人類が現れるかもしれませんね。もしかしたら、大昔にいたのかも。私の胸には地球の美しい海が広がっています。それではまた、同じヘルツで会いましょう。


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